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新薬の審査手数料を10年ぶりに値上げするPMDAの懐事情

更新日

製薬企業に“値上げの春”が訪れます。

 

医薬品医療機器総合機構(PMDA)は4月から、製薬企業に求める医薬品の承認審査手数料を全面的に引き上げます。新薬に限れば手数料の値上げは10年ぶり。一般的な新薬の場合、手数料は20%値上がりして2854万円に。製造設備に対するGMP適合性調査の手数料や、臨床試験などに関する相談の手数料も値上がりします。

 

値上げの背景にあるのは、PMDAの苦しい懐事情。承認申請の数が伸び悩んでおり、手数料収入が計画を下回っているといいます。

 

新薬は20%アップの2854万円に

政府は3月24日、医薬品医療機器総合機構(PMDA)が行う医薬品の承認審査に対して製薬企業が支払う手数料を引き上げる改正政令を閣議決定しました。

 

4月1日の承認申請分から適用される新たな手数料(一部)を表にまとめました。

医薬品の承認審査手数料の値上げ

新有効成分を含む新薬(希少疾病用医薬品は除く)の場合、従来2378万8100円だった手数料は475万7600円値上がりして2854万5700円となります。率にすると20%の値上げで、新効能医薬品や新投与経路医薬品や希少疾病用医薬品の審査手数料も同じように20%値上がり。適応拡大の審査手数料も20%引き上げられます。

 

後発医薬品とスイッチOTCの審査手数料は5%の値上げで、後発品は3万900円上がって64万9100円となります。

 

厚生労働省は手数料を引き上げる理由について「革新的な新薬の早期実用化を推進し、国民のもとへ届けるためには、今後も迅速かつ技術の高度化に対応した審査を行うことが必要で、これまで以上の体制強化やインフラ整備を必要とする」などと説明しています。

 

「世界最速」達成の裏で財政が悪化

海外で使える医薬品が日本で使えない。いわゆる「ドラッグ・ラグ」が顕在化したのを契機に、PMDAは審査体制を急速に拡充させてきました。2004年4月に256人だった常勤職員数は、16年4月には873人まで増加。その成果は、数字となって顕著に表れています。

 

各国の規制当局などが参加する国際機関The Center For Innovation In Regulatory Scienceの調査によると、PMDAは14年、米食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA)など世界の主要な規制当局を抑え、新有効成分を含有する新薬の審査期間で「世界最速」を達成。15年もその座を維持しました。06年には中央値で800日以上かかっていた審査期間は、15年には284日まで短縮。06年には当時世界最速だった米FDAに530日も遅れていましたが、あっと言う間に抜き去りました。

 

申請数伸び悩み 手数料収入が計画下回る

一方、その裏で進んだのが、審査部門の財政の悪化です。

 

そもそもPMDAの現行の中期計画(14~18年度)は、単年度では毎年赤字が出ることを前提とした予算計画となっています。PMDAには前の中期計画終了時点で積立金がかなりの額に膨らんでおり、これを取り崩して収支の均衡を取ることにしていたためです。国は独立行政法人に多額の積立金が積み上がることをよしとしていません。PMDAは今の中期計画が終了する18年度に積立金を使い切った上で、19年度に審査手数料を引き上げることを計画していました。

 

ところが、積立金は想定を上回るペースで減少。昨年11月に開かれたPMDAの運営評議会には、積立金は17年度中に底をつき、18年度には36億円の累積赤字に転落するとの見通しが示されました。

PMDA 審査部門の財政見通し

PMDAの審査部門の収入(16年度予算ベース)は、国からの交付金(収入全体に占める割合=8%)と製薬企業からの審査手数料(89%)、その他雑収入(3%)で成り立っています。財政見通しが急激に悪化したのは、承認申請の数が伸び悩んでおり、審査手数料が当初の計画を下回っているため。PMDAはその背景を、▽ドラッグ・ラグが解消され、厚労省から製薬企業への開発要請が減った▽開発コストが高騰しており、創薬環境がよくない――と分析しています。

 

確かに、PMDAの決算を見てみると、14年度は手数料として110億1200万円の収入を見込んでいたのに、実際は100億6640万円にとどまりました。15年度も、予算109億5200万円に対して108億8479万円。PMDAの財政は、収入の大部分を依存している製薬企業、特に新薬の開発動向に大きく左右される、そんな構造になっていることが分かります。

 

製薬企業に“値上げの春” 相談手数料に安全対策拠出金も

今回の手数料引き上げによってPMDAの財政は改善に向かう見通しですが、今の中期計画では常勤職員数を18年度末に1065人まで増やす計画です。財政の悪化でペースは落ち、計画達成の時期は先送りされる見通しですが、PMDAはさらなる審査体制の拡充に向けて増員の旗は下ろしていません。電子データを活用した承認審査や、医療の高度化に対応した専門性の深化も求められており、人件費をはじめとする費用が増えるのは間違いありません。

 

PMDAの審査部門では、今回の審査手数料の引き上げに合わせて、製造所がGMPに適合しているかどうかを調べる「PMDA適合調査」の手数料や、臨床試験などに関する企業からの相談にアドバイスをする「対面助言」の手数料も引き上げます。

 

対面助言の手数料では例えば、申請前相談が1件当たり741万9900円(123万6700円増)、事前評価相談(臨床第2相/第3相試験)が862万2300円(143万7000円増)といった具合に値上がりします。

 

加えてこの4月からは、医薬品の安全対策にかかる費用を製薬企業が負担する「安全対策等拠出金」を算出する際の係数も引き上げます。企業の負担額は医薬品の出荷額をもとに算出されますが、後発品の普及で出荷額全体が減少し、拠出金収入も減少する見通し。厚労省は「必要な財源の安定的な確保を図る」としていますが、製薬企業にとってはまさに“値上げの春”となります。

 

国がもっと負担すべき?

受益者負担の原則からすれば確かに、承認審査の費用を製薬企業が負担するのは当然とも言えます。

 

一方、製薬業界側からは「PMDAの公共的性格を鑑みると、運営資金の大部分を民間が負担していることは不健全な状況だ。経費の効率化に加え、国からの予算の充実により一層の努力を」(日本製薬団体連合会の多田正世会長)といった声も。運営評議会の委員からも「これだけ公的なお金が少なくていいのかという議論はあっていい。国の事業としてやる以上、財務省ももっと理解があっていい」との意見も出ています。

 

極めて公共性の高い事業を行っている一方で、その費用のほとんどを民間企業に依存している。苦しい懐事情には、PMDAが抱えるジレンマが表れていると言えるでしょう。

 

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