
科研製薬が導入やM&Aを活発化させています。2031年度までの長期経営計画を発表した22年以降、導入はすでに8品目を数え、今年3月には米国のバイオベンチャーを買収して海外展開の足場を獲得。自社創製品の大型導出にもこぎ着けました。事業が着実に進展する中、同社は長期計画で設定した戦略投資枠を大幅に増額し、継続的な新薬投入を目指します。
10年間の戦略投資 2000億円→2600億円
科研製薬は4月8日、2022年に発表した31年度までの長期経営計画の一部見直しを発表しました。31年度に売上高1000億円、営業利益285億円とする経営目標は据え置いたものの、計画スタートからの3年間の事業の進捗と外部環境の変化を踏まえ、戦略投資を当初計画の2000億円から2600億円に増額。今後7年間で研究開発に1300億円、M&Aや導入に600億円を充てる方針で、当初計画から研究開発投資は500億円、M&A・導入費は100億円積み増しました。
同社は長期計画の10年間で8品目の新製品発売を目指しており、自社創薬に加えて導入を積極的に行いパイプラインを確保する方針を掲げています。海外売上高比率は21年度の9.1%から30%以上に引き上げるのが目標で、海外展開品の充実や自社開発・自社販売体制の整備に取り組むとしています。
導入は長期計画の最初の3年間で7品目(販売提携や製造販売承認の承継を含む)に達し、特に24年度は4品目の導入を実施。4月にも米カルビスタから遺伝性血管性浮腫治療薬セベトラルスタットの国内販売権獲得を発表しました。
海外展開では今年3月に希少がん治療薬を販売する米国のバイオベンチャー、アーディ・サブシディアリーを150億円で買収。さらに24年度は、自社創製のSTAT6阻害薬「KP-723」について米ジョンソン・エンド・ジョンソンとライセンス契約を結ぶなど、2つの開発品で導出が成立しました。
科研製薬の堀内裕之社長は4月9日に開いた長期計画の見直しに関する説明会で「(24年度は)計画で掲げる研究開発・海外展開の成果が一度に芽吹いた1年となった」と振り返りました。KP-723導出に伴う一時金を受け取ったことで、24年度の売上高は940億円(従来予想は885億円)に上振れします。
昨年12月に発表したKP-723の導出は、マイルストンの総額が最大12億1750万ドル(約1900億円)に上る大型契約。J&Jに対しては、同年5月にもスイス・ニューマブと共同開発した抗IL-4Rα/IL-31抗体「NM26」を導出しました。KP-723は2型炎症疾患、NM26はアトピー性皮膚炎が対象で、いずれも導出による開発の加速を期待します。
海外展開はアーディ買収で大きく進展
今年3月に完了したアーディ買収では、同社が米国で展開する希少がん治療薬「FYARRO(フィアーロ)」と米国での販売基盤を獲得。科研は米国でPI3Kα阻害薬「KP-001」(予定適応症・難治性脈管奇形)の開発を進めており、29年度以降を見込む発売に向けて自社販売体制の構築が大きく前進しました。
フィアーロは、mTOR阻害薬シロリムスのナノ粒子化製剤で、進行性悪性血管周囲類上皮細胞腫瘍(PEComa)に対する初の治療薬として22年に米国で発売。患者シェアは8割以上に上り、23年10月~24年9月の1年間で約38億円を売り上げています。
フィアーロが標的とするmTORは、腫瘍の増殖や血管新生に関わるPIK3/Akt/mTORシグナル伝達経路の下流遺伝子。科研はPI3Kαを標的とするKP-001とのシナジーを期待しており、綿貫充研究開発本部長は「アーディの販売網やマーケティング・メディカル戦略はKP-001の米国展開にも活用できる」と話しました。今後はアーディの販売ノウハウを活用できる製品を確保し、KP-001発売までに販売能力を底上げするとともに、欧州展開についても方針を検討します。
製品導入では、ニューマブの炎症性腸疾患に対する多重特異性抗体「ND081」と米アルミスのTYK2阻害薬「ESK-001」をパイプラインに追加。シルクエラスチン創傷用シート(医療機器)では三洋化成工業と販売提携を結びました。昨年3月に公表したエーザイからのめまい・平衡障害治療薬「メリスロン」と筋緊張改善薬「ミオナール」の販売移管も済ませ、製品ポートフォリオも拡充しています。
長期計画では毎年1品目以上の導入を掲げており、従来計画で「常時6品目以上」としていた臨床第1相(P1)試験以降のプロジェクト数を、見直しで「常時8品目以上」に引き上げました。今年3月末時点のプロジェクト数は9品目(シルクエラスチンとNM26含む)。導入品のセラデルパー(海外製品名・Livdelzi)が昨年11月に国内P3試験を開始し、米国でKP-001のP3試験開始に向けてFDA(食品医薬品局)との協議が進むなど、既存パイプラインも後期フェーズに移ってきています。
一方、主力の爪白癬治療薬「クレナフィン」のパテントクリフ対策は遅れています。同薬の24年度の売上高予想は172億円で、連結売上高の約2割を占めます。科研はオーソライズド・ジェネリック(AG)を投入して影響の緩和を図りますが、打撃は小さくありません。クレナフィンの特許切れや戦略投資によって25年度以降、利益は一時的に減少する見通し。新薬の投入と海外展開を通じて成長軌道の回復を目指します。