
治療の選択肢が広がる潰瘍性大腸炎に、また1つ新たな作用機序の薬剤が承認されました。ブリストル・マイヤーズスクイブのS1P受容体調節薬「ゼポジア」で、昨年12月に承認され、3月19日に保険適用されました。専門医は「潰瘍性大腸炎の病態は複雑で、既存薬では治療がうまくいかない場合も多い」と新薬の登場を歓迎しています。
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「病態は複雑で難しい疾患」
潰瘍性大腸炎(UC)は炎症性腸疾患(IBD)の1つで、免疫の異常によって大腸の粘膜に慢性的な炎症が起こり、びらんや潰瘍ができる疾患です。主な症状は下痢や血便、腹痛。重症になると発熱や体重減少、貧血など全身に症状が及びます。寛解と再燃を繰り返すことが多く、長期にわたる炎症は大腸がんのリスクを高めます。
発症の原因はいまだ不明ですが、遺伝因子や環境因子(食生活、生活習慣、ストレスなど)、腸内細菌といった要因が組み合わさって発症に至ると考えられています。
厚生労働省の患者調査によると、2023年の潰瘍性大腸炎の総患者数は推計24万9000人 で、3年前の20年調査から6万5000人増加。潰瘍性大腸炎は指定難病に定められており、医療費助成を受けられる特定医療費(指定難病)受給者証を持つ人は23年度末時点で約14万6700人に上ります。医療費助成の対象は中等症または重症の患者で、軽症でも長期に高額な医療を継続することが必要な場合は対象となります。
生物学的製剤やJAK阻害薬が相次ぎ登場
潰瘍性大腸炎の治療は、大腸の炎症を抑える5-アミノサリチル酸(ASA)製剤やステロイドが基本。こうした治療で効果が得られない中等症から重症の患者には、生物学的製剤やJAK阻害薬が使われます。
生物学的製剤は、2010年に抗TNFα抗体「レミケード」(一般名・インフリキシマブ)が承認されて以降、同じ抗TNFα抗体「ヒュミラ」(アダリムマブ)や「シンポニー」(ゴリムマブ)、抗α4β7インテグリン抗体「エンタイビオ」(ベドリズマブ)、抗IL-12/23p40抗体「ステラーラ」(ウステキヌマブ)、抗IL-23p19抗体「オンボー」(ミリキズマブ)、同「スキリージ」(リサンキズマブ)が相次いで承認。JAK阻害薬も18年の「ゼルヤンツ」(トファシチニブ)を皮切りに、「ジセレカ」(フィルゴチニブ)と「リンヴォック」(ウパダシチニブ)が承認され、治療の選択肢は大きく広がりました。
エンタイビオは炎症を引き起こすリンパ球が消化管の組織に侵入するのを防ぐ作用を持ち、それ以外の生物学的製剤とJAK阻害薬は炎症の原因となるサイトカインやそのシグナル伝達を標的としています。
札幌医科大医学部消化器内科学講座の仲瀬裕志教授は「潰瘍性大腸炎は極めて難しい疾患だ。同じように潰瘍性大腸炎と診断されても、病態のバックグラウンドは患者によって違う。だからこそ、これだけたくさんの治療薬が開発されてきた」と指摘。「潰瘍性大腸炎の病態は複雑で、(同じIBDの)クローン病以上にさまざまなサイトカインが関与している。1つのサイトカインを抑えるだけで良くなればいいが、潰瘍性大腸炎はそこまでシンプルな疾患ではない」と話します。
リンパ球の体内循環を制御
そうした状況の中、19日付で薬価収載されたゼポジア(オザニモド塩酸塩)は、リンパ球上のS1P受容体サブタイプ1と5に結合する薬剤。炎症を引き起こすリンパ球を末梢リンパ組織内に閉じ込めることで、リンパ球の体内循環を制御し、患部である腸に集まるのを防ぎます。1日1回投与の経口薬で、中等症から重症の患者が対象。ピーク時に年間投与患者数9600人、年間販売額174億円を見込んでいます。
S1P受容体作動薬は多発性硬化症治療薬として開発が先行し、2010年に田辺三菱製薬が創製した「ジレニア/イムセラ」(フィンゴリモド塩酸塩)が世界で初めて承認を取得。19年にはスイス・ノバルティスの「メーゼント」(シポニモド)が多発性硬化症治療薬として承認されました。ゼポジアも20年に多発性硬化症治療薬を対象に米国で承認され、その後21年に潰瘍性大腸炎に適応を広げています。
5-ASA製剤またはステロイドによる治療歴がある中等症から重症の活動期潰瘍性大腸炎を対象に行った国内臨床第2/3相(P2/3)試験では、投与12週時点の臨床的改善率でプラセボを有意に上回りました。投与52週時点の臨床的改善率もプラセボより有意に高く、効果が長期にわたって維持することが確認されました。
試験には生物学的製剤による前治療歴のある患者も2割程度含まれており、仲瀬氏は「早い段階でも効いているし、生物学的製剤を使った人でも効果が出ている」と指摘。「日本ではこれから使用し、どんな患者に使うのがいいかポジショニングを打ち立てていく必要がある」としながらも、「試験結果からは幅広い患者が適応になるのではないかということが示唆される」との見解を示しました。再燃を防ぐために長期の治療が必要となる潰瘍性大腸炎では、1日1回の経口投与である点もメリットになると見ています。
ファイザーも申請中
潰瘍性大腸炎に対するS1P受容体調節薬は、ファイザーも昨年6月にエトラシモド L-アルギニンを申請しました。S1P受容体サブタイプ1、4、5に活性を示す1日1回投与の経口薬で、中等症から重症の活動期の潰瘍性大腸炎を対象に行った国際共同P3試験では、投与12週と52週の臨床的寛解率でプラセボに対する優越性を示しました。
これらに続く新薬の開発も引き続き活発です。国内ではMSDがサイトカインの一種であるTL1Aに対する抗体医薬「MK-7240」(tulisokibart)のP3試験を実施中。ヤンセンファーマは抗IL-23p19抗体グセルクマブ(乾癬などの治療薬「トレムフィア」として18年に承認)の適応拡大を申請しているほか、同薬とゴリムマブの配合剤のP2試験を進めています。
P2試験の段階には、アッヴィの抗IL-1a/1b抗体「ABT-981」(lutikizumab)やサノフィのRIPK1阻害薬「SAR443122」(eclitasertib)、同社とテバが共同開発する抗TL1A抗体「TEV-48574」(duvakitug)などが控えています。なおも残るアンメットニーズの解消に向け、今後も治療選択肢の広がりが続きそうです。