トランプ関税、困惑する製薬企業…「医薬品も貿易戦争の標的に」懸念、米欧に回避訴え
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ロイター通信
相互関税の検討を指示する大統領令に署名したトランプ米大統領（2025年2月13日、ロイター）
［ロンドン ロイター］ドナルド・トランプ米大統領の関税政策に製薬企業が困惑している。業界は医薬品が対象になれば価格高騰につながり、患者のアクセスに影響を及ぼすと懸念。米国とEU（欧州連合）に対し、拡大する関税戦争から医薬品を除外するよう求めている。
6人の製薬業界筋によると、業界は米国政府高官との協議で、EUに対する関税は医薬品のコストを上昇させ、患者にとってアクセスの障壁になると主張。トランプ氏は健康関連の大統領令で薬剤の価格設定と米国人の平均寿命延伸を優先事項に掲げているが、関税はその実現を危うくするものだとの懸念を伝えた。
関係者によると、一部の製薬企業は米国での製造拡大に意欲を示し、その実現を後押しする税制優遇措置や規制変更を求めているという。
欧州の製薬企業の幹部は「関税の代償は患者が払うことになる。そのメッセージをトランプ政権とEUにはしっかり伝えている」と語った。
業界幹部らはEUの当局者らにも懸念を伝え、トランプ氏が医薬品に関税を課したとしても、EUは報復を控えるよう求めている。一部の関係者は、ウクライナ侵攻に対するロシアへの制裁でさえ医薬品が除外されていることを引き合いに出して訴えているという。
別の欧州製薬企業の幹部は「われわれは西側諸国として医薬品のサプライチェーンを相互に接続している。この流れを遮断すれば、医薬品へのアクセスが損なわれる。これは米欧双方にとって損失となる」と語った。
米国生産拡大の動きも
医薬品は長年、その潜在的な弊害から貿易戦争を免れてきた。しかし、トランプ氏は医薬品の製剤や原料を含む中国からの輸入品に対して関税引き上げに動き、すべて の貿易相手国・地域を対象に鉄鋼・アルミの輸入にも追加関税を発動。EUは対抗措置として米国製ウイスキーへの関税引き上げを発表した。トランプ氏は医薬品にも関税を課す考えを示しており、医薬品も貿易戦争に巻き込まれるのではないかとの懸念が高まっている。
米国が中国から輸入する医薬品は安価なものがほとんどだ。しかし、欧州から輸入される医薬品はそうではない。製薬各社が主力とする製品も含まれ、米国もそれに頼っている。
たとえば、ノボノルディスクは肥満症治療薬「ウゴービ」の有効成分の一部をデンマークで製造している。メルクの超大ヒット薬「キイトルーダ」やアッヴィのしわ治療薬「ボトックス」はアイルランドで製造されている。
ノボのラース・フルアーガード・ヨルゲンセンCEO（最高経営責任者）は今月、関税は自社に短期的な影響を及ぼすとの見方を示す一方、米国での生産を増やす方向で動いていると述べた。同社は昨年、米ノースカロライナ州での生産拡大に41億ドルを投資すると発表している。
メルクはこの件についてコメントを控えた。アッヴィは、個別の医薬品の製造場所についてコメントを避けたが、世界中に強力な製造ネットワークがあると述べた。
米国政府は、公的医療保険メディケア・メディケイド向け医薬品の主要な購入者だ。レッドバーン・アトランティックのグローバルバイオ医薬品調査責任者、サイモン・ベイカー氏は、米国政府は関税コストを補うために価格の上昇に直面する可能性があると指摘する。
バークレイズの欧州医薬品株調査責任者、エミリー・フィールド氏は「ごく最近まで医薬品への関税は深刻な脅威ではないと考えていたが、現在は顧客から質問がひっきりなしだ」と語った。
「壊れていないものを直すようなもの」
業界筋は、トランプ政権が業界の主張にどのような反応を示したかについて明らかにしなかった。歴代の米大統領はこれまでも、貿易相手国への関税を発表したあと、その一時停止や延期、例外を認めたことがある。ある情報筋は、ホワイトハウスが持つ複数の通商政策方針のうちどれが優先されるかはわからないと話した。
トランプ氏は先週、アイルランドが減税によって製薬企業を誘致し、米国に「巨額の赤字」をもたらしていると批判した。ホワイトハウスの関係者はこれに対するコメントの要請に応じなかった。欧州委員会もコメントを拒否した。
新型コロナウイルスのパンデミックでは、ワクチンや防護服に使われる原材料を各国が奪い合った。米国とEUでは、重要な医薬品・医療用品の原材料を中国とインドに依存していることが問題となった。
それ以来、多くの大手医薬品メーカーが欧州市場と中国市場のサプライチェーンの切り離しに動いた。しかし、欧米間の生産関係を切り離すことは真剣に検討されてこなかったと複数の関係者は話している。
イーライリリーは最近、少なくとも270億ドルを投じて米国に4つの工場を新設する計画を発表した。ただ、多くの製薬企業がこれに追随するのは難しいだろうと関係者は指摘する。
米国研究製薬工業協会（PhRMA）によると、米国で新たな製造施設を建設するには、規制要件を満たすための時間やコストを含め、最大20億ドルの資金と5～10年の時間がかかるという。
欧州製薬企業の幹部は、製造工程を完全に米国ベースにすることは将来の新薬の研究資金を流用することを意味するとし、「壊れていないものを直すようなものだ」と話した。
（取材：Maggie Fick/ Michael Erman/Philip Blenkinsop、編集：Michele Gershberg/ Bill Berkrot、翻訳：AnswersNews）
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