4月から診療報酬が変わります。
重症患者を受け入れる7対1入院基本料の算定要件を厳格化し、病床の機能分化にアクセルを踏み込む一方、かかりつけ医や在宅医療の評価拡充など、地域包括ケアシステムの構築に向けて「地域」や「在宅」を重視する内容となっています。
製薬企業のビジネスにも深く関わる診療報酬改定。4月1日の施行を前に、ポイントを押さえておきます。
INDEX
「機能分化」「地域・在宅」に焦点
2016年度診療報酬改定は、2025年のあるべき医療提供体制の姿を示した社会保障・税一体改革に向けた“3歩目”と位置付けられます。
基本的な考え方は「病床の機能分化・連携」と「地域包括ケアシステムの推進」。おおまかには過去2回の改定の流れを汲んでおり、今回の改定が“3歩目”と位置付けられるのはこのため。地域包括ケアシステムの構築に向けて多くの項目に見直しの手が入り、厚生労働省幹部は今回の改定を「地域包括ケア元年」と強調しています。
改定の主な内容を見ていきます。
入院医療では、7対1入院基本料の算定要件を厳格化し、10対1への移行を促進します。地域での療養を促すため、退院支援の取り組みに対する評価は充実させます。
外来医療では、前回改定で新設された主治医機能の評価を充実させます。一方で、紹介状を持たずに大病院を受診した患者からは追加料金を徴収し、外来機能の棲み分けを促進。薬局にもかかりつけの役割を担わせます。
在宅医療では、これまで認められていなかった在宅医療を専門に行う診療所の開設を容認。小児在宅医療や看取りに対する評価も充実させ、在宅で療養する患者を最期まで見届ける医療を推進します。
【入院】7対1を厳格化、10対1への移行促す
急性期病床は絞り込む一方、不足している亜急性期・回復期病床を整備して病床の連携を強化し、状態に応じて患者がスムーズに流れる仕組みを構築する――。
2016年度診療報酬改定には、国が目指す2025年の医療提供体制を実現するための“仕掛け”がいくつか組み込まれました。象徴的なのは、7対1入院基本料の算定要件の見直しです。
今回の改定では、従来は入院患者の15%としていた重症患者の割合を、25%にハードルを引き上げます。患者の重症度を判断するための指標も、手術の有無を加えるなどの見直しを行います。
重傷者受け入れる10対1は報酬増
一方、10対1では、重症患者を多く受け入れる病棟の評価を引き上げます。
通常は認められない病棟群単位での入院基本料の届け出変更を経過措置として認める一方、この経過措置を利用する場合には来年4月以降、7対1病床の割合を6割以下に圧縮することも求め、7対1から10対1への移行を促します。
7対1をめぐってはこれまでも、急性期にあたらない医療機関が算定していると問題視されてきました。今回の改定により7対1病床の削減は一定程度進むとみられますが、10対1への移行により入院基本料は患者1人1日あたり2590円下がり、医療機関の経営には大きな影響を与えることになります。
【外来】かかりつけ医の普及促進、大病院受診に追加料金
外来医療では、病院と診療所の棲み分けを進めるため、紹介状を持たずに大病院の外来を受診する患者から、追加料金を徴収する仕組みが導入されます。
初診は5000円以上徴収
200床以上の病院ではこれまでも、選定療養として紹介状を持たない患者から追加料金を徴収することができましたが、4月からはこれを義務化します。
対象は特定機能病院と500床以上の地域医療支援病院。初診は5000円(歯科は3000円)以上、再診は2500円(歯科は1500円)以上を徴収します。
一方、前回改定で主治医(かかりつけ医)機能を評価するために新設した「地域包括診療料」「地域包括診療加算」は、対象疾患を拡大し、算定要件も緩和して普及を促します。
地域包括診療料・加算は、糖尿病と高血圧、脂質異常症、認知症のうち2つの疾患がある患者に対して、担当医を決めて▽他院の受診状況の把握▽服薬管理▽健康管理―などを行えば算定できる報酬です。
認知症特化のかかりつけ機能評価を新設
今回改定ではこれを、認知症にも拡大します。認知症に加えて1つ以上の疾患を持つ患者を対象に「認知症地域包括診療料」「認知症地域包括診療加算」を新設。糖尿病や高血圧、高脂血症以外の疾患を併せ持つ認知症患者に対しても、総合的な治療・管理を提供できるようにします。
地域包括診療料・加算は、地域包括ケアシステムで中心的な役割を担うかかりつけ医の機能を強化するため、前回改定で創設されました。しかし、施設基準の厳しさもあり、算定の届け出は地域包括診療料が93施設、加算は4713施設(いずれも2015年7月時点)と低調。4月以降は、「常勤医師3人以上」としていた施設基準を「2人以上」に緩和するなどし、普及を後押しします。
【在宅】専門診療所の開設容認、退院支援の評価も手厚く
地域包括ケアシステムの構築に向けて、質的にも量的にも拡充が求められている在宅医療には、手厚い評価が行われます。
大きな見直しの1つが、在宅医療を専門に行う診療所の開設容認です。健康保険法では、外来診療を行わない医療機関の設置を原則として認めていませんが、「外来患者に対応できるよう、診療地域内に2ヶ所以上の協力医療機関を確保している」ことなどを条件に認めることにしました。
実質的に在宅医療に特化した診療所の存在はこれまでも指摘されており、解禁によってこうした診療所は陽の目を見ることになります。ただし、診療報酬の算定要件は一般の在宅療養支援診療所に比べて厳しく設定されました。日本医師会も「在宅医療はかかりつけ医による外来の延長として実施すべき」と慎重で、どの程度広がるかは不透明です。
在宅緩和ケア・看取り実績に加算
入院からスムーズに在宅医療に移行できるよう、退院支援への評価も充実させます。退院支援の専門職員を配置し、ほかの医療機関との連携体制を構築している医療機関を評価するための加算を新設。入院後の早い段階から多職種によるカンファレンスを行うなどすることで、地域に早く戻れるようにします。
在宅医療ではこのほか、施設入居者向けの訪問診療を評価する「特定施設入居時等医学総合管理料」(4月から施設入居時等医学総合管理料に変更)の対象施設を拡大。在宅での緩和ケアや看取りの実績が多い医療機関に対する加算や、休日の往診に対する評価を新設するなどの見直しが行われます。
【調剤】薬局にもかかりつけ、門前薬局は引き下げ
医薬分業への批判を背景に大幅に見直される調剤報酬では、薬剤師にもかかりつけの役割を担わせるための点数が新たに設定されます。
服薬状況の把握や服薬指導を評価する「薬剤服用歴管理指導料」を一部衣替えし、新たに「かかりつけ薬剤師指導料」を新設します。
患者が選んだかかりつけ薬剤師が、▽受診医療機関や服薬状況の一元的把握▽24時間相談▽服用薬の整理―などを行った場合に算定できます。
かかりつけでない薬局に厳しい報酬体系に
体制の充実した薬局を評価する「基準調剤加算」も、かかりつけ薬剤師指導料の届け出を要件とします。さらに、かかりつけ薬剤師指導料などの算定回数が年間10回未満の薬局は、調剤基本料を半分に減額。かかりつけ機能を果たさない薬局には厳しい報酬体系となります。
特定の医療機関から集中的に処方箋を受け付ける大型の門前薬局への評価は引き下げます。
処方箋の月間受付回数と、特定医療機関からの集中率による調剤基本料の減額は、集中率に関わらず特定医療機関からの処方箋が月間4000回を超える薬局などに対象を拡大します。
かかりつけ薬剤師としての業務を行っている場合は減額の対象から外しますが、薬剤師1人当たり月100回以上かかりつけ薬剤師指導料を算定していることなどが要件。ハードルは高そうです。
【領域別】小児医療の評価充実、がん・認知症も手厚く
[小児]かかりつけ医機能を評価
今回の改定の大きな特徴の1つに、小児医療の充実を図ったことが挙げられます。
外来医療では、小児に対するかかりつけ機能を評価する「小児かかりつけ診療料」を新設。対象は未就学児で、専門医療機関と連携することで継続的・全人的な医療の提供を評価します。
▽健診歴・健診結果を把握し、発達段階に応じた助言・指導を行う▽予防接種歴を把握し、予防接種の有効性・安全性に関する指導やスケジュールに関する助言を行う―などが算定の要件です。
在宅医療では、機能強化型在宅療養支援診療所・病院の実績要件として、看取り実績だけでなく、超重症児・準超重症児の医学管理の実績も評価します。
特定の疾患でNICUやICUの算定上限日数を延長したり、高度急性期病院から重症小児を受け入れる医療機関に対する評価を新設したりするなど、入院医療も充実させます。
[がん]外来化学療法の加算引き上げ
がん医療では、外来化学療法を推進するため、外来化学療法加算の点数を引き上げます。また、がん診療連携拠点病院を評価する「がん診療連携拠点病院加算」や「がん治療連携管理加算」の評価対象に、地域がん診療病院と小児がん拠点病院を加えます。
外来で化学療法や緩和ケアを行う進行がん患者を、在宅で緩和ケアを行う別の医療機関に紹介した場合の評価も新設。在宅での緩和ケアや看取りの実績が豊富な診療所や病院を評価する「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」も新たに設けます。
[認知症]多職種チームのケアに加算
認知症では、別の疾患で入院した認知症患者に対するケア体制を評価する「認知症ケア加算」を新設します。研修を受けた看護師を複数配置すれば加算を受けられますが、医師と看護師、社会福祉士または精神保健福祉士によるチームを設置した場合にはより高い点数を取れるようになっています。
外来医療では、認知症に特化したかかりつけ医機能の評価を新たに設けます。診療所で認知症の専門的な診断を行った場合にも報酬を付け、早期発見・早期診断につなげます。
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「病床の機能分化」と「地域包括ケアシステムの推進」を目指す今回の診療報酬改定によって、病院の機能や患者の“居場所”が変わることが予想されます。こうした変化は製薬企業のビジネスにも影響を与えそうで、特に営業部門はターゲティングや戦略の見直しを迫られることにもなりそうです。
製薬企業の間ではすでに、地域に重点を置いた営業戦略の策定や営業拠点の再編といった動きが出てきています。
協和発酵キリンは、従来のように開業医担当・病院担当という役割分担ではなく、2次医療圏をベースとしたエリアをカバーする体制に移行する方針。エーザイも、よりきめ細かい地域営業を行うため、現在35ある地域統括部を4月には70に増やす組織再編を公表しました。
2018年度には診療報酬と介護報酬の同時改定が控えており、地域包括ケアシステムの構築は一段と本格化します。「病院から地域へ」の流れが強まる中、製薬企業の地域重視の姿勢は、より鮮明になってくるでしょう。