(写真:ロイター)
2024年6月に米FDA(食品医薬品局)が承認した主な新薬と適応拡大を、領域別にまとめました。
【新薬】仏イプセンの原発性胆汁性胆管炎治療薬など
がん
Rytelo|米ジェロン
テロメラーゼ阻害薬「Rytelo」(一般名・imetelstat sodium)は、低・中リスクの骨髄異形成症候群治療薬。赤血球造血刺激因子製剤(ESA)に反応しない(しなくなった)または不適格な輸血依存性貧血を伴う成人患者が対象です。承認の根拠となった臨床第3相(P3)試験では、赤血球輸血への非依存性、ヘモグロビン値の上昇、輸血負担の軽減が確認されました。
消化器
Iqirvo|仏イプセン
「Iqirvo」(elafibranor)は、原発性胆汁性胆管炎に対する約10年ぶりの治療薬として迅速承認されました。ウルソデオキシコール酸(UDCA)に対する反応が不十分な患者には併用療法として、UDCAに不耐容の患者には単剤療法として使用します。同薬は仏Genfitが創製したPPARアゴニスト。イプセンは2021年に同社から全世界(中国と香港、台湾、マカオを除く)での権利を取得しました。欧州でも申請中です。
皮膚
Sofdra|米Botanix
「Sofdra」(sofpironium)は、原発性局所多汗症に対する局所ゲル製剤。汗腺を含む特定の末梢組織に存在するアセチルコリン受容体を選択的に阻害することで発汗速度を低下させると考えられています。701人の患者を対象とした2つのP3試験の結果をもとに承認されました。
血液
Piasky|米ジェネンテック
抗補体(C5)抗体「Piasky」(crovalimab)は、発作性夜間ヘモグロビン尿症治療薬。体重40kg以上、13歳以上の患者に使用されます。中外製薬が独自のリサイクリング抗体技術を使って開発したもので、日本では同社が今年3月に承認を取得。欧州でも近く承認される見通しです。
ワクチン
Capvaxive|米メルク
「Capvaxive」は21価の肺炎球菌結合型ワクチン。従来のワクチンではカバーされていない8種の固有血清型に対応しており、50歳以上の成人の侵襲性肺炎球菌感染症の約84%の原因となる血清型に対応しています。欧州でも申請中で、日本ではP3試験を行っています。
【適応拡大】「Augtyro」のNTRK陽性固形がんなど
がん
Retevmo|米イーライリリー
RET阻害薬「Retevmo」(selpercatinib)は、2歳以上のRET融合遺伝子陽性の甲状腺がんの適応で完全承認を取得しました。全身療法が必要な放射性ヨウ素抵抗性の患者が対象です。同薬は20年、12歳以上の患者を対象に迅速承認を取得。2歳以上の小児には今年5月に対象を広げていました。
Augtyro|米ブリストル・マイヤーズスクイブ
「Augtyro」(repotrectinib)は「NTRK融合遺伝子陽性の局所進行・転移性固形がん」に適応拡大。88人の患者を対象としたP1/2試験の全奏効率と奏効期間をもとに迅速承認されました。チロシンキナーゼ阻害薬の前治療歴を問わずに使用できます。同薬はATP競合性のROS1、TRK A/B/Cを選択的に阻害するチロシンキナーゼ阻害薬。米国ではROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんを対象に23年11月に承認されており、日本でも同適応で申請中。欧州では2つの適応で申請を済ませています。
Blincyto|米アムジェン
CD19とCD3を標的とする二重特異性抗体「Blincyto」(blinatumomab)は、「生後1カ月以降のCD19陽性フィラデルフィア染色体陰性B前駆細胞性急性リンパ性白血病」に適応拡大。化学療法への上乗せを評価したP3試験では、化学療法単独と比べて死亡リスクを58%軽減し、全生存率を有意に改善しました。
Imfinzi|英アストラゼネカ
抗PD-L1抗体「Imfinzi」(durvalumab)は、「成人のミスマッチ修復機能欠損(dMMR)の原発性進行・再発子宮体がん」に対するカルボプラチン+パクリタキセルとの併用療法後の単剤療法が承認。承認の根拠となったP3試験では、化学療法単独と比べて病勢進行または死亡リスクを58%軽減しました。日本や欧州では同試験の結果をもとに、Imfinzi単独療法およびPARP阻害薬「リムパーザ」との併用療法が申請中です。
Keytruda|米メルク
抗PD-1抗体「Keytruda」(pembrolizumab)は、カルボプラチン+パクリタキセルとの併用療法後の単剤療法が「成人の原発性進行・再発子宮体がん」の適応で承認されました。ミスマッチ修復機能の状態にかかわらず使用できます。P3試験では、ミスマッチ修復機能を持つ患者で病勢進行または死亡のリスクを40%、ミスマッチ修復機能欠損を有する患者で70%減少させました。日本や欧州、カナダなどでも申請中です。
Krazati|米ブリストル
KRAS阻害薬「Krazati」(adagrasib)は、「KRAS G12C変異陽性の転移性直腸がん」に適応拡大。フルオロピリミジン、オキサリプラチン、イリノテカンベースの化学療法による治療を受けた患者が対象で、抗EGFR抗体cetuximabと併用します。全奏効率34%、奏効期間5.8カ月を示したP1/2試験の結果をもとに迅速承認を取得しました。同薬は、ブリストル・マイヤーズスクイブが今年1月に買収した米ミラティが開発したもので、米国では同社が22年末に非小細胞肺がん治療薬として承認を取得。欧州でも同適応で今年1月に承認されています。
Epkinly|デンマーク・ジェンマブ
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫治療薬「Epkinly」(epcoritamab)は、新たに再発・難治性の濾胞性リンパ腫の適応が承認されました。対象は全身療法を2回以上受けた成人患者。迅速承認の根拠となったP1/2試験では、完全奏効率60%、部分奏効率22%を示しました。同薬はジェンマブが創製した皮下投与のCD3/CD20二重特異性抗体で、同社と米アッヴィが共同で開発を進めています。日本と欧州でも濾胞性リンパ腫への適応拡大を申請済みです。
精神・神経
Wakix|米ハーモニー
ナルコレプシー治療薬「Wakix」(pitolisant)は、6歳以上の小児に対象を拡大。同薬は仏バイオプロジェクトが開発したヒスタミンH3受容体拮抗薬/逆作動薬で、小児対象の試験は同社が実施。欧州では同社が昨年小児への適応拡大の承認を取得しました。日本ではバイオプロジェクトから導入したアキュリスファーマがP3試験を行っています。
Vyvgart Hytrulo|ベルギー・アルジェニクス
抗FcRn抗体フラグメント製剤「Vyvgart Hytrulo」(efgartigimod alfa/hyaluronidase)は、成人の慢性炎症性脱髄性多発神経炎に適応拡大しました。同疾患に対する治療薬は米国で30年以上ぶり。従来の治療選択肢はコルチコステロイドや血漿分画製剤に限られていました。日本や欧州でも適応拡大を申請中です。
Elevidys|米サレプタ
デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する遺伝子治療薬の「Elevidys」(delandistrogene moxeparvovec)は、4歳以上の歩行不能な患者への使用で迅速承認を取得。あわせて、4歳以上の歩行可能な患者への使用で完全承認を取得しました。同薬は23年、DMD遺伝子変異が見られた4歳~5歳の歩行可能な患者を対象に迅速承認を取得。日本ではP3試験の段階にあり、中外製薬が今年申請を行う予定です。
代謝
Farxiga|英アストラゼネカ
SGLT2阻害薬「Farxiga」(dapagliflozin)は、2型糖尿病の適応で10歳以上の小児に対象を拡大。P3試験では、プラセボに比べてHbA1Cの値を有意に改善しました。欧州でも小児適応で承認済み。日本では成人のみで承認されています。
消化器
Skyrizi|米アッヴィ
抗IL-23p19抗体「Skyrizi」(risankizumab)は、中等度から重度の潰瘍性大腸炎に適応拡大。臨床試験では導入期・維持期とも臨床的寛解を達成しました。12週間の導入療法後は専用のデバイスを使って自宅で投与することが可能です。日本でも6月に同適応で承認されており、維持期に使うオートドーザーも承認を取得。欧州でも近く承認される見通しです。
呼吸器
Sirturo|米ヤンセン
「Sirturo」(bedaquiline fumarate)は、多剤耐性肺結核の適応で完全承認を取得しました。同薬は2012年末に18歳以上を対象に迅速承認を取得。19年に12歳以上、20年に5歳以上に対象を広げてきました。欧州では5歳以上、日本では成人を対象に承認されています。
ワクチン
Arexvy|英グラクソ・スミスクライン
RSウイルスワクチン「Arexvy」は、基礎疾患を有するなど高リスクの50~59歳の成人に接種対象者を拡大。従来は60歳以上が対象でした。欧州や日本でも60歳以上を対象に承認されており、50~59歳への対象拡大を申請中。49歳以下の成人に対する開発も進んでいます。
【バイオシミラー】サムスンバイオのustekinumabなど
Nypozi|英Tanvex BioPharma
米国で4剤目となるG-CSF製剤「Neupogen」 (filgrastim)のバイオシミラー。カナダでも承認されています。
Pyzchiva|韓国サムスンバイオ
米国で3つ目の「Stelara」(ustekinumab)のバイオシミラーで、同薬との互換性を持っています。販売はサンドが行う予定で、米ヤンセンバイオテックとの契約に基づき25年2月以降に発売される見通しです。
Ahzantive|独Formycon
米国で3剤目となる眼科用VEGF阻害薬「Eylea」(aflibercept)のバイオシミラー。欧州でも申請中です。