武田薬品工業が国内事業の「成長回帰」に挑んでいます。大型製品の特許切れもあり、ここ数年、業績は低迷を続けてきましたが、製品ポートフォリオの組み換えがほぼ完了。希少疾患治療薬と既存品の最大化により、日本市場であらためて存在感を示したい考えです。
国内売上収益、5年で2割減
がん領域を除く国内事業を所管するジャパンファーマビジネスユニット(JPBU)では今年4月、プレジデントにMR出身の宮柱明日香氏が就任。7月に業界メディアとのグループインタビューに応じ、国内事業の現状と展望について語りました。同氏がJPBUの目指す姿として示したのが、「顧客体験の向上」「成長への回帰」「日本のヘルスケアの未来を牽引」という3本の柱。国内事業の現状について「アジルバの特許切れもあって厳しい状況」と認めた上で、希少疾患領域の新製品の継続的な上市と注力製品の育成を通じて成長を取り戻すと強調しました。
同社の国内売上収益は、18年度の5710億円から23年度には4514億円と5年間で1196億円(21.0%)減少。この間の年平均成長率はマイナス4.6%となっています。21年度は6590億円と持ち直したように見えますが、これは「ネシーナ」など糖尿病治療薬4製品を帝人ファーマに売却し、その対価として1330億円を計上したためです。
アジルバの特許切れ直撃
23年度は高血圧症治療薬「アジルバ」の特許切れが直撃し、前年度比11.8%減に沈みました。後発医薬品の参入により、同薬の売り上げは前年度の729億円から336億円と半分以下に減っています。塩野義製薬から旧シャイアー製品のADHD(注意欠陥・多動症)治療薬「インチュニブ」「ビバンセ」を承継し、年間売上高200億円超の2製品を取り込みましたが、それでもなお2桁減収に甘んじることになりました。
主要製品では、酸関連疾患治療薬「タケキャブ」が969億円(前年度比3.6%増)。グローバルで8000億円を売り上げる炎症性腸疾患治療薬「エンタイビオ」は2桁成長の151億円で、昨年6月の皮下注製剤投入でシェアアップを狙います。短腸症候群「レベスティブ」は80億円を売り上げ、発売3年度目でピーク時の予想(60億円)を超えました。
成長回帰は25年度以降に
国内売上収益の今年度予想は開示されていませんが、23年度が業績の底になるかどうかについて宮柱氏は「(日本事業も)グローバルと同様に来年度以降の回帰を見込んでいる」と話しました。クリストフ・ウェバー社長は5月の決算会見で、25年度から持続可能な成長に回帰できるとの見通しを示しており、国内事業も今年度は減収となりそうです。アジルバはさらに236億円の減収となり、売上収益は100億円まで落ち込みます。
武田薬品の売上収益全体に占める国内の割合は23年度に10.6%まで低下しましたが、こうした現状にはポートフォリオのシフトが影響しています。同社の新薬開発はスペシャリティ領域に移っており、生活習慣病のようなマスマーケットに向けて製品を出すことはほぼなくなりました。JPBUでは過去3年で同社は9つの新薬(剤形追加を含む)を発売しましたが、そのすべてが希少疾患治療薬で、ピーク時の売上高予測は軒並み数十億円規模。予測投与患者数も1000人に満たず、大型製品はありません。既存品も1000億円を視野に入れるタケキャブを除き、ブロックバスターは姿を消しました。
ポートフォリオ変化、成長スピードは緩やか
ポートフォリオの変化により、成長軌道を取り戻したとしてもそのスピードは緩やかなものになりそうで、いわゆるV字回復のシナリオを描くのは難しそうです。ただ、宮柱氏は、グローバルで進展する新薬開発や既存製品の育成で、将来に向けた展望は開けていると自信を示します。
今後も新製品の発売を見込む希少疾患領域では「サイズ感(売り上げ)より患者へのインパクト」(宮柱氏)を重視。ペーシェント・ジャーニーのバリアを改善していけば、市場設定も変化していくとの見方を示しました。既存品では、エンタイビオとうつ病治療薬「トリンテリックス」が、市場でベンチマークしている製品より高い成長率を示しているといいます。
業界メディアの取材で国内事業の現状と展望を語った宮柱明日香JPBUプレジデント
各事業領域で「ナンバー1」
今後は希少疾患と既存品の育成という2つのアプローチで、ポートフォリオシフトに伴う売り上げ減少に歯止めをかけます。直近では抗サイトメガロウイルス化学療法剤「リブテンシティ」や血漿分画製剤「セプーロチン」の発売を控えており、6月にはアラジール症候群などの治療薬「TAK-625」(一般名・マラリキシバット塩化物)を申請しました。
武田薬品はかつて国内市場でトップを走っていました。近年は順位を落としていますが、巻き返すには新製品が好調な上位陣を凌駕しなければなりません。宮柱氏は自社のポジションについて、各事業領域でナンバー1になることが目標だとし、「顧客からの満足度評価に関して、ゆるぎないこだわりがある」と強調。他社に後れを取っている疾患領域でもトップを目指す考えです。
宮柱氏は04年に武田薬品に入社。MRからキャリアをスタートし、東南アジア勤務を経て22年にJPBU神経精神疾患事業部長に就任しました。インタビューでは「バックグラウンドがMR」であることを重ねて強調。その経験を生かし、顧客価値の向上に愚直に取り組むことが、持続的な事業成長につながるとの思いを語りました。