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ニュース解説

エムポックスワクチン、なぜアフリカに届くまで2年もかかったのか

更新日

ロイター通信

コンゴ民主共和国のニーラゴンゴ地域で(ロイター)

 

[ロンドン ロイター]エムポックスの感染が再拡大するアフリカに、ようやく最初の1万回分のワクチンが到着する。エムポックスワクチンはすでにアフリカ以外の70カ国以上で接種可能となっている。アフリカでのエムポックスワクチン接種開始の遅れは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが浮き彫りにした世界的な健康格差に対して、改善の取り組みが遅れていることの表れだと専門家らは指摘している。

 

WHO、承認プロセスようやく開始

エムポックスは22年にアフリカで感染が広がり、WHO(世界保健機関)は同年7月に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言。宣言は23年5月に終了したが、今年に入ってから別の株が流行し、WHOは今月、再び緊急事態を宣言した。

 

前回の宣言も含めると、アフリカで感染拡大が始まってからすでに2年以上が経過している。しかし、国際機関を通じて低所得国がワクチンを入手できるようにするための承認プロセスをWHOが正式に開始したのは今月に入ってからだ。WHOはロイターの取材に対し、今回はプロセスの一部を緩和して低所得国がワクチンを迅速に入手できるようにすると答えた。

 

エムポックスは発熱や発疹などの症状を引き起こすウイルス性の感染症だ。密接な身体的接触によって感染が広がり、命に関わることもある。今回の流行では、クレード1bと呼ばれる新たな株がコンゴ民主共和国から近隣諸国に広がっている。

 

多くの低所得国にとって、高価なワクチンを直接購入するのは難しい。エムポックスワクチンは主に、デンマークのババリアン・ノルディック製と日本のKMバイオロジクス製の2種類。バイエルン・ノルディックのワクチンは1回100ドルで、KMバイオロジクス製の価格は不明だ。

 

国際機関によるワクチンの購入と配布に必要なWHOの承認を待つ間、アフリカ各国は高所得国からの寄付に頼らざるを得ない。寄付は、高所得国が自国民保護のためにワクチンを抱えておくべきと判断した場合、崩壊する。

 

近くアフリカで接種が始まるエムポックスワクチンはババリアン・ノルディック製。国連システムが提供したものではなく、米国からの寄付だ。

 

コロナワクチンに続く遅れ「本当にひどい」

アフリカ大陸の公衆衛生機関・アフリカ疾病予防管理センター(アフリカCDC)のエムポックス緊急委員会メンバーを務めるヘレン・リース氏は、新型コロナワクチンに続いてアフリカ地域が再び取り残されたことについて「本当にひどい」と語った。

 

22年の緊急事態宣言では、高所得・中所得国の政府が天然痘ワクチンを転用して規制当局の承認を取得し、約70カ国が最もリスクの高い人たちを保護するために使用した。米国疾病予防管理センター(米CDC)によると、米国だけで120万人が接種を受けた。

 

しかし、アフリカでは臨床試験以外でエムポックスワクチンを入手することはできない。WHOの承認を得なければ、Gaviなどの国際組織がワクチンを購入・配布できないからだ。Gaviは低所得国のワクチン導入を支援しており、新型コロナでは世界的なワクチンの供給を管理した。エムポックスでもワクチンの購入や輸送に最大5億ドルを投じる計画だ。アフリカCDCは、アフリカ大陸全体で1000万回分のワクチンが必要になる可能性があるとしている。

 

WHOは今月になってようやく、エムポックスワクチンの緊急承認に必要な情報の提供をワクチン製造業者に要請した。WHOは各国に対し、9月に承認プロセスが完了するまで寄付を行うよう求めている。

 

Gaviのサニア・ニシュタールCEOは、承認と資金の改善に迅速に対応しようとするWHOの目標は「新型コロナと比べていくらか明るい面が示されている」と指摘。一方、承認プロセスの遅れについては「これがわれわれにとって新たな学習の機会となることを願う」と述べるにとどめた。

 

WHOによる緊急承認プロセスは、自国で新薬やワクチンを審査する能力に乏しい低所得国での供給に革命をもたらした一方、スピードの遅さとプロセスの複雑さに対して批判もある。

 

WHOは、22年にエムポックスの緊急事態を宣言した当時はワクチンの承認プロセスを開始するのに十分なデータがなかったと指摘。その後は、入手可能なデータが承認に値するかどうかメーカーと協議しているとしている。

 

子どもや女性にも拡大

WHOによると、エムポックスは22年以降、世界で9万9000人の感染者と208人の死者を出している。ただ、多くの症例が報告されておらず、この数字はおそらく過小評価されたものだ。

 

かつて流行した株は感染者の多くを男性間で性交渉を行う人が占めていたが、クレード1bは子どもや女性にも感染が広がっている。最も被害の大きいコンゴでは昨年1月以降、2万7000人以上の感染疑い例と1100人以上の死亡例が発生しており、子どもも含まれる。

 

ワクチンが届いたとしても、どのように使用するかについては疑問が残る。ババリアン・ノルディック製のワクチンは成人用のみだ。KMバイオロジクスのワクチンは子どもにも接種できるが、投与はより複雑だ。

 

さらに、どの集団からワクチンを接種していくかについても、まだ合意が得られていない。可能性として考えられるのは、感染者との接触者に接種していく戦略だ。

 

エボラウイルスの共同発見者で、コンゴの首都キンシャサにある国立生物医学研究所の所長を務めるジャン・ジャック・ムエンべ氏は「新型コロナでは、ワクチンが利用可能だったにもかかわらず国民がそれを望まなかった」と指摘。感染対策への意識向上や診断の改善など、ほかの公衆衛生対策もエムポックスの蔓延阻止の鍵になると語った。

 

国際保健の専門家は、WHOを含む関係機関はワクチンへのアクセス改善と検査・治療にもっと早く焦点を当てるべきだったと指摘する。公平なエムポックス対策を目指す国際保健パートナーシップで共同議長を務めるアヨアデ・アラキジャ氏は「(WHOでのワクチンに関する)プロセスと診断への資金提供は数年前に開始されるべきだった」と話す。WHOは加盟国の希望に優先順位をつけることしかできない。同氏は「世界が何を優先事項とみなすかの問題で、主に黒人や褐色人種に影響を与える疾患は優先事項ではないということだ」と語った。

 

WHOは、各国政府やメーカーなどに対し、ワクチンの寄付拡大と価格の引き下げ、その他の必要な支援の提供を求めている。アフリカCDCの責任者であるジーン・カセヤ氏は、アフリカのワクチン製造業者の協力を得て供給を増やし、価格を下げる努力をしているが、時間がかかるだろうとしている。

 

(取材:Jennifer Rigby、Ange Kasongo、Djaffar Al Katanty、Catherine Schenck、 Rocky Swift/編集:Sara Ledwith/翻訳:AnswersNews)

 

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