(写真:ロイター)
[ワシントン ロイター]米共和党のドナルド・トランプ次期大統領から米保健福祉省(HHS)長官に指名されたロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は、指名発表の直前、FDA(食品医薬品局)の「粛清」を言明した。ケネディ氏が志向する改革は、FDAの予算の多くを負担する製薬業界との対立の火種となる。
ケネディ氏は、ワクチンの安全性と有効性に懐疑的な主張をする環境活動家だ。HHS長官への就任が承認されれば、公衆衛生、公的医療保険、医学研究などを担う国の機関に対して権限を持つことになる。
ケネディ氏はこれまで、FDAを声高に批判してきた。同氏はインタビューやソーシャルメディアで、FDA職員は大手の製薬会社や食品会社の言いなりになっていると非難している。10月下旬にはXに「FDAの公衆衛生に対する戦争は間もなく終わる」「もしあなたがFDAで働いていて、この腐敗したシステムの一部であるなら、2つのことを伝えたい。1.記録を保存し、2.荷物をまとめることだ」と投稿した。FDAはケネディ氏のHHS長官指名についてただちにコメントしなかった。
ファイザーやモデルナといったワクチンメーカーの株価は、ケネディ氏指名のニュースを受けて下落。時間外取引で最大2%下げた。
製薬業界を代表するロビー団体の米国研究製薬工業協会(PhRMA)は声明で、患者の健康改善に向けてトランプ政権と協力したい意向を示した。声明では、ポリオや天然痘の撲滅などワクチン接種の成果を強調。声明の中でケネディ氏の名前には言及していない。
ケネディ氏側近「職員と業界の関係調査」
ケネディ氏の大統領選キャンペーンで広報責任者を務め、今も親しい関係にあるデル・ビッグツリー氏は、FDA職員と業界との関係が注意深く調査されることになるだろうと指摘。「職員の職歴や利益相反について調査が行われ、本来あるべき透明性の監視が実現するだろう」とし、「そしてそれはすべて公表されるだろう」と語った。
ケネディ氏は今年の大統領選に無所属で出馬したが、8月に撤退。政権でのポストと引き換えにトランプ氏の支持に回った。
ケネディ氏が主張するFDA改革を実行するには、連邦職員の恣意的な解雇に対する保護を奪う必要がある。1万8000人のFDA職員の給与は、税金だけで賄われているわけではない。製薬企業や医療機器メーカーは、いわゆる「ユーザーフィー」、つまり自社製品の迅速な審査や臨床試験の安全性確保に必要なスタッフリソースに対して料金を支払っており、これは今年のFDAの予算72億ドルの約46%にあたる33億ドルを占めている。FDAはユーザーフィーが承認の決定に影響することはないとしており、FDA全体の予算は議会の承認が必要だ。
共和党のジョージ・W・ブッシュ政権でFDAの首席顧問を務めたダン・トロイ氏は、ケネディ氏がHHS長官に就任しても劇的な変化は起こらないとの見通しを示す。トロイ氏は、仮にケネディ氏が多くの職員を解雇できたとしても「ではその後に誰を任命するつもりなのか。誰が規制を策定できる専門知識を持っているのか」と話す。
「国の安定危険にさらす」
製薬会社の幹部らは、ケネディ氏の潜在的な影響力に対する懸念の払拭に努めており、あらゆる医薬品の安全性と有効性を監視するFDAの重要性を強調している。アストラゼネカのパスカル・ソリオCEO(最高経営責任者)は先週初め、「私の希望、私の信念は、人々がFDAの優れた取り組みを理解し、これを強化し続けることだ。FDAは世界の規制当局の基準であり、真に差別化された医薬品の承認においても最も革新的で迅速な審査機関だ」と語った。
ケネディ氏の長年の主張に対しては、さらに露骨な意見を述べる経営者もいる。バイオテクノロジー企業オビッド・セラピューティクスのCEOで、業界団体BIOの元会長、ジェレミー・レビン氏は先月末、「反ワクチン論者を公衆衛生の責任者に据えることは、国全体の安定を危険にさらすことになる。ケネディ氏の主張の中心であるワクチン否定論は、想像できる限り最も危険なものかもしれない」とロイターに語った。
一方、FDAのロバート・カリフ長官は職員の不安を鎮めようとしている。カリフ氏はトランプ氏の当選を受け、職員に宛てて「間違いなく変化はあるだろうが、安心してほしい。FDAは設立当初の目的である職務を今後も遂行する」とのメールを送信。「皆さんの業務は今後も重要だ。この機関は1世紀以上にわたってそうしてきたように、今後も国民を守り続けるだろう」と強調した。
(取材:Ahmed Aboulenein/Michael Erman/Stephanie Kelly/Maggie Fick、編集:Michele Gershberg/Diane Craft、翻訳:AnswersNews)