
HIVワクチンの研究開発に取り組む南アフリカの研究者(ロイター)
[ヨハネスブルグ ロイター]研究技師のノジフォ・ムロツワ氏は南アフリカの大学でHIVワクチンの開発に取り組んでいる。HIVは何十年もの間、ワクチン開発を試みる科学者たちから逃れ続けてきた難敵だ。彼女らが作ったHIVワクチン候補は前臨床試験へと進み、結果が待たれていたが、研究資金を提供する米国際開発局(USAID)から突如、研究の打ち切りを命じられた。
彼女らがヨハネスブルグで作った最初のワクチン候補は、ウサギを使った実験で免疫反応を示した。ただ、有望ではあったものの決定的ではなく、彼女らは配合を微調整した4つの新しいバージョンのワクチン候補を前臨床試験へと送った。
「私はとても興奮していた。実験ではとても良い結果が得られていたから」。32歳のムロツワ氏は、ヨハネスブルグにあるウィットウォーターズランド大抗ウイルス遺伝子治療研究ユニットの研究室でロイターに語った。
現在、彼女らの動物実験サンプルは、研究室の冷凍庫に手つかずの状態で保管されている。
「期待は消え去った」
HIVワクチンをめぐっては、南アフリカとケニア、ウガンダで予定されていたヒトを対象とした別のワクチン候補の試験も凍結されている。
HIVワクチンの研究開発は、米国のドナルド・トランプ大統領によるUSAID「解体」の犠牲となった。これらのワクチン候補は、南アフリカが主導するHIVワクチン開発計画「ブリリアント」の一部で、資金はUSAIDからの助成金4500万ドルで全額賄われている。今のところ、プロジェクトの再開やその時期は不明だ。米国務省はコメントの要請に応じていない。
プロジェクトのパートナーであるデズモンド・ツツ健康財団の最高科学責任者ナイジェル・ギャレット氏は「研究開発は着実に進展しており、本当に大きな違いを生み出せると考えていたが、そうした期待は消え去った」と話す。トランプ氏の大統領就任以降、南アフリカのHIVワクチン開発プロジェクトを含む世界中の多くの研究活動が打撃を受けている。
「究極の目標」
HIVは変異が速い。ウイルスが発見されたのは1983年だが、ワクチンの開発は困難を極めた。ヨハネスブルグの研究者らは、COVID-19ワクチンで実用化されたmRNA技術を活用し、HIVワクチンの開発を試みている。
世界に目を向けると、mRNAベースのHIVワクチン候補には臨床試験まで進んでいるものもある。そうした中、アフリカが主導するブリリアントプロジェクトは、アフリカでワクチンを生産する能力の開発を目指している点が特徴だ。
ヨハネスブルグのチームは過去1年間、HIVに感染しているものの体内でウイルスを中和する珍しいタイプの抗体を持つ南アフリカ人患者2人の遺伝子配列を研究してきた。研究チームは、その免疫反応をシミュレートしようとしている。ウィットウォーターズランド大の研究ユニットのディレクター、パトリック・アーバスノット氏は「われわれの研究は勢いを増していた。HIVワクチンの実用化は究極の目標だ」と話す。
トランプ氏は1月、「米国第一」を掲げる自身の外交政策との整合性を評価するため、すべての対外援助を90日間停止するよう命じた。トランプ氏はさらに、南アフリカの土地政策や、同国がイスラエルによるガザ攻撃をジェノサイドにあたるとして国際私法裁判所(ICJ)に提訴したことを理由に、南アフリカへの支援を停止する大統領令に署名した。
「世界全体にとって良いこと」
南アフリカのHIV感染者数は800万人以上と世界最多で、同国はHIV研究の中心地となっている。
HIVワクチン研究を先導する南アフリカ医療研究評議会のCEO、ントベコ・ントゥシ氏は「画期的なHIV研究のほとんどは南アフリカで行われたものだが、それは世界全体にとって良いことだった」と指摘する。
ントゥシ氏は、南アフリカへの援助を停止する米大統領令を踏まえると、ブリリアントのようなプロジェクトへの米国の資金提供再開は想定していないと話す。同評議会は資金の約3分の1を米国政府から得ており、その多くはHIVと結核に関する研究に使われているが、薬剤耐性などほかの分野もカバーしているという。
ギャレット氏によると、南アフリカなどで予定されていたHIVワクチンの臨床試験には、米国とオランダで開発された2つのワクチン候補を混合したものが使われるはずだった。しかし、それらは今、倉庫に眠っている。ギャレット氏は「私たちには大きなチャンスがあった。ほかの資金提供者がギャップを埋めるのは難しい」と話した。
(取材:Nellie Peyton/Catherine Schenck/Shafiek Tassiem、編集:Tim Cocks/Aidan Lewis、翻訳:AnswersNews)