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アルツハイマー新薬、フェーズ3の高い壁…過去16年、成功確率わずか3.1%

更新日

新薬への希望は、またしても失望に変わりました。

 

米イーライリリーは11月23日、アルツハイマー型認知症を対象に開発を進めてきた抗アミロイドβ抗体ソラネズマブについて、軽度患者を対象とした臨床第3相(P3)試験で主要評価項目を満たすことができなかったと発表。7月には、シンガポールのTauRxセラピューティクスが、タウタンパク質を標的としたアルツハイマー病治療薬のP3試験に失敗しました。

 

世界的に患者増が予想される中、いまだ治療法の限られるアルツハイマー病。アンメット・メディカル・ニーズの高い疾患の代表格で、より根治的な疾患修飾薬の登場が待たれていますが、そこにはP3試験の高い壁が立ちはだかっています。

 

 

ソラネズマブ、2度目のP3試験失敗

「ソラネズマブのEXPEDITION3試験の結果は期待とは異なるものだった。何百万人もの方々が、有望なアルツハイマー病の疾患修飾薬の登場を待っていることを考えると、大変残念に思っている」

 

米イーライリリーは11月23日(現地時間)、軽度のアルツハイマー型認知症を対象とした抗アミロイドβ抗体ソラネズマブの臨床第3相(P3)試験「EXPEDITION3」で、主要評価項目を達成することができなかったと発表しました。同社のジョン・C・レックライター最高経営責任者(CEO)はプレスリリースでこのようにコメント。試験結果に失望を隠しませんでした。

 

EXPEDITION3試験は、軽度のアルツハイマー型認知症患者2100人以上を対象とした国際共同P3試験。ソラネズマブはプラセボとの比較で、統計学的に有意な認知機能の低下抑制を示すことができませんでした。米リリーは試験結果を受け、軽度アルツハイマー型認知症を対象としたソラネズマブの承認申請を見送ることを決めました。

 

ソラネズマブがP3試験に失敗するのは、今回が2度目。2012年8月には、軽度から中等度の患者を対象とした「EXPEDITION1」「EXPEDITION2」の2本のP3試験で、認知機能と日常生活機能に関する主要評価項目を達成することができなかったことが発表されました。

 

両試験では、軽度患者で認知機能低下の進行抑制が確認されたことから、米リリーは軽度患者に絞った追加のP3試験を実施。それが、今回失敗となった「EXPEDITION3」でした。

 

タウ標的の新薬もP3で主要評価項目達成せず

アルツハイマー病の根治につながると期待される疾患修飾薬。世界中の製薬企業がこの分野に投資を行い、激しい開発競争を繰り広げています。

 

アルツハイマー病の発症の仕組みは明らかになっていませんが、患者の脳には特徴的な所見が現れることが分かっています。1つは、異常なタンパク質であるアミロイドβが蓄積してできる「老人斑」。もう1つが、タウと呼ばれるタンパク質が凝集してできる「神経原繊維変化」。これらが神経細胞を死滅させることでアルツハイマー病を発症するという仮説が有力で、新薬開発もアミロイドβやタウを標的としたものが主流となっています。

 

ところが、有望と期待された新薬は、ことごとくP3試験の高い壁に跳ね返されています。

 

ソラネズマブが最初のP3試験に失敗したのとほぼ同じ時期の12年夏、米ファイザーも抗アミロイドβ抗体バピネオズマブのP3試験で主要評価項目を達成することができず、開発を断念しました。

 

16年7月には、シンガポールのTauRXファーマシューティカルズが、タウタンパク質をターゲットに開発中の「LMTX」について、軽度または中等度の患者を対象としたP3試験で主要評価項目を達成することができなかったと発表。タウタンパク質を標的としたアルツハイマー病治療薬がP3試験にこぎ着けたのは「LMTX」が初めてだっただけに、試験失敗の知らせは世界中に大きな衝撃を与えました。

 

127分の123は開発中止 承認はわずか4剤

アルツハイマー病に対する新薬の開発は、期待が大きい反面、極めて難しいのが実情です。

 

米国研究製薬工業協会(PhRMA)が15年7月に公表した報告書によると、PhRMA会員企業が1998~04年に臨床試験を行ったアルツハイマー病治療薬127剤のうち123剤が開発を中止。承認取得に至ったのはわずか4剤で、成功確率はわずか3.1%(臨床試験に進まなかったものは含まず)でした。PhRMAによると、臨床試験に入ったすべての医薬品のうち、米FDA(食品医薬品局)から承認される割合は12%。アルツハイマー病治療薬の成功確率の低さは際立っています。

 

PhRMAは報告書で、アルツハイマー病治療薬の開発が困難な理由をいくつか挙げています。

 

▽疾患の根本的な原因とメカニズムが分かっていない。(老人斑や神経原繊維変化など)疾患の特徴的な分子特性の多くが、原因や進行の兆候かどうかは不明。この科学的知識のギャップは、新薬の標的の特定と選択を困難にしている。

▽前臨床モデル(動物モデルなど)に限界がある。前臨床試験を容易にし、ヒトでの薬物の効果をよりよく予測するには、より良いモデルが必要。

▽疾患の存在と進行を同定するための有効で非侵襲的なバイオマーカーが存在しない。このため、臨床試験で患者の評価、登録、維持、フォローアップが困難になり、効果を評価するのも難しい。

 

報告書では、こうした課題を克服することが、アルツハイマー病に対する創薬の成功に不可欠だと指摘しています。

 

根本治療へつなぐ望み

「リリーは、これまで30年近く取り組んできたアルツハイマー病の研究にこれからも変わらず貢献していく。われわれのポートフォリオには、ほかにも有望な開発品が含まれている」

 

米リリーの科学技術担当エクゼクティブ・バイスプレジデントのヤン・ルンドバーグ氏は、ソラネズマブのP3試験失敗を発表したプレスリリースでこうコメントし、引き続きアルツハイマー病治療薬開発に投資を続けていく方針を示しました。米リリーのパイプラインには、ソラネズマブのほかにも、英アストラゼネカと共同開発するBACE阻害薬など、5つのアルツハイマー病治療薬が控えています。

 

日本では、MSDがBACE阻害薬「MK-8931」のP3試験を実施中。BACE阻害薬は、アミロイド前駆体タンパク質のβサイトを切断する酵素の働きを阻害することで、アミロイドβの蓄積を防ぐ効果が期待されている薬剤です。アストラゼネカとリリーのBACE阻害薬「AZD3293」は、日本でもP2/3試験が進行しています。中外製薬の抗アミロイドβ抗体「RG1450」もP3試験を実施中です。

 

日本国内で開発中のアルツハイマー病治療薬

 

海外では、エーザイのBACE阻害薬「E2609」がP3試験の段階に。日本も国際共同P3試験に参加している米バイオジェンの抗アミロイドβ抗体aducanumabも、これまでの臨床試験で良好な結果を出しており、期待が高まっています。これら2剤はいずれも米FDAから、アンメット・メディカル・ニーズを満たす可能性のある薬剤の承認審査を迅速化する「ファスト・トラック」に指定されています。

 

Don’t Give Up Hope Yet After Latest Alzheimer’s Drug Setback――。ソラネズマブのP3試験失敗を受け、米ブルームバーグはこんな見出しの記事を配信しました。製品化には高い壁が立ちはだかるアルツハイマー病治療薬ですが、製薬各社は積極的な研究開発投資を続けています。患者や家族のみならず、社会が待ちわびるアルツハイマー病の根本治療は実現するのか。希望を捨てずに見守っていきたいと思います。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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