2月のコラムで、同僚から「医療の現場を見たほうがいい」と言われたと書いたところ、とある病院の薬剤室長さんから「よかったら案内しますよ」と連絡をいただき、先日、見学に行ってきました。
私はこのコラムで何度か「書いてつながる面白さ」について書いてきましたが、書いているとこんな機会にも巡り会えるんだな、などと考えながら現地へと向かいました。コラムを書き始めてもうすぐ2年半になりますが、続けてきて良かったなと思いますし、こうしていろんな方に声をかけてもらえるのは本当にありがたいことです。
病院に着くと、薬剤室長さんが薬剤室に迎えてくださり、まずは薬学生向けの資料を使って病院や薬剤師のことを教えてくれました。近年、病院薬剤師を志望する学生は減っているそうですが、この病院では毎年コンスタントに新卒薬剤師を採用しており、入職後1年で独り立ちできるように教育しているそうです。薬剤室としては「薬物治療の牽引者」を目指していて、病棟業務を重視している点も印象的でした。
質疑応答も含め1時間ほどお話したあと、病院内を見て回りました。病棟や外来と薬剤室の結びつきや、多職種連携などについても教えていただき、非常にためになりました。
心に残ったのは、見学中、室長さんが、患者さんや見舞いに来たであろうご家族、そして医療スタッフなど、困っていそうな人を見かけるとすぐに「どうしました?」と声をかけていたことです。その所作があまり自然で、何かあったら私もこの病院にかかりたいなと思ってしまいました。
医療者あってこそ薬が患者に届く
病棟や外来を一通り見て回ったあと、最後に薬剤室を見学させていただきました。調剤室には、粉薬を分包する機械や錠剤を一包化する機械、アンプルやバイアルを患者ごとに仕分ける機械などが並んでおり、効率化と同時に安全を確保する体制になっていることを知りました。
デジタル化・機械化が進んだ調剤室の中で最も印象に残っているのが、抗がん剤治療を受ける患者さんごとに用意されたファイルです。そこには、その患者さんがどんなレジメンの治療を受けているのか、投与は何コースまで行われているのか、曝露に注意すべき薬剤は何かといった情報が、誰が見てもひと目でわかるようにまとめられた紙が入れられていました。多職種で目線をそろえ、正確かつ安全に治療を提供しようという思いが伝わってくるもので、医療者のこうした取り組みがあってこそ医薬品が意味のある形で患者に届くのだということを感じました。
こうした機会は初めてだったので、別の病院にはまた別の形があるんだと思いますが、患者さんに良い医療を提供するには多職種の連携が重要であることをあらためて認識しましたし、製薬企業もその一員であらねばならないと身の引き締まる思いがしました。
見学を受け入れていただいた薬剤室長さんにお礼をお伝えして、今回の原稿を締めくくりたいと思います。貴重な機会をいただき本当にありがとうございました。
※コラムの内容は個人の見解であり、所属企業を代表するものではありません。
黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。アステラス製薬ヘルスケアポリシー部所属。免疫学の分野で博士号を取得後、約10年間研究に従事(米国立がん研究所、産業技術総合研究所、国内製薬企業)した後、 Clarivate AnalyticsとEvaluateで約10年間、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率、開発コストなど)を提供。2023年6月から現職。SNSなどでも積極的に発信を行っている。 X:@munehisa_k note:https://note.com/kurosakalibrary |