
(写真・ロイター)
[ロンドン、バンガロール ロイター]米国のドナルド・トランプ大統領が4月2日に発表した相互関税では、医薬品など一部の品目が対象から除外された。これを受けて製薬株は上昇したが、トランプ政権が医薬品に関税を課す可能性は依然として高い。アナリストや製薬企業幹部は「安心するのは時期尚早だ」と警戒している。
今回の関税措置で米国は、すべての輸入品に一律10%の基本関税を課した上で、国・地域別に設定した税率を上乗せする。ただ、医薬品を含む一部の品目は一時的に関税が免除され、インド、日本、アイルランドといった医薬品の主な貿易相手国に恩恵をもたらすこととなった。
これを受け、アッヴィやジョンソン・エンド・ジョンソンの株価は市場全体の下落に反して約2%上昇した。インドと欧州でも製薬株が上昇。現時点で医薬品が貿易戦争の標的とならなかったことへの安堵が広がった。
一方、米国の当局者は1日、政権が医薬品に対する別の関税を計画していると述べた。トランプ氏も、相互関税を発表した2日の演説で製薬業界に言及。関税によって製薬会社が米国に「轟音を上げて戻って来る」とし、「さもなくば多額の税金を払うことになる」と警告した。
INGのグローバル医薬品・ヘルスケア部門責任者、スティーブン・ファレリー氏は「政権は、医薬品の強固で強靭な国内製造能力を維持する必要があると強調しており、国内回帰が必要な分野として注目している」と指摘した。
続く懸念
業界関係者の多くは、関税をめぐる最近の不確実性は今後も製薬企業に影を落とし続けると見ている。
バークレイズのアナリスト、エミリー・フィールド氏はロイターの取材に「唯一、確実に感じられるのは、さらなる不確実性だ」とコメント。欧州製薬企業の関係者は、医薬品に対する関税について「今日ではなかったが、近づいているという認識だ」と話した。
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バーンスタインのアナリストは投資家向けメモで、今回の関税措置は医薬品の製造に使われる有機化学薬品やガラス製品に影響を与えるため、米国での医薬品の製造コストは上昇すると指摘。米国製薬業界全体で輸入コストが450億ドル上昇するリスクがあると試算した。
ジェフリーズのアナリストは、米国外へのエクスポージャーが最も大きい製薬企業としてバイオジェンやアムジェンを挙げた。UBSは、アッヴィとメルクが米国外に重要な製造拠点を持っていると指摘した。
今回の関税措置では、医療機器や診断機器は除外されなかったようで、GEヘルスケアやデックスコムの株価は約6%下落した。
医療機器業界団体AdvaMedは、関税は研究開発の削減につながる可能性が高く、医療技術分野のイノベーションのリーダーとしての米国の地位を脅かすと訴えた。
(取材:Maggie Fick/Rishika Sadam/Bhanvi Satija/Kashish Tandon/Manas Mishra/Paul Arnold/Dominique Patton/Deena Beasley、編集:Savio D’Souza/Mark Potter/Arun Koyyur、翻訳:AnswersNews)