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高齢化と人手不足で医療・介護が届けられなくなるかもしれない状況に製薬企業は何をすべきか|コラム:現場的にどうでしょう

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人手不足が社会に影響を及ぼし始めています。4月にはトラックドライバーに対する時間外労働時間の上限規制が始まり、人手不足で荷物が運べなくなる「2024年問題」が社会的な注目を集めています。運転手が足りず減便や廃止を余儀なくされる路線バスも相次いでいます。人口減少と高齢化が進む中、人手不足は物流・交通にとどまらずどの業界でも頭の痛い問題となっています。

 

新たな医療の形づくりに積極的に参加すべき

2024年問題も去らぬうちに、来年には「2025年問題」がやってきます。第1次ベビーブームの1947〜49年に生まれた、いわゆる「団塊の世代」が全員75歳以上の後期高齢者となるのがこの年で、人口の2割が後期高齢者という超高齢化社会に突入します。

 

そうなると、労働力不足は一層深刻化し、社会インフラの維持もさらに難しくなっていくことが懸念されています。私たちが身を置く医療や介護の分野も例外ではありません。需要はますます増大する一方、今ですら担い手は不足している状況です。医療や介護を求める人全員にサービスを届けるのは難しくなるかもしれません。

 

深刻なのが介護です。厚生労働省の統計によると、要介護(要支援)認定を受けている人の数は今年1月時点で706.7万人おり、その大半を75歳以上が占めます。要介護(要支援)認定者数は2040年ごろにピークを迎え、988万人に達すると推計されており、あと15年ほどで1.4倍になる計算です。

 

一方、担い手となる介護職員をめぐっては、離職率は高止まりしている反面、採用率は下がっています。これまでは採用率が離職率を上回ってきましたが、その差は小さくなってきており、このままいけば逆転する日も遠くないかもしれません。労働人口そのものが急激に減少していく中、需要に供給が追いつかなくなる状況は目の前に迫っています。

 

高齢化と人口減少の影響は特に地方で顕著です。地方の医師不足は深刻で、診療を縮小したり休止したりする医療機関も出てきています。

 

製薬企業がいくら良い薬をつくっても、それを届けてくれる人たち(物理的に運んでくれる人や、処方したり実際に投与したりする人)がいなければ、患者さんに使ってもらうことはできません。製薬企業も、高齢化と人口減少に対応した新たな医療の形づくりに積極的に参加すべきでしょう。

 

届かなければ意味がない

たとえば、離島を抱える自治体では、離島と本土を5Gでつなぎ、離島の医療機関が本土の医療機関の支援を受けながら専門的な医療を提供する取り組みが始まっています。ウェアラブルデバイスの開発も進んでいます。精度など課題はあるものの、進化によって将来的には誰もが装着したデバイスによって体の異変を見つけ、即座に医療機関とつながるような世界になるかもしれません。そのためには、幅広い疾患をチェックするための新しい診断法の開発も必要です。

 

物流については、ネットスーパーなどを運営する大手小売企業との提携で処方薬を配送してくれるサービスはすでにありますし、ドローンを使った医薬品の配送実験も行われています。

 

こうした技術やサービスを組み合わせ、診察から医薬品の処方まで1つのアプリで完結させるようなサービスも展開され始めています。製薬企業としてもこのような取り組み(デバイスの開発、診断技術の開発、遠隔診療への対応)に参画する必要があると感じています。

 

遠隔での医療提供に加え、もう1つ考えられるのが、医療を中心としたまちづくりです。

 

実際に、官民さまざまな組織が連携して、地域の基幹病院の周囲にまちをつくり、健康の維持・増進の拠点となる施設・設備や、高齢者向けサービス、付き添いの家族が宿泊できるサービスなどを配置したスマートシティの構築が検討されています。バスや乗り合いタクシーを自動運転で走らせることができれば理想でしょう。

 

また、病院へのアクセスだけではなく、ケアギバーの訪問や健康増進活動への参加など、病気になる前から病気になったあとまで幅広くカバーできるようなまちづくりができれば、安心して暮らすことができます。

 

繰り返しになりますが、どんなに革新的な技術や薬剤が開発されても、患者さんに届けることができなければ意味がありません。高齢化を見越して、診断や治療へのアクセスを最大化することを考えるべき時期が来ているのではないでしょうか。つまり、製薬企業は医療提供側の立場として医療中心のまちづくりに参画し、患者さんがアクセスしやすい医療の形を模索する必要があると私は思います。

 

製薬企業だからこそ考えられることがある

高齢化は日本だけの問題ではありません。欧米やアジアの国々も同様の課題を抱えており、対応が議論されています。そして、日本は「高齢化の先進国」として世界から注目されています。

 

高齢化に伴う問題は2025年問題にとどまりません。5年後の「2030年問題」では65歳以上が人口の3分の1を超えるとされています。医療や介護だけではなく、あらゆる業界で人手不足や人件費高騰が問題になると予想されており、社会のあり方が大きく変わる可能性があります。

 

DXやAIで何とかしよう!というざっくりとした話もあるようですが、それはつまるところ、社会のあり方が変わる、という意味だと私は思っています。そのような状況では、医療提供の形も変わらざるを得ないでしょう。新規の技術を提供していく観点でも、環境整備の観点でも、製薬企業だからこそ考えられることがたくさんあると私は信じています。

 

製薬企業が薬をつくることだけ考えていれば良かった時代はとうに終わっています。患者さんに医療をどのように届けるのか、そのために何をする必要があるのかも含めて、国や自治体を含めたさまざまな業界と議論し、実行に移すべき時はすでに来ているのではないでしょうか。

 

ノブ。国内某製薬企業の化学者。日々、創薬研究に取り組む傍らで、研究を効率化するための仕組みづくりにも奔走。Twitterやブログで研究者の生き方について考える活動を展開。
X:@chemordie
ブログ:http://chemdie.net/

 

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