臨床開発で得られるデータが飛躍的に増える中、課題となっているのがその管理と活用。仏ダッソー・システムズ傘下の米メディデータは今年、この課題を解決するAI駆動型のソリューションを新たに導入しました。その狙いと、今後AIがデータの管理・活用にもたらす変化について、同社のトム・ドイルCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)に話を聞きました。
AIでデータエコシステム全体を管理する
メディデータは今年6月、「Clinical Data Studio(CDS)」と称する、同社プラットフォーム上で利用可能な新たなAI駆動型の臨床データ管理・分析ソリューションの提供を開始しました。
製品開発責任者を務めるトム・ドイルCTOは「ペイシェント・セントリシティの考えが広まる中、臨床開発でも1つの試験だけでなく、組み入れ前や終了後も含めたトータルのペイシェント・ジャーニーへの深い理解が求められるようになってきている。同時に、データソースのエコシステムも拡大してきた。CDSはそうしたデータを一元的に管理するためのもの」と説明。「メディデータのEDCにあるデータのほか、ラボやほかのEDCなどメディデータ以外のソースから得られるデータを統合し、管理・分析することをAIの力で可能にしている」といいます。
CDSによってデータレビューと照合にかかる時間は最大80%短縮できる可能性があるといい、7月にはエーザイの米国子会社が世界で初めてCDSを導入したことを発表。エーザイは、「データのサイロ化を解消し、臨床試験の効率化を図るツール」と期待を寄せています。エーザイのほかにもCROなど関心を持つ企業は少なくなく、現在、グローバルで130以上の試験に導入されていると言います。
CDSでAIが担うのは、データ調整・レビューやそれに伴う反復タスクの自動化、試験の中で蓄積されていくデータの異常検知など。ローコード/ノーコードでデータ調整、照会ができ、ドイル氏は「データの民主化にも大きな前進が見込める。クリニカルオペレーション担当やリスク管理担当、データ管理担当をはじめ、ソリューションを使うあらゆるユーザーの体験を向上させることが目標」と話します。この年末には監査証跡レビュー用の生成AIアシスタントを導入し、データ管理担当者の業務効率化を目指します。
「試験の成功率向上に寄与」
メディデータは、臨床試験のあらゆる面にAIを組み込むことを進めています。
たとえば、ここ数年で急速に普及している生成AIについては「過去の臨床試験データからバーチャルに患者を代表するデータを合成し、合成コホートとして疾患理解や薬剤の特徴解析に役立てている」(ドイル氏)。過去の臨床試験のデータの特徴を引き継ぎつつ、プライバシーへの配慮を必要としないデータは、治験プロトコルの設計や被験者の治療計画の改良につながる情報も治験依頼者にもたらすことができます。
メディデータでは、治験実施施設の選定、治験デザインに沿った被験者集団の特定といった分野ですでにAIを活用。ドイル氏は、重篤な有害事象のリスクが高くない被験者を選ぶことにも活用できるとし、「こうしたサポートによって、患者負担の軽減と試験の成功率向上に貢献している」と強調。「こういったユースケースでは、われわれのデータ活用はもちろん、顧客やパートナーの経験・知見も重要になる。互いの経験を補完し合うことがますます重要になるだろう」と話します。
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急速に発展するAIによって、臨床試験は今後、どう変わっていくのか。ドイル氏は次のように見通します。
「AIが進展することによって、われわれはより多くのデータの収集を目指すことになる。データソースの拡大もそうだが、イメージングやセンサーデータなど、より情報量の大きなデータを扱う必要性はますます増してくる。自動化の動きも、AI自体の進化によってルーティンの置き換えから、より高度なタスクに選択肢が広がってくるだろう。たとえば、インフォームド・コンセントの書類の作成やスタディ構築といった業務がその対象だ。
患者の声を臨床研究や臨床試験に反映させていく動きも加速するはずだ。これまで以上に患者負担の軽減が求められるようになり、そこにAIを活用していくことになる。さらにAIが高度化すれば、デジタルセラピューティクスや、特定のゲノムマーカーや表現型マーカーを持つ患者集団をターゲットにする個別化治療の開発にも活用の場が広がるだろう。それとともにわれわれはプラットフォームのAIの機能をさらに充実させていく」