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後発品の“数量”を増やしても医療費増加の解決にはならない!?―新薬発売で起こる後発品からのシフト

更新日

「2020年度末までに使用割合80%以上」という目標に向かって、後発医薬品の普及が進む日本の医薬品市場。あの手この手の使用促進策が打ち出され、数量ベースの使用割合は昨年9月時点で56.2%に達しました。

 

一方で、後発品の使用促進が医療費削減にどれほど効果があるのかは、必ずしも明確ではありません。事実、使用割合は上昇しているものの、薬剤費は増加の一途をたどっています。そんな中、新薬が発売されれば、それまで後発品を処方されていた患者でも新薬にシフトするとの研究結果も発表されました。

 

国は数量ベースのシェアを指標に使用促進を図っていますが、「数量目標を達成したとしても、根本的な薬剤費の解決にはならない」といった指摘も出ています。

 

 

糖尿病患者は10%超が後発品から新薬に

新薬が発売されると、それまでずっと後発品を処方されていた患者でも、新薬へのスイッチ(切り替え)やアドオン(上乗せ)が起こる――。こんな研究結果を、医療経済研究機構の清水沙友里・主任研究員がまとめ、4月22日に開かれた同機構の研究報告会で一部を発表しました。

 

清水研究員は、日本調剤の調剤レセプトデータをもとに、後発品から新薬への処方の変化を調査。対象とした疾患と薬剤は

高血圧症
ACE阻害薬、Ca拮抗薬、ARB、配合剤(ARB+利尿薬、ARB+Ca拮抗薬、Ca拮抗薬+スタチン)

脂質異常症
スタチン、フィブラート系薬、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬、その他

糖尿病
SU薬、チアゾリジン薬、αグルコシダーゼ阻害薬、速効型インスリン分泌促進薬、DPP-4阻害薬、SGLT-2阻害薬

で、各年度の上半期(4~9月)に後発品だけが3ヶ月以上処方されていた患者のうち、下半期(10~3月)に新薬が処方された患者の割合を調べました。

 

その結果、後発品から新薬へのスイッチやアドオンがあった患者の割合は、2011年度で高血圧症が2.9%、脂質異常症が1.9%。09~10年にDPP-4阻害剤の発売が相次いだ糖尿病は12.3%に上りました。12年度、13年度もほぼ同様で、清水研究員によると、いずれの疾患でも新薬の発売から時間がたつにつれてスイッチやアドオンの割合は減少する傾向にあったといいます。

 

後発品から新薬へのスイッチ・アドオン率

 

計算式から新薬除外、スイッチを後押し?

新薬が発売されると、それまで安定的に後発品が処方されていた患者も一定程度が新薬にシフトすることが明らかになったわけですが、臨床の現場からすれば必要に応じて新薬に移ることは当然のことと言えます。

 

研究報告会では、発表を聞いた医師から「新薬は(既存薬に比べて)副作用が少なくなったり、よく効くようになったりしているものが多い。(例えば)SU薬からDPP-4阻害剤に変わるのはいいことではないか」という意見が出ました。

 

これに対して清水研究員は「新しい薬に移るのは当然だが、それでは何のために後発品の使用促進をしているのか」と問題提起。後発品の数量シェアを算出するための計算式が、

後発品÷(後発品のある先発品+後発品)

に見直され、新薬を使っても数量シェアが下がらなくなったことから、「数量目標を達成したとしても、薬剤費増加の根本的な解決策にはならないかもしれない」と数量シェアを追い続けることの矛盾を指摘しました。

 

数量シェアを増やしても焼け石に水?

後発品の使用促進が医療費削減に与える効果については、これまでも日本医師会などから懐疑的な意見が出されてきました。国は数量シェアの向上に力を入れていますが、それによる医療費の削減額は明確には示されていません。

 

事実、後発品の数量シェアは増加しているものの、薬剤費は減るどころか増加の一途をたどっています。相次ぐ高額薬剤の登場や高齢化が薬剤費を押し上げています。

 

金額ベースで語らなければ意味がない

下の2つのグラフは、薬価収載からの期間別にみた医薬品の使用割合の動向です。

 

薬価収載日からの期間別使用割合

 

上の数量シェアのグラフを見ると、後発品の使用割合が大きく伸びている一方、新薬の割合が減少しているように見えます。ただ、下の金額シェアを見ると、後発品の伸びは小さく、新薬のシェアは数量ベースで見るよりもウェートが大きいことが分かります。

 

後発品の使用促進の目的は、数量シェアの向上ではなく、医療費の削減であることは言うまでもありません。高額な薬剤が相次いで登場する中、後発品の数量シェアを引き上げても「焼け石に水」との指摘もよく聞かれます。

 

「薬剤費削減が目的なら、薬剤費ベースの話をしなければ意味がないのではないか」。清水研究員はこう話します。日本ジェネリック医薬品学会も昨年、金額の削減目標を定めるよう提言しました。

 

削減効果の検証が必要

もちろん、後発品の使用促進に医療費削減効果が全くないと言うつもりはありません。貴重な医療財源を少しでも効率的に使うため、後発品の使用を広げていくことは必要でしょう。

 

ただし、薬剤費、ひいては医療費全体に与えるインパクトがさほど大きくないにも関わらず、医療費削減の“切り札”として数量シェアを追い続けている現状に、違和感を持つ人も少なくないのではないでしょうか。

 

厚生労働省が2013年にまとめた「後発品のさらなる使用促進のためのロードマップ」には、次のように書かれています。

 

「国民が後発品を使用することにより、自己負担の軽減だけではなく、医療費全体の抑制、ひいては患者自身の保険料等の負担軽減となる後発品の推進の意義への理解が不足しており、後発品の推進の意義、メリットについて、保険医療機関、保険薬局、国民に対してさらなる理解の促進が必要である」

 

繰り返しになりますが、後発品の使用促進の目的は医療費抑制です。国は、後発品の使用促進にかかった診療報酬・調剤報酬も合わせて、医療費全体にどの程度削減効果があったのかを検証する必要があるでしょう。説得力のあるデータを示すことが、使用促進の何よりの近道に思えてなりません。

 

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