MR認定センターの「2016年版 MR白書」がまとまりました。
15年度末(16年3月31日)現在のMR数は6万4135人で、前年度から522人減りました。MR数が前年割れするのは2年連続。大型製品の減少や後発医薬品のシェア拡大といった市場環境の変化に加え、訪問規制やITの普及によりMRのあり方も変わりつつあると言えそうで、本格的なMR減少時代の到来を予感させます。
2年連続の減少は初 管理職も減少著しく
MR認定センターが毎年まとめている「MR白書」によると、日本国内のMR数(製薬企業のほか、CSOや医薬品卸売業者に所属しているMRを含む)は2000年度以降、ほぼ右肩上がりで増え続けてきました。活発な新薬発売を背景に、02年度には初めて5万人を超え、10年度には6万人を突破。12年度は前年度比29人(0.05%)減とわずかに減少したものの、13年度は再び増え、過去最高となる6万5752人に達しました。
2年で1600人余り減少
潮目が変わったのは14年度。それまでの増加傾向から一転、前年比で1095人(1.7%)減り、6万4657人に。15年度はさらに522人(0.8%)減少して6万4135人となりました。2年連続でMR数が減少するのは初めて。この2年間で1617人減っており、減少傾向が鮮明になっています。
管理職1人あたりのMR数は8人に上昇
管理職(支店長、部長、営業所長、課長、マネージャー)の減少はMR以上に顕著です。
15年度の管理職数は8033人で、前年度から626人(7.2%)減少。14年度の減少分(353人、3.9%)を加えると、2年間で1000人近く、率にして1割以上減りました。
管理職の減少に伴い、管理職1人あたりのMR数は増加。10年前の06年度は管理職1人あたり6.6人でしたが、15年度は前年度から一気に0.5人増えて8.0人になりました。
市場環境やMR業務の変化が背景に
日本の医療用医薬品市場ではここ数年、生活習慣病治療薬などの大型製品の発売が減る一方、後発医薬品の普及が進み、長期収載品の売り上げが急速に落ちるなど、大きな環境変化に直面しています。新薬の販売にかつてほど多くのリソースを割く必要がなくなった上、長期収載品を同業他社に移管したり、CSOに任せたりといった動きもあり、特に新薬メーカーはこれまでのように多くのMRを抱えておく必要がなくなりました。
ここ数年では、主力製品の特許切れに合わせて営業組織をスリム化させる動きが外資系企業を中心に強まっています。15年度のMR数は、内資製薬企業でほぼ横ばいだった一方、外資製薬企業では408人減少。リストラでMRが供給過多となったことからコントラクトMRの活用も減り、CSOのMRも153人減少しました。CSOのMRが減少したのは初めてと言います。
加えて、医療従事者に対する接待行為の規制や医療機関の訪問規制強化、e-ディテーリングの普及などにより、MR業務のあり方に変化が起こっていることも、MR数減少の大きな要因です。メディカル・サイエンス・リエゾン(MSL)の普及も進む中、MRの業務のあり方にも変化が求められています。
6割の企業が新卒採用行わず 中途採用は増加
こうした変化は、採用にも影響を及ぼしています。
MR認定センターに登録している企業全207社のうち、新卒採用を行わなかった企業は52.2%。新卒採用を行った企業はこの2年間、減少を続けており、新卒採用を絞り込もうとする各社の姿勢が見て取れます。
新卒採用を行わなかった企業は外資製薬企業で多く、その割合は57.8%。内資企業では45.5%で、もともと中途採用の多いCSOは9割以上が新卒採用を行っていませんでした。前年度と比べると、新卒採用を行わない企業の割合は内資、外資問わず増加しています。国内市場の低迷や薬価制度改革による経営の予見性の低下といった理由から、新卒採用に対して慎重な姿勢は強まっています。
企業規模別に見ると、MR数1000人以上の企業や、MR数500~999人の企業では9割以上が新卒採用を実施。一方、MR数99人以下の企業では約8割、100~299人の企業では約4割が新卒を採用していませんでした。
一方、中途採用は64.3%の企業が実施。前年と比べると4.2ポイント増えました。
中途採用者の前職で最も多いのは製薬他社のMR(83.5%)。コントラクトMRは48.1%、卸関係者が21.1%、他業界が20.3%と続きました。前年度との比較では、製薬他社のMRが8.1ポイント増えた一方、コントラクトMRは4.4ポイント、他業界は7.6ポイント減りました。リストラによって製薬企業を退職したMRが、転職市場に多く流れ込んだことが影響しているのでしょう。
女性MRは一貫して増加、管理職は10年で7.5倍に
MR数が全体として減少する中、女性の数は一貫して増加を続けています。15年度も男性は前年から577人減りましたが、女性は55人増加。06年に10.7%だった女性MRの比率は、15年度には14.3%まで上昇しました。
女性MRは数だけでなく、その地位も向上させています。15年度に女性管理職を擁する企業は、調査対象207社の25.6%で、前年度に比べて1.5ポイント上昇しました。人数は196人で、前年度(140人)から40.0%増加。06年度と比べると7.5倍に増えました。
ただし、女性の管理職登用は内資と外資で大きな差があります。外資で女性管理職のいる企業は全体の55.6%と半数を超えているのに対し、内資では15.2%。女性管理職196人のうち外資に所属するのは139人(前年度比59人増)と7割を占め、内資は47人(4人増)にとどまります。
接待行為の規制により、以前に比べると女性MRも働きやすくなった一方、勉強会や講演会が増えて拘束時間が長い状況は変わっていないとも言われます。女性MRに占める40歳代以上の割合はわずか3.1%で、男性の48.4%と比べると極端に低いのが現状。女性がライフイベントを乗り越えてMRを続けることの難しさを物語っています。
「適正数」と「業務のあり方」模索続く
MRは医療コストの一部とも言われ、6万人を超えるMRが本当に必要かという議論は常にくすぶっています。市場環境の厳しさが増していることに加え、薬剤費への削減圧力が今後MR数をさらなる減少に向かわせるかもしれません。
また、多くのMRが存在する今の状況は、過当な競争も生んでしまいがち。16年度薬価制度改革をめぐる議論では、中央社会保険医療協議会(中医協)の薬価算定組織が
「情報伝達手段の発達や訪問規制などによりMRの活動内容や必要性が変化する中、過剰もしくは不適切な営業・宣伝活動によって薬価制度自体に無用な疑念を生じさせることのないよう、製薬企業には真に医療に貢献する活動を求めたい」
と、異例の意見を出しました。昨年9月に厚生労働省がまとめた医薬品産業強化総合戦略も、
「今後MRの活動内容や必要性が変化することが予想され、それぞれの企業の社会的な役割を踏まえた業務の集中と選択が求められるのではないか」
と指摘しています。
MRは今、数の面からも、役割の面からも、大きな岐路に立たされていると言ってもいいでしょう。適正なMR数とその配置、そしてMR業務のあり方をめぐり、製薬企業の模索は続きます。