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ニュース解説

“低分子の大塚”が、大阪の研究所で取り組むバイオロジクス創薬

更新日

亀田真由

得意の低分子創薬でヒット薬を生み出してきた大塚製薬が、バイオ医薬品への取り組みを強めています。買収・提携で開発品や技術を取り入れつつ、2022年に稼働を開始した大阪の新研究所でバイオロジクス創薬を展開。抗体医薬と遺伝子治療を組み合わせた新しいモダリティやCAR-T細胞療法などの開発に取り組んでいます。

 

 

「ものまねしない創薬」モットーに

「フェノタイプ創薬を中心に創薬研究を行ってきて、『ものまねをしない創薬』をモットーに多くのファーストインクラスの医薬品を見出してきた。自社創薬研究の比率は約8割と、業界の中ではかなり高い自社創薬比率を示している」

 

大塚製薬は6月、同社にとって初めてとなる創薬研究に関するメディア向けの説明会を開催。周藤俊樹・大阪創薬研究センター長(取締役研究部門・知的財産担当)はその席で、大塚の創薬研究の歴史についてこう振り返りました。

 

現在、同社の業績を支えるのは、▽抗精神病薬「エビリファイメンテナ」▽同「レキサルティ」▽利尿薬「ジンアーク/サムスカ」――の自社創製の3製品。親会社の大塚ホールディングスは、これら3製品に大鵬薬品工業創製の抗がん剤「ロンサーフ」を加えた4製品を「グローバル4製品」と位置付けており、23年12月期の売上収益は7269億円(前期比17.4%増)とグループ全体の3分の1を稼ぎ出しました。

 

ただ、エビリファイメンテナとジンアーク/サムスカは今年末から来年にかけて特許切れを控えています。大塚HDは6月に発表した28年度までの中期経営計画で、レキサルティとロンサーフに「ネクスト8」と呼ぶ次代の新薬群を加えた10製品の販売拡大でパテントクリフを克服し、持続的な成長を目指す方針を掲げました。これら10製品に導出した2製品を加えた12製品の売上収益は、中計最終年度に9200億円(23年度比5600億円増)を計画。医療関連事業では28年度に1兆6800億円の売上収益を目標としており、特許切れによる3100億円の減収を乗り越え、23年度比で2900億円の増収を目指します。

 

 

買収で抗体の基盤技術獲得

28年以降の成長ドライバーと位置付けるネクスト8には、13年のアステックス・ファーマシューティカルズ、17年のニューロバンス、18年のビステラ買収で獲得した品目が並びます。そのうちの1つが、ビステラ買収でラインアップに加わった抗体医薬sibeprenlimab。指定難病のIgA腎症を対象に開発しているAPRIL中和抗体で、現在、臨床第3相(P3)試験が進行中です。

 

ビステラは、治療標的として有望なエピトープ(抗体が特異的に結合する抗原部位)の立体構造をコンピュータ上で同定し、それと正確に結合する最適な抗体構造を設計する独自のプラットフォーム技術を持ち、大塚は抗体創薬の基盤を求めて同社を買収。ビステラのパイプラインには、IL-2Rを標的とする「VIS171」(P1段階)や補体C5aR1を標的とする「VIS954」(P1段階)、デング熱に対する「VIS513」(P2段階)などが早期段階にあります。

 

大塚は創業の地・徳島で行う低分子創薬に強みを持ち、現在、製品ラインアップにある抗体医薬はイスラエル・テバから導入した片頭痛治療薬「アジョビ」のみ。sibeprenlimabの開発を手はじめに、バイオロジクスの分野でも自社新薬の創出を狙います。

 

大阪に新研究所

バイオロジクス創薬の中心を担うのが、22年に大阪府箕面市に新設した「大阪創薬研究センター」です。同センターには、遺伝子細胞治療、再生医療、抗体医薬などの研究を行う研究室や、プロセス開発研究を実施可能な施設を設置。英国や米国など海外研究拠点との連携ハブとしての機能も担います。

 

 

バイオロジクスの分野で大塚が取り組んでいるテーマの1つが、抗体医薬と遺伝子治療を融合したベクター化抗体。抗体そのものを投与するのではなく、抗体の遺伝子をアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターで標的細胞に送達するもので、部位特異的・持続的に抗体を発現させることができると期待しています。

 

ベクター化抗体開発では昨年9月、新規AAVカプシドの同定技術を持つ米シェイプと眼科領域を対象に共同研究を開始しました。同社の技術は、数十億種のAAV変異体を使った大規模スループットスクリーニングと機械学習を組み合わせたもの。同定されるAAVカプシドは正確な標的指向性を持ち、治療効率や安全性の向上が期待できるといいます。

 

大塚の黒岩義巳・創薬モダリティ研究所所長は、シェイプの技術と自社の抗体を組み合わせることで「単回投与での寛解・根治の可能性も期待できる」と指摘。具体的な標的やベクターの同定も進んでいるといいます。同氏は「加齢黄斑変性などに代表される慢性の眼科疾患では、患者は抗体医薬による定期的な治療を生涯にわたって受け続ける必要があり、患者負担が大きい。標的細胞以外への暴露や安全性の懸念といったデリバリーの課題、高い製造コスト、不十分な臨床効果など、未充足医療ニーズも顕在化してきている。遺伝子を通じた抗体の発現は将来にわたって続くと考えられ、われわれのソリューションは生涯に1度の投与が可能」と話しました。同社は眼科以外の領域への展開にも意欲的です。

 

このほか、CAR-T細胞療法では大阪大から導入した「OPC-415」を開発しており、多発性骨髄腫を対象に国内で臨床第1/2相(P1/2)試験を実施中。阪大からはCD98重鎖を認識する抗体R8H283の独占的実施権も獲得しており、CAR-Tを含む製剤での活用が見込まれています。

 

大阪の研究センターでは完全閉鎖系の全自動培養装置を導入して手作業でのマニュアル操作をなくし、高効率・低コストでのCAR-T製造の実現を目指した研究を行っています。黒岩氏は「実現すれば、自己免疫疾患などがん以外の広範な疾患領域へのCAR-Tの展開が可能になる」と期待を示しました。

 

クライオ電顕やオルガノイドで低分子創薬も強化

大阪の研究センターには、クライオ電子顕微鏡を配備した専用研究棟を設置するなど、低分子創薬をさらに強化するための機能も備えています。大塚はこれまでも、英子会社アステックスで3台のクライオ電顕を活用してきましたが、日本での導入は初めて。大阪のセンターには現時点で世界最高性能となる加速電圧300kVのクライオ電顕を導入し、膜タンパクやタンパク複合体の解析を高度化。主に構造ベース創薬の効率化に活用しており、4台のクライオ電顕で蓄積した高解像度データを予測モデルの1つとしてデジタル創薬に活用することも進めています。

 

さらに大阪のセンターには、大塚が10年前から進めてきたオルガノイド研究の機能も配置。同センターでは脳や眼、肺、腸、腎臓、膀胱など6種類以上のオルガノイドの作成を達成し、電子計測器メーカーのマイクロニクスと開発した全自動培養・解析装置を導入したといいます。現在はオルガノイドを評価系とした低分子創薬を進めており、将来的には再生医療への展開も期待します。

 

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