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指名公聴会で証言する米厚生長官候補のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(ロイター)
[ワシントン ロイター]ドナルド・トランプ米大統領が保健福祉省(HHS)長官に指名しているロバート・F・ケネディ・ジュニア氏が1月29日、承認に向けた連邦議会の上院公聴会で厳しい追及を受けた。ケネディ氏は「ワクチンは極めて重要」などと語ったが、民主党議員らは同氏が反ワクチンの見解を隠し、医薬品に関する陰謀論を信奉していると非難した。
反ワクチンではない
ケネディ氏は上院財務委員会で開かれた公聴会で自身の過去の言動を弁明し、ワクチンには反対していないと明言。急増する慢性疾患に対応するとともに、中絶についてもトランプ氏の指示に従うと述べた。
ケネディ氏は、妻のシェリル・ハインズ氏や子どもたちとともに公聴会に出席。「ワクチンは医療において極めて重要や役割を果たすと信じている。私の子どもたちも全員ワクチンを接種している」とし、「米国は世界で最も慢性疾患の負担が大きく、大きな脅威となっている」と語った。
承認されれば、ケネディ氏は3兆ドルを超える医療支出を監督するHHSのトップに就く。HHSの配下には、FDA(食品医薬品局)や公的医療保険メディケア・メディケイドを担当する機関などがある。
環境弁護士であるケネディ氏はこれまで、ワクチンの安全性と有効性に懐疑的な言動を繰り返しており、HHS長官への指名は物議を醸している。
公聴会で民主党上院議員らは、「安全で効果的なワクチンは存在しない」などとするケネディ氏の過去の発言を取り上げた。「新型コロナウイルスは白人と黒人を攻撃するために作られた」「ライム病は生物兵器だった可能性が非常に高い」といった根拠のない同氏の発言についても指摘した。
「嘘つき」ヤジ飛ぶ
民主党のロン・ワイデン上院議員は「ケネディ氏は、特にワクチンの安全性と有効性について、陰謀論やヤブ医者、ペテン師を受け入れてきた。ライフワークとして疑念の種をまき散らし、ワクチン接種をためらうよう仕向けてきた」と非難。同党のマイケル・ベネット上院議員は、ケネディ氏について虚偽の発言をしてきた人物だと評し「ケネディ氏がここに来て何を言おうが関係ない。ここでの発言は彼が本当に信じていることを反映していないのだから」と述べた。
一方、共和党から質問に立った10人近い議員は、ほとんどがケネディ氏のHHS長官就任を支持しているようで、肥満や糖尿病といった慢性疾患の対策に取り組むとした同氏の目標を評価する声も上がった。同党のロン・ジョンソン上院議員は「私たちは国民として団結してこれを行うことはできないのか」と述べた。
共和党が多数を占める上院は、今のところトランプ氏が指名した閣僚候補を一人も拒否していない。性的暴行や過度の飲酒癖など複数の疑惑で物議を醸したピート・ヘグセス氏の国防長官就任は、賛成と反対がそれぞれ50票ずつと割れたが、最終的に上院議長を兼ねるバンス副大統領が賛成票を投じて辛くも承認された。
共和党のトム・ティリス上院議員は公聴会終了後、記者団に「ケネディ氏は素晴らしい仕事をしている」と語り、財務委員会を通過する可能性が高いとの見方を示した。ティリス氏は、反対票を投じさせることを野党側が目論んでいた議員の1人だ。
公聴会ではヤジが飛ぶ場面もあった。抗議者の1人は「彼は嘘つきだ!」と叫び、部屋から追い出された。一方、支持者の中には「Make America Healthy Again」と書かれた帽子をかぶっている人もいた。
会長務めた反ワク団体「影響力ない」
ケネディ氏は、米国の食品産業が健康を損なう原材料を使っていると批判しており、公聴会では学校給食やフードスタンプで購入できる食品から加工食品を減らすべきだと述べた。ただ、これはHHSではなく農務省の管轄で、共和党議員からも農務省に任せるべきとの指摘が出た。
国の医療予算の大半を占めるメディケア・メディケイドに関する質問に答えあぐねる場面もあった。共和党のビル・キャシディ上院議員の質問に対し、ケネディ氏はメディケイドプログラムの改革案を持っていないと述べた。
バーニー・サンダース上院議員は、ケネディ氏が創設した反ワクチン団体「チルドレンズ・ヘルス・ディフェンス」への関与について質した。同団体は「No Vax, No Problem」などのスローガンが書かれた乳児服を販売している。ケネディ氏は昨年12月に会長を退いており「団体への影響力はない」と語ったが、辞任の際には「数年間、団体を率いることができたのは私にとって最大の特権である名誉だった」と振り返っている。
民主党のバーニー・サンダース上院議員は、反ワクチン団体との関係を質した(ロイター)
2019年にサモアで麻疹が流行した際、現地を訪れてワクチンに関する誤った情報を流布したとの指摘に対しては、流行の悪化には何ら役割を果たしていないと否定した。
公聴会に先立ち、ケネディ氏のいとこで元駐日大使のキャロライン・ケネディ氏は、上院議員にケネディ氏の指名に反対するよう呼びかけた。キャロライン氏はケネディ氏を、医療について「危険な」見解を持つ「捕食者」だと指摘した。
共和党議員の中には、ケネディ氏が過去に中絶の権利を支持する発言をしたことや、製薬業界に反対する姿勢を示したことに異議を唱える者もいる。公聴会でケネディ氏は、中絶の権利は州が決めるべきだとするトランプ氏の意見に同意すると述べた。
(取材:Ahmed Aboulenein/Richard Cowan/Stephanie Kelly/Michael Erman、編集:Caroline Humer/Daniel Wallis/Bill Berkrot、翻訳:AnswersNews)