大手医薬品卸4社の2024年3月期業績は、売上高が前期比5.3%増、営業利益が9.3%増となりました。新型コロナ治療薬やスペシャリティ医薬品の販売増、受診行動の回復による市場の成長が業績を後押し。営業利益率は1.36%で、前期から0.05ポイント上昇しました。
メディパル、3.6兆円でトップ
売上高はメディパルホールディングス(HD)、アルフレッサHD、スズケン、東邦HDの4社とも前期を上回り、営業利益はメディパルHDを除く3社が増益となりました。
連結売上高トップは3兆5587億円(前期比5.9%増)のメディパルHD。長崎県と佐賀県で事業を展開する地場卸「東七」の完全子会社化や、医薬品流通と検体回収を手掛ける「メディスケット」の本格稼働も増収に寄与しました。
売上高2位は2兆8585億円(6.0%増)のアルフレッサHD。3位は2兆3865億円(3.1%増)のスズケンで、4位は東邦HD(1兆4767億円、6.1%増)でした。取引卸の絞り込みといった製薬企業の流通体制変更の影響は、アルフレッサHDや東邦HDが業績にプラスに作用したとする一方、スズケンでは約591億円の減収要因となりました。
本業の医薬品卸売事業に限ると、トップはアルフレッサHDの2兆5399億円(6.0%増)。スズケンがメディパルHDをわずかに上回り、2兆2992億円(3.2%増)で2番手につけました。
会社全体の営業利益率は、1.46%(前期比0.05ポイント増)のスズケンがトップ。増収に加え、仕入原価率の上昇や物価高を踏まえた流通コストに基づく価格交渉が利益を押し上げました。営業利益率の上昇幅が最も大きかったのは、0.23ポイント増のアルフレッサHD。一方、メディパルHDは将来に向けた事業投資により3.4%の減益となり、利益率も0.2ポイント減の1.3%となりました。
GL改訂で「24年は重要な年に」
医薬品流通をめぐっては、今年、厚生労働省の流通改善ガイドライン(GL)が改訂されました。
今回の改訂では、基礎的医薬品や安定確保医薬品(カテゴリーA)、不採算品再算定品といった特に医療上の必要性の高い医薬品について、「価格交渉の段階から別枠とし、個々の医薬品の価値を踏まえた単品単価交渉とすること」との記載を追加。新薬創出加算品の単品単価交渉の継続も明記され、総価取引の改善へのメッセージが強調されました。
安定確保医薬品や基礎的医薬品に該当するような古くから使われている医薬品は、総価交渉の中で価格の調整弁として使われてきた実態があり、22年度の薬価調査では、安定確保医薬品の乖離率は7.7%と全体の平均(7%)を超えています。
GLにはまた、いわゆる1社流通について「メーカーは自らまたは卸売業者と協力し、その理由について丁寧に情報提供を行うこと」と盛り込まれました。改訂にあたって厚労省が昨年行った調査では、1社流通を行うのはメーカー64社の235品目。うち134品目が希少疾病用医薬品、それ以外(希少疾病用医薬品との重複を除く)は生物由来製品が34品目、再生医療等製品が8品目ありました。
さらには、価格交渉代行業者やボランタリーチェーンに対してもGLの順守の徹底を求める項目が新設されました。
24年度はメディパル以外が営業減益を予想
スズケンの浅野茂社長は24年3月期の決算説明会で、GLの改訂を受け「24年度は医薬品卸にとって大変重要な年と考えている」と強調。「メーカーからの信頼を得るためにも、今回の流通改善がラストチャンスと考えている」と話しました。医薬品廃棄ロスの削減や注力するデジタルの活動を通じ、薬価差以外の要素で医療機関に取引先として選ばれるよう、取り組みを強化していくとしています。
同社の25年3月期の業績予想は、コロナ関連商品の売り上げが減少することで0.6%の減収、18.3%減益。ほかの3社をみても、増収増益を計画するのはメディパルHDのみで、薬価改定や公的支援の終了に伴う新型コロナ関連製品の需要減を背景に、アルフレッサHDと東邦HDが営業減益を予想しています。
メディパルHDは昨年に高機能物流センター(ALC)の全国網を完成させたところで、高い出荷精度やBCP対応を強みとしていく考え。MR認定試験合格者を介した営業活動による付加価値の推進も進めています。アルフレッサHDも今年5月にグループ最大の物流拠点となる「つくば物流センター」を稼働し、関東エリアを強化しました。東邦HDは昨年7月に医薬品と検査薬の融合を目指して営業部門を中心に組織を改変し、2次医療圏をベースにした体制構築を進めています。各社とも新規事業の創出に向けた取り組みも進みますが、本業で付加価値を生み出し、利益につなげられるかが業績拡大に向けた1つの鍵となりそうです。