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ニュース解説

沢井製薬、薬の「味」「食感」機械やAIで客観評価―食品向け技術を応用、目指す「良薬は口に良し」

更新日

亀田真由

沢井製薬が、食品業界で使われる測定器やAIを応用し、医薬品の食感や味を客観的に評価する技術を開発しました。より飲みやすい製剤の開発につなげ、「良薬は口に良し」の実現を目指します。自社製品の品質の裏付けや、官能試験の削減にも活用する考えです。

 

 

OD錠の「食感」を数値化

新薬の発売後に開発がスタートする後発医薬品には、最新の市場ニーズを踏まえて新たな製剤技術を適用できるアドバンテージがあります。製剤の形状、色、味などに工夫を施すことで飲みやすさを追求することができ、先発医薬品にはない剤形の開発や錠剤の小型化などはその代表格です。色や味といった官能的特性は患者一人ひとりの嗜好や病態にも左右され、治療の受容や服薬アドヒアランスにも影響します。

 

沢井は、後発品の開発・製造で蓄積してきた技術を体系化し、ブランド化する取り組みを行っています。2022年に飲みやすさや扱いやすさをもたらす技術群として「SAWAI HARMOTECH」を、24年に患者の不安や心配に応える技術群として「QualityHug」を立ち上げました。

 

【沢井製薬の製剤技術】後発品の開発 先発品と同じでなければならない点/ ●有効成分の種類・量●用法・用量 ●効能・効果|変えてもよい点/●有効成分の種類・量●薬の形状・色●用法・用量●味・添加剤●効能・効果など|沢井製薬の独自技術/1)QualityHug(クオリティハグ)/・錠剤表面に模様を転写する技術・発がん性物質ニトロソアミンの生成を予測・抑える技術/2)SAWAI HARMOTECH(サワイハーモテック) /"・核粒子製造技術:/小型化・製剤化の速度向上を目指した技術群/・速崩壊錠製造技術:強度・耐湿性・崩壊性を備えたオリジナル添加剤/・フィルムコーティング技術:飲みやすさ・扱いやすさを備えた技術群/・印字技術:変色・にじみ・擦過に強い印字技術群/・製剤評価技術:OD錠の食感や錠剤の味・香りを客観的に評価する技術群|※沢井製薬のホームページをもとに作成

 

今年3月には、SAWAI HARMOTECHに「ODITEX(オディテクス)」「TASTEYE(テイストアイ)」の2つの製剤評価技術と、印字技術「INJIKEEP(インジキープ)」を追加。ODITEXは食感、TASTEYEは味を客観的に評価する技術で、いずれも食品関連企業との共同研究によって開発しました。

 

ODITEXは、OD錠の食感(口当たり)を評価する技術で、OD錠が唾液で濡れたときの「硬さ」と崩壊したあとに感じる「ざらつき」を機械で測定して数値化します。従来、OD錠の食感は官能試験で人の感覚を頼りに評価しており、測定器を使った試験方法は確立されていなかったといいます。

 

「なめらかさ」と「崩れやすさ」が飲みやすさを決める

そこで沢井が協力を求めたのが、おいしさを数値化する技術を持つ「味香り戦略研究所」。同社とともに沢井はまず、OD錠の飲みやすさに影響を与える食感要素の特定に取り掛かりました。原薬粒子に見立てた添加剤の配合量や、賦形剤の種類・量が異なる10種類のプラセボ錠を用意。一般モニター50人に試食してもらったところ、OD錠の飲みやすさを決める要素は「なめらかさ」と「崩れやすさ」であることを特定しました。

 

さらに両社は、なめらかさを口腔内投入から錠剤崩壊まで、崩れやすさを錠剤崩壊から飲み込むまでに感じる感覚と想定し、それぞれで機器分析の評価法を検討しました。なめらかさの評価には、食品業界などで広く使われる粘度測定器「レオメーター」を使い、唾液で溶けたときの粘度を疑似的に測定する方法を考案。崩れやすさの評価には、食品研究で咀嚼感を調べるため使われる「テンシプレッサー」という機器を使い、OD錠を上あごと舌で挟み込む動作をイメージした評価方法を構築しました。

 

いずれの機器分析結果も、一般モニターを対象に行った官能評価の結果と高い相関があることを確認。機器分析結果を統計的解析によって導いた数式に代入することで、客観的な数値で飲みやすさを示すことに成功しました。

 

技術開発に関わった製剤研究部の夏目文音さんは「将来的には、官能試験なしに飲みやすさを考慮した製剤設計も可能になる」と手応えを語ります。同社は、開発に応用する前に、まずは上市済みのOD錠の飲みやすさを評価し、その結果を医療現場に提供していくことにしています。

 

食品向けAIで味評価、応用には苦労も

もう1つの製剤評価技術TASTEYEは、薬の味や香りを客観的に評価するものです。従来の味覚センサーは有効成分の溶け出す量(濃度)に応じて苦味や酸味を測定する簡易的なもので、甘味剤による苦味の緩和といった複雑な評価が難しかったといいます。

 

TASTEYEに活用したのは、味覚分析を手掛ける「OISSY」が開発した食品向けAI味覚センサー「レオ」。レオは、ヒトの味蕾を模したセンサーで電気信号を受け取り、ニューラルネットワークでの解析を通じて五味(甘味、塩味、酸味、苦味、旨味)を定量的に測定するもので、味の相互作用も解析できるのが特徴です。

 

医療用医薬品への応用可能性の検証は、自社製品の「ゾニサミドDO錠」を使って行いました。同製剤では、原薬の苦みを和らげるため、エチルセルロースで原薬を覆う物理マスキングと、甘味剤を吹き付ける官能マスキングが施されています。官能試験のアンケートでは「苦みが少ない」という良好な結果を得られているものの、客観的な評価はできておらず、従来の味覚センサーにはゾニサミドの苦みを検出できないという課題もありました。

 

一方、レオは完全溶解状態での測定を前提としているため、物理マスキングの効果を見ることができず、測定手法には工夫が必要でした。そこで沢井は、15秒、30秒、60秒と時間を変えて転倒混和したものと、30分以上撹拌して完全崩壊したものを比較する方法を検討。完全崩壊したものに比べ、15秒転倒緩和したものは苦みスコアが低いことを確認し、物理マスキング効果の見える化に成功しました。従来の味覚センサーが検出できなかったゾニサミドの苦みもレオでは検出され、甘味剤なしの試作品と比べることで官能マスキングの効果も確認。2つのマスキングによって苦みスコアは原薬の2.24から1.22に下がり、苦みをかなり抑えられていることを示すことができました。苦みスコアは1.0が苦みを感じない状態で、0.2差があると95%の人が違いを感じ取れるといいます。

 

追加学習に試行錯誤

ゾニサミドを使った検証で医薬品への応用可能性が示唆されたことから、沢井は現在、本格的な活用に向けてニューラルネットワークの追加学習を進めています。試行錯誤を重ねており、3月中旬の時点でバージョンは6を数えます。

 

特に繰り返したのが、甘味剤と香料を加えたときの医薬品の味を定量化するための学習。当初のニューラルネットワークでは、甘味剤による苦味低減効果は従来の官能試験結果との相関を示したものの、香料を加えると一部の組み合わせで結果が一致しませんでした。一部の香料の味を認識していないことが考えられ、沢井独自で甘味料と香料の組み合わせを学習させることにしました。

 

学習はまず、香料の種類を増やしながら3段階で実施。計22種類を学習した2段階では一定の成果が見られましたが、さらに5種類追加した3段階まで進むと、いずれの香料も甘味剤だけの場合と比べて苦みが増す結果となり、過学習(学習データではよい精度を出すが、未知のデータに対する予測精度が低いこと)の疑いが浮上しました。過学習の要因の特定は困難でしたが、「苦味の指標であるコーヒーの香料を学習させたことで予測にぶれが生じたのでは」「学習のし過ぎで味の変化に鈍感になっているのでは」といった仮説をもとに、第4段階では医薬品に汎用される香料のみを再学習させることで修正を図りました。

 

修正の過程では「どの原薬を使っても、良いとされる甘味料と香料の組み合わせの傾向が同じになる」という問題も新たに浮上。いくつかの原薬の五味を評価したところ、渋みや酸味が数値に反映されていないことが判明し、第5段階では原薬やそれに近い食品添加物、酸の官能試験結果を学習させました。第6段階ではこれにチューニングを施し、酸味への応答性や苦味のスコアを調整。正答率については今後検証が必要といいますが、開発に関わった製剤研究部の中道克樹さんは、「原薬ごとの味の違いを認識し、より人間の感覚に近い結果が得られるまでになった」とし、「客観的に味を伝える味覚センサーの開発ができた」と総括しました。

 

いずれの評価技術も、当面は自社品の品質を定量データで裏付けることに活用し、製剤開発への展開は少し先となるとみられます。製剤研究部の野沢健児部長は「官能評価を定量化できれば、ターゲットを絞った製剤設計ができるようになり、効率化にもつながる」と期待します。飲みやすさとアドヒアランスの関係についてもデータを取り、説得力を高める取り組みも進める考えです。

 

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