協和キリン、バイオ薬の治験薬製造強化…日米に新拠点、開発を加速

協和キリン高崎工場に完成した新バイオ医薬品原薬製造棟「HB7棟」

協和キリンがバイオ医薬品の治験薬製造を強化しています。高崎工場に新たなバイオ医薬品原薬製造棟が完成し、米国でも2027年の完成に向けて新工場の建設が進行中。早期段階のパイプラインが増える中、治験薬の供給能力を高めて開発を加速させるとともに、日米の拠点が連携して人材育成と技術開発に取り組みます。

「ミラー設備」技術移管を円滑化

協和キリンは2月26日、高崎工場（群馬県高崎市）に完成したバイオ医薬品原薬製造棟「HB7棟」を報道陣などに公開しました。168億円を投じて建設した新棟は地下1階、地上4階建てで、延べ床面積は約9250平方メートル。主に初期の臨床試験に使用する治験薬の原薬を製造します。宮本昌志社長CEO（最高経営責任者）は同日開かれた竣工式で「新棟を活用し、プロセス開発から治験をスピーディーに行っていく」と述べました。

新棟の売りの1つが、スケールアップ検討を行うnon-GMPのパイロット設備と、実製造を行うGMP準拠設備を同じ建物内に併設している点です。新棟2階のパイロット設備と3階のGMP準拠設備は「ミラー設備」とし、製造機器から分析に使うセンサーに至るまでほぼすべて同じものを揃えています。技術移管に伴うトラブルを回避し、スケールアップ検討からGMP製造へとスムーズに移行できるようにすることで、治験薬供給を迅速化し、開発のスピードを上げるのが狙いです。

協和キリンは、米ノースカロライナ州サンフォードでもバイオ医薬品の新工場を建設中。投資額は最大5億3000万ドル（約790億円）で、2027年の完成を見込んでいます。米国の新工場は、主に後期臨床試験から初期商用向けの製造を担う予定。一部設備は高崎工場の新棟と共通化することにしており、宮本社長は「設備やプロセスの差をなるべく小さくし、シームレスにすることで開発のスピードを速める」と話します。

協和キリンは昨年、低分子創薬研究を大幅に縮小し、抗体と造血幹細胞遺伝子治療の2つのモダリティに注力する方針を決定。低分子創薬に関連する部門で早期退職者の募集を行いました。抗体医薬では大型化を期待する抗OX40抗体ロカチンリマブが開発の最終段階に入っているほか、初期段階の開発品も充実してきています。日米の新拠点を活用し、製造面から開発の加速を後押しする考えです。

トレーニング施設でバイオ人材育成

高崎工場の新棟のもう1つの特徴が、バイオ医薬品製造のトレーニング施設です。

新棟1階に配置したトレーニング施設では、「培養」「培地・バッファー調製」「精製」「製剤」といったバイオ医薬品製造の主な工程について、実製造と同じか近い設備を使って学ぶことができます。高崎工場では22年にバイオ医薬品技術者育成のための専門組織として人材開発室を設立しており、今後はトレーニング施設を活用して育成プログラムを充実させていきます。

新棟内に設けられたバイオ医薬品製造のトレーニング施設

バイオ医薬品の製造技術を持った人材の不足は日本の製薬産業が抱える課題の1つで、国もその育成を支援しています。協和キリンはこれまでも、神戸市のバイオロジクス研究・トレーニングセンター（BCRET）に講師を派遣するなどしてきましたが、宮本社長は「優秀な人材を継続的に育成することで、自社だけなく日本のバイオ医薬品製造能力の向上に貢献したい」と話しました。

新棟では、新たな製造技術の導入に向けた取り組みも進めます。パイロットエリアには連続生産が可能な設備を導入しており、実装に向けて実製造スケールで検証を進める予定。製造の自動化やデジタル化にも取り組みます。

協和キリンは、高崎工場と米国の新工場を緊密に連携させることで、グローバル全体でバイオ医薬品の生産能力を高めていく考え。宮本社長は、両拠点の間で人材の交流やノウハウの共有を積極的に行うとし、「人材や技術をグローバルに連関させて生産能力を飛躍的に向上させ、競争力を持った形で製造を続けていく体制を目指す」と語りました。