供給不安が続く中、再編の圧力が高まる後発医薬品業界。生産や品目の集約化に向け、MeijiSeikaファルマとサワイグループホールディングス(GHD)がそれぞれ異なる構想を打ち出しています。前者は複数企業が集まって共同運営する「コンソーシアム方式」、後者は自社工場をフル活用した生産請け負いを提唱。厚生労働省が要請する産業構造改革に向け、先陣を切った格好です。
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複数企業で新法人、屋号統一
MeijiSeikaファルマが提唱するコンソーシアム構想は、少量多品目生産という業界が抱える構造的問題の解決が狙い。複数の後発品メーカーが共同で機能統合法人を設立し、参加企業に製造を委託。納品された製品は統一した1つの屋号で販売します。たとえば3社でコンソーシアムを組む場合、製品XはA社、製品YはB社といった形で製品ごとに生産を1社に集約。そうすることで、残る2社は生産ラインを別の製品に割り当てることができるようになります。同社は、将来的に参加する企業や取り扱い品目が拡大し、相当規模の後発品事業体になることを想定しています。
機能統合法人は生産をコントロールする会社というのが基本的な位置付け。生産には参加企業の既存の設備・施設を活用し、一変申請を伴うような拠点の変更は原則行いません。将来的に設備過多にならないよう、今ある工場を有効活用していくスタンスです。人手不足が深刻な品質保証(QA)/品質管理(QC)はセントラルユニット方式を採用。参加企業から担当者を集め、知識や技術を平準化して見える化し、それによって参加企業のスキル底上げも狙います。
各社が製造した製品は、機能統合法人が薬価の一定割合で買い上げることを想定。販売は営業機能を切り出した機能統合法人が行います。販売機能に強みを持たない製造業者の場合は、機能統合法人に営業を任せることができます。
半年~1年で事業開始可能
コンソーシアム方式にはスピード感を欠くとして否定的な見方もありますが、MeijiSeikaファルマの田前雅也執行役員は「短く見積もれば半年、長くても合意した時点から1年で事業開始が可能」としています。新薬事業で行っているコ・プロモーション、コ・マーケティングでは「契約まで数カ月しかかからない」といい、同社が提唱するスキームなら一変承認は必要なく、承継手続きで屋号を変更することができます。
同社はすでに構想を複数の後発品メーカーに説明していますが、反応はすべてが好意的というわけではなさそうです。多くの後発品メーカーはオーナー会社であり、経営トップはいわば一国一城の主。コンソーシアム形成にあたり、どこがリーダーシップを握るのか、自社の“主権”が脅かされることはないのか、疑心暗鬼もあるようです。利益は製品の売り上げや機能統合法人への出資比率などに応じて配分されますが、業績への影響も不安要素となります。
これに対しMeijiSeikaファルマの小林大吉郎社長は「われわれは機能を提供するだけ。他社がリーダーシップを取るのであれば、フォローするだけでも構わない」と説明。主導権にこだわることなく、2~3社の部分連合であっても早めにスタートさせたい考えです。同社は、どのような品目で何ができるのか、いくつかのケースを挙げてシミュレーションし、対象となる会社に提示。さらにメリット・デメリットを踏まえた具体的な提案もした上で、経営戦略の中で消化できるかを判断してもらうことになります。
サワイ、自社工場をフル活用
一方のサワイGHDは、自らが構造改革の核となる決意を明らかにしました。自社の工場を活用し、赤字品目も含めて生産を請け負う考えを表明。サワイが生産できる品目はサワイに集約すれば他社の生産ラインに空きができ、その分を別の品目の増産に充ててもらうことで供給不足の解消を図ることを呼びかけています。
同社は、現在年間185億錠の生産能力を26年度に220億錠へと拡大させることにしており、30年度にはさらに250億錠まで引き上げる計画。QA/QCに関わる工場の人員も、現在の465人から3年間で570人まで増員します。
澤井光郎会長兼社長は6月に行った中期経営計画発表の記者会見で、将来にわたって後発品産業の中核を担い業界をリードしていくため「品質確保と生産能力拡大に全集中する」と強調。現在の後発品市場は同社にとって「医薬品不足の問題解決に寄与できる大きなチャンス」だとしており、供給不安の早期解消と業界再編・集約化への道筋を自らつける構えです。
厚労省が5月に報告書をまとめた後発品産業のあり方検討会では、「業界の中核を担う自覚のある企業」に再編のけん引役となるよう求めました。サワイは昨年、九州工場で品質不正が発覚しており、真っ先に生産集約化に名乗りを上げたのはその汚名返上のようにも映ります。不採算品再算定という薬価上の追い風も背景に、構造改革をリードする存在でることをアピールしているようです。
実現には懐疑的な見方も
もっとも、両社が打ち出した品目統合に対しては懐疑的な見方もあります。厚労省の後発品関連の検討会で委員を務めていた学識経験者は、「現実性に乏しい」とばっさり切り捨てました。コンソーシアムにしろ生産請け負いにしろ、現在の委受託関係を再整備すれば可能なことだと指摘。独占禁止法上の課題に対応してまで実施するメリットはないとし、「参加する会社が出てくる可能性は低い」と見通します。
後発品市場はこれまで、国の政策誘導によって成長を遂げてきました。しかし、将来を展望すると、多くの企業はバイオ後続品を扱う技術や資金力がなく、低分子頼みで生き残れる時間はそう長くはありません。当面は高齢者人口の増加で数量的には伸びると予想されますが、その先に200社を超える企業がひしめく市場は存在しえないでしょう。
武見敬三厚労相は後発品メーカーのトップを集めた会合で、安定供給には1成分5社程度が目安との考えを伝えました。小林社長はこれによって「いま以上に(品目統合を)真剣に考えるようになる」と話しており、澤井社長も現在の状況をビジネスチャンスととらえています。
それぞれ独自の方向性で集約化に動き出したMeiji SeikaファルマとサワイGHD。厚労省の検討会が5年程度の期間で改革を行うよう求める中、後発品各社は両社の構想についてメリットをどう判断するのでしょうか。