国立がん研究センターは7月21日、がん患者の5年生存率の最新推計データを公表しました。2006~08年にがんと診断された人の5年生存率は62.1%で、03~05年に診断された人と比べて3.5ポイント上昇。初めて60%を超えました。
そこで気になるのが、治療薬との関係。新薬の承認数と5年生存率の上昇幅を照らし合わせてみました。
上昇する5年生存率、部位別・男女別で大きな差も
国立がん研究センターがん対策情報センターが発表した最新のがん5年生存率(2006~08年診断症例)は62.1%となり、前回(03~05年診断症例)に比べて3.5ポイント上昇しました。性別で見ると、男性は59.1%(前回比3.7ポイント増)、女性は66.0%(3.1ポイント増)。過去の集計と比べると、男女とも5年生存率は上がっており、全体としても年々上昇しています。
「5年生存率」とは、ある疾患と診断された患者が5年後にどれくらい生存しているかを示す値です。国立がん研究センターが公表している生存率の集計では、がん以外の死亡の影響を除くため、日本人全体の5年後の生存率に比べて、がん患者の5年生存率がどれくらいかを示す「5年相対生存率」という値を用いています。記事中では便宜上、「5年生存率」と表記しますが、この数値が高いほど治療で生命を救えるがん、低いほどそれが難しいがんであるということを意味しています。
最新の5年生存率を男女別・部位別に見ていくと、5年生存率の高い(70%以上)がんは、男性では前立腺がん、皮膚がん、甲状腺がん、膀胱がん、喉頭がん、結腸がん、腎・尿路がん(膀胱がんを除く)。女性では、甲状腺がん、皮膚がん、乳がん、子宮体がん、喉頭がん、子宮頸がん、直腸がんで生存率が高くなっています。
逆に、5年生存率が低い(40%未満)がんは、男性の場合、白血病や多発性骨髄腫、食道がん、肝臓・肝内胆管がん、脳・中枢神経系がん、肺がん、胆のう・胆管がん、膵臓がん。女性では、脳・中枢神経系がんや多発性骨髄腫、肝臓・肝内胆管がん、胆のう・胆管がん、膵臓がんでした。膵臓がんの生存率の低さは突出しており、肺がんや食道がんでは男女で生存率に大きな差があります。
治療法改善の影響とは言えない?
国立がん研究センターは、今回の集計で5年生存率が上昇したことについて、「前立腺がんや乳がんなど予後のよいがんが増えたこと(部位構成の変化、罹患年齢構成の変化)などの影響も考えられ、部位別・進行度別の詳細な分析なしに治療法の改善などが影響しているとはいえない」とコメントしています。5年生存率の高いがんが増えたことで、全体の生存率が引き上げられたのかもしれない、ということです。
ところが、最新の5年生存率を部位別に過去と比較して見ると、ほぼ全てのがんで生存率が上昇していることが分かります。
例えば、最新のデータでも5年生存率の低いがんの1つとなっている白血病は、1993~96年に診断された患者に比べて6.9ポイント上昇。肺がんは9.4ポイント、肝臓がんは11.4ポイントも上昇しています。部位別に見てみると、治療法の改善が影響しているとは言えない、とも言えない状況が見えてきます。
新薬承認の多い白血病や悪性リンパ腫で生存率が大きく改善
そこで、5年生存率の増減と治療薬の承認数を部位別に照らし合わせ、プロットしたのが下のグラフです。
治療薬の承認数は、日本製薬工業協会の「承認取得品目データベース」から該当する部位の承認品目(適応拡大や用法・用量の追加などを含む)を抽出。データベースが2000年度以降に承認を取得した品目を対象としているため、5年生存率の増減は2000~02年と06~08年を比較して算出しました。承認数もこれに合わせ、08年から5年後の13年度までに承認を取得した品目を対象としています。
グラフを見てまず目につくのが、治療薬の承認数が多い白血病や悪性リンパ腫で5年生存率が大きく改善している点です。
白血病では集計対象期間中に、「グリベック」や「タシグナ」「スプリセル」「アーゼラ」などが承認。悪性リンパ腫では「リツキサン」や「トレアキシン」などが承認され、いずれも予後の改善に大きく貢献しました。「レブラミド」や「ベルケイド」(未治療患者への適応拡大)などが承認された多発性骨髄腫も比較的、治療薬の承認が多く、5年生存率の上昇も大きいがんです。
新薬多い肺がんの上昇は小幅
一方、治療薬が多く承認されても、生存率の上昇幅が比較的小さいがんもあります。肺がんでは「イレッサ」や「タルセバ」「ザーコリ」が新薬として承認され、「ティーエスワン」や「アバスチン」など多くの治療薬も使えるようになりましたが、生存率の上昇は2.9ポイント。治療の難しさが表れています。
生存率の上昇には、検診の普及による早期発見や手術など薬物療法以外の治療法の改善も関係しており、治療薬の承認数のみで語れるものではありません。例えば、治療薬の承認が比較的少なくても生存率が6ポイント近く伸びた肝臓がんでは、がんを焼き固めて死滅させるラジオ波治療が効果を上げていますし、前立腺がんではPSA検査の普及により早期発見が可能となっています。
グラフの左下(生存率の増加が小さく、治療薬の承認も少ない)に多くのがんが集中していることからも分かる通り、がんは依然としてアンメット・メディカル・ニーズの高い疾患です。さらなる治療薬の開発が望まれます。