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[フランクフルト ロイター]ノボノルディスク(デンマーク)の親会社ノボ・ホールディングスが今年2月に発表した米医薬品受託製造会社(CMO)キャタレントの買収が波紋を広げている。スイス・ロシュのトーマス・シネッカーCEO(最高経営責任者)は10月23日の四半期決算会見で、買収は急成長する肥満症治療薬市場をめぐる競争に打撃を与えるおそれがあると指摘。当局は買収を阻止すべきだと述べた。
ロシュは自社への影響はないとしているが、シネッカー氏はこの日の電話会見で「この分野で競争を制限することは良い考えではない」と強調。「業界の観点からすると、当局は間違った判断をすることになる」と語った。
シネッカー氏はさらに「CMOの数が制限されれば、小規模な製薬企業にとって問題になる可能性がある」「一般的には、製薬企業がCMOを買収し始めると、競争の可能性が限定される」と付け加えた。
米国の消費者、患者、労働者の支援団体連合は先週、ノボによるキャタレント買収を阻止するよう米連邦取引委員会に請願し、買収は肥満症治療薬や遺伝子治療における競争を脅かすと主張した。
肥満・糖尿病治療薬の市場でノボのライバルである米イーライリリーの幹部は、この買収について繰り返し懸念を表明している。ノボは買収によって、ペン製剤に薬剤を充填するイタリア、ベルギー、米国の3つの施設を直接所有することになる。
請願を行った支援団体連合はノボが買収を発表した当時、米アムジェン、同ファイザー、ロシュ、英アストラゼネカといった競合企業が制約を受ける可能性があると指摘していた。これらの企業は、製造が難しいペプチドをベースにした肥満症治療薬を開発しているとされる。支援団体連合によると、米バイキング・セラピューティクス、同ストラクチャー・セラピューティクス、印サンファーマも影響を受ける可能性がある。
ノボ「CMOの選択肢は十分ある」
ロシュCEOの発言について、ノボの広報担当者は「買収が承認されればノボノルディスクはノボ・ホールディングスから3つの製造施設を購入するが、キャタレントは引き続き約50の拠点を独立して運営する」と説明。「多数の」CMOがキャタレントと競合しており、買収が成立しても製薬企業やバイオテクノロジー企業には「キャタレントを含めて十分な選択肢がある」と述べた。ノボは、買収は年内に完了すると見込んでいる。
キャタレントは「今回の買収は競争促進的なものであると確信している。ノボノルディスクが取得を計画している3つの施設で、競合するGLP-1受容体作動薬が商用生産されているとは把握していない」と強調。引き続き欧州や米国の当局と連携し、24年中の買収完了を目指すとした。
CMO事業を持つ製薬企業はノボだけではない。例えば、ファイザーや独ベーリンガーインゲルハイムも同様の部門をすでに持っている。
ロシュの医薬品部門責任者、テレサ・グラハム氏は23日の電話会見で、ロシュ自身は影響を受けていないと強調し、「自社の生産能力に大きな自信を持っている。キャタレントとは別のCMOにキャパシティを確保している」と語った。
(取材:Ludwig Burger/Maggie Fick、編集:Rachel More/Tomasz Janowski/Mark Potter/David Evans、翻訳:AnswersNews)