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武田薬品、4月にスタートした新営業体制の中身…低迷続く国内事業、成長どう回復

更新日

穴迫励二

 

武田薬品工業が4月から新たな国内営業体制をスタートさせました。顧客に対応する前線の業務を2部制とし、データ・デジタルを活用した機動性の高い組織を目指します。同月22日、オンコロジーを除く国内ビジネスを所管するジャパンファーマビジネスユニット(JPBU)の宮柱明日香プレジデントがメディアの取材に応じ、その詳細を明らかにしました。

 

 

既存品の「第一事業部」と新製品・希少疾患の「第二事業部」

4月に発足した新体制では、MRやMSLといった顧客対応業務(カスタマーフェイシングロール)を再定義するとともに、疾患領域ごとに分かれていた事業部を2つに再編。「第一事業部」はワクチンと既存製品、「第二事業部」は新製品と希少疾患治療薬を担当します。

 

それぞれの事業部には「カスタマースペシャリスト(CS)」と呼ぶMRを置き、担当施設で情報提供活動を行います。これに加え、第二事業部には特定疾患・製品に高い専門性を持つ「プロダクトスペシャリスト(PS)」を配置。CSの活動に上乗せする形で希少疾患に関する専門的な情報を提供する役割を担います。

 

【武田薬品 JPBUの営業体制(2025年4月~)】第一営業事業部/ワクチン・既存品(タケキャブファミリー、リュープリン、その他|第二事業部/新製品・希少疾患(消化器・炎症性、精神疾患、希少疾患(遺伝性疾患、血液疾患)、血漿分画製剤)|プロダクトスペシャリスト=特定の疾患・製品に高い専門性を持つMR。カスタマースペシャリスト=担当施設への情報提供活動の主担当MR|※武田薬品提供の資料をもとに作成

 

第一事業部が扱う製品で最も売り上げが大きいのが、酸関連疾患治療薬「タケキャブ」です。23年度の売上収益は前期比3.6%増の969億円。24年度も4~12月期で2.4%増となっており、通期では1000億円の大台が視野に入ります。これに次ぐのは抗がん剤「リュープリン」。23年度は279億円で、今期はほぼ横ばいで推移しています。

 

第一事業部には、これら2剤以外に大型品や成長製品はありません。すでに特許が切れた高血圧症治療薬「アジルバ」もここに属します。タケキャブ、リュープリン、アジルバの今期の売上収益は合わせて1400億円程度となる予想です。

 

既存品を軸に営業活動を行う第一事業部と、新薬や希少疾患治療薬を担当する第二事業部とでは、MRのモチベーションに差が出ることも懸念されます。宮柱氏は「MRにはそれぞれのミッションがある。地域に密着して既存品やワクチンを最大化する第一事業部は、まぎれもない事業基盤。第二事業部は、新製品や希少疾患治療薬をいち早く患者に届けながら事業成長を支える」とし、最前線で顧客に対応するCSの重要性に事業部間で違いはないと強調しました。

 

ただ、第一事業部には今後、ワクチン以外の新製品が入ってくることは基本的にはありません。特許が満了して後発医薬品が参入した製品は市場縮小を余儀なくされますが、15年2月発売のタケキャブも遠くない将来そうなります。そもそも特許切れ製品を抱え続けるのかという問題もあります。売り上げ規模の縮小に伴って、将来的には人員配置や社内での位置付けも変わっていくかもしれません。

 

MRはピーク時の半分以下に

今年2月の希望退職(フューチャー・キャリア・プログラム)でMRは大幅に削減されましたが、各事業部にどの程度の人数を配置したかは明らかにしていません。希望退職者はJPBUで570人、研究開発で110人の計680人。現在のMR数は非開示ですが、ピーク時に2000人を数えた営業部隊は半分以下に減ったとみられます。

 

その分、MR1人あたりの生産性は大幅に改善されたことになります。新体制では、現場の能力を最大限に発揮するための手段として「データ・デジタル&テクノロジー&AI」の活用を推進。MR向けのダッシュボード(データ収集・分析ツール)を導入した結果、医師との面談の事前準備にかかる時間を38%削減することができたといいます。

 

新体制を運用する上では課題もあります。同社では従業員サーベイを実施し現場の声を拾っていますが、宮柱氏は「外部環境の変化が大きい中で機動力を上げるためのコミュニケーションが課題」と分析。先を見越して変革に取り組む組織の重要性が、サーベイからも見て取れると言います。

 

武田薬品JPBUの宮柱明日香プレジデント

 

意思決定のスピードを速める必要性も強調しました。複数のリーダーが存在する組織の中で、意思決定者が誰なのかがよりクリアになれば、次のアクションに結び付きやすく機動力が高まると見ています。

 

国内売り上げ、成長回復は25年度以降

宮柱氏は組織改革を実行するにあたり、「持続的な成長や競争力の源泉は人だということ」をあらためて認識したと言います。これまでも社員が主体的にキャリア形成を考える組織・文化の醸成や制度設計を行ってきたとし、「自らの意思でキャリアを選択できるような働きかけは引き続き行う」と話しました。

 

武田薬品の23年度の国内売上高は4514億円で、24年度は1桁台前半~半ばの減収が見込まれます。ここ数年は製品ポートフォリオの変化の過渡期にあり、業績は停滞していました。成長軌道への回帰は25年度以降と見ており、貢献するのは炎症性腸疾患治療薬「エンタイビオ」、遺伝性血管性浮腫治療薬「タクザイロ」、うつ病治療薬「トリンテリックス」といった既存品。昨年から今年にかけて発売あるいは発売予定の新薬も寄与します。

 

【武田薬品 24~25年の発売(予定)新薬】※JPBU分、オンコロジー事業部除く。〈発売/製品名/対象疾患/ピーク時売上高予想/ピーク時投与患者数予想〉24年5月/アジンマ/先天性血管性血小板/減少性紫斑病/33億円/76人|24年6月/オビザー/後天性血友病A/0.74億円/5人|24年8月/リブテンシティ/サイトメガロウイルス感染症/11億円/151人|24年9月/セプーロチン/先天性プロテインC欠乏症/1.7億円/16人 承認済み/リブマーリ/アラジール症候群/ー/ー/承認済み/ハイキュービア/無・低ガンマグロブリン血症/ー/ー

 

開発パイプラインでは、臨床第3相(P3)試験の段階にあるナルコレプシー治療薬オベポレキシトン(一般名、開発番号・TAK-861)と、乾癬・潰瘍性大腸炎治療薬ザソシチニブ(同、TAK-279)が年内のデータリードアウトを予定しています。前者はグローバルで20~30億ドル、後者は30~60億ドルのピークセールスを見込む大型品。日本で上市されれば業績の押し上げ要因となります。

 

宮柱氏は新体制のスタートについて、「タケダの長い歴史の中でも大きな変革のひとつ」と位置付けました。不透明な薬価制度や新薬開発コストの高騰といった難しい環境のなか、新製品群や後期開発パイプラインによって業績回復を実現したい考えです。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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