
中国の大学で医薬品開発に取り組む研究者(ロイター)
[ロイター]米国の製薬企業が、中国企業から新薬候補を導入するケースが増えている。米国企業は、8000万ドル程度の一時金が年間数十億ドル規模の売り上げをもたらす治療薬に化ける可能性に賭けている。
ロイターがグローバルデータから独占的に入手したデータによると、米製薬企業が新薬候補を導入するために中国企業と結んだライセンス契約の件数は今年1~6月に14件と、前年同期の2件から大幅に増加した。契約に伴う支払いは14件で総額183億ドルに上る可能性がある。
米製薬企業は今後10年間で2000億ドル規模の医薬品の特許保護を失う。各社はこれに代わる新製品を開発するためパイプラインの再構築を進めており、専門家らは今後も中国企業とのライセンス契約は増加すると予想している。
みずほ証券のアナリスト、グレイグ・スヴァンナヴェイジ氏は「中国からは非常に質の良い新薬候補が出てきており、米国内で見つかるものより価格ははるかに手頃だ」と話す。グローバルデータによると、過去5年間の米製薬企業によるライセンス契約の総費用(一時金と後払い金の合計)は、対中国企業が平均313億ドルで、対米国企業の平均848億ドルを大きく下回った。
ライセンス契約は、他社から医薬品または関連技術を開発、製造、商業化する権利を得るものだ。対価として将来の目標達成に応じたマイルストンを設定することで、開発のリスクを軽減することができる。
サイトラインが3月に発表したレポートによると、世界の医薬品開発に占める中国のシェアは30%近くに達した。一方、米国のシェアは1ポイント減の48%となっている。
中国企業は、肥満、心臓病、がんなどの疾患で米国企業に新薬候補のライセンスを供与している。これは、中国政府が医薬品やバイオテクノロジーの研究開発に多額の投資を行っていることを反映している。
ジェフリーズのアナリストは5月に出したメモで、ライセンス契約の対象は従来、低分子化合物が最も一般的だったが、最近では標的がん治療やファースト・イン・クラス医薬品といった新規治療薬への顕著な移行が見られると指摘した。
マッコーリー・キャピタルのアナリスト、トニー・レン氏は「中国のバイオテクノロジー企業は日々、バリューチェーンの上流へと移ってきており、欧米勢に対抗しようとしている」と語った。
関税の影響は受けず
中国企業とのライセンス契約は、米ドナルド・トランプ大統領が「米国製」を推進し、米中が関税をめぐって対立する中でも拡大している。ライセンス契約が増加した影響で従来型のM&Aは20%減少し、今年これまでの取引件数はわずか50件にとどまっている。
レイモンド・ジェームズのバイオテクノロジー投資銀行部門責任者であるブライアン・グリーソン氏は、2024年に大手製薬企業がライセンスを取得した資産の約3分の1が中国からで、その割合は今後40~50%まで上昇すると予想。「この傾向は加速する一方だ」と話した。
トランプ政権は医薬品への関税導入を検討しており、そのための調査を行っている。
ただ、あるヘルスケア分野のアナリストは、関税の影響は製品化前の新薬候補には及ばないため、ライセンス契約は今後も続くと予想している。シュティフェルでグローバルヘルスケアグループのマネージングディレクターを務めるティム・オプラー氏は、「大統領の関税に関する権限は法律上、物品に限定され、知的財産は明確に除外されている」と指摘する。
米ファイザーは今年5月、中国の三生製薬から治験中の抗がん剤のライセンス権を取得するために12億5000万ドルの前払い金を支払った。開発に成功すれば支払い額は最大60億ドルに達する可能性がある。
米リジェネロン・ファーマシューティカルズも6月、中国の翰森製薬が開発中の肥満症治療薬について、前払い金8000万ドル、支払い総額最大20億ドルの契約を結んだ。
大手製薬企業は、開発中の新薬候補のライセンスを取得することで研究開発の時間と費用を節約し、有望な新薬候補に迅速にアクセスすることが可能になる。
米国に拠点を置く医薬品開発企業ヌベーション・バイオは2024年、中国のアンハート・セラピューティクスを買収し、抗がん剤タレトレクチニブへのアクセスを獲得した。この薬剤は最近、米国で承認された。
ヌベーションのデビッド・ハンCEO(最高経営責任者)はロイターに対し、「中国に拠点を持つことは研究開発にとって素晴らしい道であり、新しい、より良い治療法を見つけるための近道だと考えている」と語った。
EYのアナリスト、アルダ・ウラル氏は、中国の魅力は「わずかなコストで何倍もの時間を節約できることだ」と述べた。
アナリストは、大手製薬企業が戦略的に低コストで薬剤の権利を確保し、重要なデータを得るために中国で効率的に初期段階の治験を行っていると指摘。グローバル治験や早期の市場参入に道を開こうとしている。米国を拠点とするヘルスケア投資会社TCGXのマネージングパートナーであるチェン・ユー氏は、「これはわれわれの業界にとってちょっとした警鐘でもある」と述べた。
(取材:Sneha S K/Sriparna Roy、編集:Manas Mishra/Caroline Humer/Bill Berkrot、翻訳:AnswersNews)