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サンバイオの「アクーゴ」審査報告書で明らかになった「異例の承認遅れ」の背景

更新日

前田雄樹

申請から2年4カ月あまり。7月にようやく承認されたサンバイオの再生細胞薬「アクーゴ」。先駆け審査指定制度の対象品目に指定され、本来なら申請後半年で承認されるはずだった同薬の審査は、なぜここまで長引いてしまったのか。その背景が、今月公表された審査報告書で明らかになりました。

 

 

審査に2年4カ月

「創業24年目の今年、長年開発を続けてきたSB623(アクーゴの開発コード)の承認を得ることができた。ここに至るまで、患者・家族、医療従事者、関係会社など、本当に大勢の人たちと仕事をしてきた。この場を借りてお礼を申し上げる。承認が取れたので、ここからは患者と社会に大きく貢献していきたい。きょうは、承認にまつわることや今後の展望についてじっくりお話したいと思う」

 

9月18日に開かれたサンバイオの2025年1月期第2四半期決算説明会。冒頭、このように語った森敬太社長の表情は晴れやかでした。

 

アクーゴは健常成人の骨髄液から採取した間葉系幹細胞を加工・培養して作る再生医療等製品。脳内の損傷した神経組織に移植するとFGF-2と呼ばれるタンパク質が放出され、神経細胞が本来持っている再生能力を促し、失われた機能を回復させると考えられています。

 

本来なら6カ月で承認

外傷性脳損傷による慢性期運動機能障害を持つ患者を対象に日米で行った臨床第2相(P2)試験では、アクーゴを投与した患者で運動機能や日常生活動作を統計学的に有意に改善しました。サンバイオはこの結果をもとに22年3月に申請を行い、今年7月31日に条件・期限付きの承認を取得。森社長は「脳を再生させる世界初の新薬。世界中に多くの競合がいる中、一番乗りで承認を取得できたことを誇りに思う」と話しました。

 

アクーゴは、画期的な医薬品・医療機器・再生医療等製品・体外診断用医薬品を承認審査で優遇する「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されています。同制度では、対象品目は申請前にPMDA(医薬品医療機器総合機構)の事前評価を受けることで実質的に審査が前倒しされ、通常なら申請から6カ月程度で承認に至ります。

 

しかし、アクーゴの場合は申請から承認まで2年4カ月もの期間を要しました。過去には、ノバルティスファーマの遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ」が先駆け品目でありながら審査に1年4カ月かかったケースがありますが、これと比べてもアクーゴの承認の遅れは際立っています。

 

関連記事:承認まで1年4カ月…先駆け指定の「ゾルゲンスマ」審査はなぜ長引いたのか

 

 

審査報告書「異物混入、対応不十分なまま申請」

アクーゴの審査はなぜここまで長引いたのか。9月11日に公表された審査報告書でPMDAは、審査の遅れを「異例」とし、「製品の品質、安全性および有効性を担保するために重要な事項について、申請者(サンバイオ)の認識が極めて不十分だったことが原因」と指摘しました。

 

審査報告書によると、PMDAは事前評価で、SB623に異物の混入が認められたためサンバイオに異物混入防止のための管理戦略を構築するよう指摘。しかし、サンバイオはこれに十分対応しないまま申請を行ったといいます。製法の変更を伴う異物管理戦略の構築は申請後に行われ、実製造スケールでの検証が始まったのは申請から4カ月後の22年7月になってからでした。

 

対策によって異物混入リスクの低減には成功しましたが、今度は製法変更に伴って収量の顕著な減少が連続して発生。再度プロセスの見直しを迫られることになりました。製造と改善を何度か重ねる中で申請時と同等の収量が得られるようになり、その製法を市販品の製法とすることにしましたが、申請時点での製法で製造したものとの同等性/同質性評価といった追加の品質試験成績が提出されたのは、申請から1年9カ月後の23年11月末。結果として「審査スケジュールが大幅に遅延することとなった」としています。

 

「審査期間中に解決できると考えていた」

一方、サンバイオの澤口和美信頼性保証・薬事部長は決算説明会で「急いで申請したという事実はあるが、半年間の審査の中で解決できると考えていたので、そこは説明をして申請した。指摘を無視して申請したということではなく、弊社としては1日でも早く出したいということと、半年で承認取得できるよう対策は検討しているということを説明し、拒否することなく申請を受け取ってもらった」と説明。認識の相違をうかがわせました。

 

サンバイオはこれまで、審査が長引いている理由を「収量の低下」と説明しており、異物混入については明らかにしてきませんでした。同社は「異物混入の内容や当社が行った異物管理戦略は当局との審査内容に直結していたため、当時は非開示としていた」と釈明しています。

 

 

米国「再始動」脳梗塞も「再挑戦」

申請後に製法が変更された市販品と治験製品との同等性/同質性は審査の過程で確認に至らず、承認に際しては「同等性/同質性を評価し、必要な一部変更承認申請が承認されるまで出荷を行わない」との異例の条件が付されました。

 

サンバイオは承認後、2回の市販品製造を通じて同等性/同質性を評価し、一変承認を取得した上で25年2~4月にも出荷が可能な状態になるとしています。決算説明会では、1回目の製造が終了したことを明らかにし、「期待通りの収量が得られていることを確認している」(束原直樹常務執行役員)と説明。1回目の品質試験の結果を確認した上で、2回目の製造に進む予定です。

 

 

並行して発売に向けた準備も進みます。今月12日には外傷性脳損傷患者向けの情報サイトを開設。11月の日本リハビリテーション医学会秋季学術集会を皮切りに関連学会でセミナーを開くとともに、自社でも講演会を行い、医療従事者への周知を図っていく計画です。流通では、スズケンと共同開発したシステムを活用し、患者の登録から製品の輸配送、投与、投与後のフォローまで情報を一元管理する体制を整えています。束原常務は「承認を取得し、われわれとしてはようやく大手を振って活動できるようになった」としており、普及に向けた活動を加速させていく考えです。

 

日本での承認取得にリソースを集中させるため一時停止していた米国事業にも再び取り組みます。森社長は臨床試験実施に向けて米FDA(食品医薬品局)との協議に入る考えを表明。過去にP2b試験に失敗した脳梗塞での開発についても「日米規制当局との協議を再開する」と再挑戦への意欲を示しました。

 

森社長は「サンバイオはここから、もともとの原点である再生医療のグローバルリーダーを目指し、フルスピードで積極的に展開していく」と強調しました。そのためにもまず、日本での発売を確実に行い、投与実績を積み重ねていくことが重要になります。

 

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