インタビューに応じた米モデルナのフランチェスカ・セディアCMO
米モデルナは今年、日本でmRNAベースのRSウイルスワクチンを承認申請する方針です。ほかにも、冷蔵保管の新型コロナウイルスワクチンやサイトメガロウイルスワクチン、インフルエンザと新型コロナの混合ワクチンなどを順次、日本市場に投入していく考え。来日したチーフ・メディカルアフェアーズ・オフィサー(CMO)のフランチェスカ・セディア氏に、日本での開発方針などを聞きました。
コロナは終わっていない
――日本では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの特例臨時接種が3月末で終了し、4月から定期接種・任意接種へと移行しました。COVID-19ワクチンにとっては1つの大きな節目となりますが、これまでのワクチンの開発・供給を振り返っていかがですか。
COVID-19のパンデミックは非常に恐ろしいものだった。製薬業界、アカデミア、規制当局、各国政府の協業なしに乗り越えることはできなかっただろう。そうした意味で、とてつもなく大きな尽力と、非常に強いパートナーシップが必要だった。
ワクチンの登場前後で、COVID-19をめぐる様相は一変した。ワクチンによって何百万もの人が死を免れ、入院することなく、さまざまな症状に苦しむことがないという状況を生めている。これは確信を持って言えることだ。モデルナのCOVID-19ワクチンはこれまでに、契約ベースで世界全体で10億回分、日本に限っても2億回分供給されている。
ワクチン接種が成功裏に行われたのは、各国政府が積極的にプログラムを行ったからだ。質問にもあった通り、それはもう終了したが、パンデミックからエンデミックに変わったからといって新型コロナウイルスが消えたわけではない。WHOも最近発表した声明で「エンデミックになってもガードを下げてはいけない」と言っている。パンデミックでわれわれも多くのことを学んだ。コロナウイルスは変異が非常に速く、それにあわせてワクチンもアップデートしていかなければならない。
ワクチンで感染を防いだり、死亡率・入院率を下げたりすることは重要だ。一方で、罹患した人の中には「Long COVID」と呼ばれる後遺症に苦しむ人もいて、その影響は高齢者だけなく、若い人、働く世代にも及んでいる。スウェーデンで行われている大規模なコホート研究では、ワクチン接種を重ねるほどLong COVIDを防げるという結果が出てきている。
今一度、認識を新たにしなければならないのは、コロナは終わっていないということだ。われわれはこれからも世界中の人を守っていきたいと思っているし、もちろんそこには日本の人々も含まれている。
冷蔵保管のコロナワクチン、日本でもP3
――3月の投資家向け説明会で主なワクチンの最新の開発状況を公表しました。日本での新製品の開発計画、開発状況を教えてください。
モデルナは日本を重要な国ととらえており、計画中あるいは進行中の臨床開発がある。
まずはCOVID-19。変異株に対応したワクチンの開発を進めている。WHOなどから「今年の株はこれ」というのが出てくると思うので、日本の秋の接種に間に合うようにワクチンをアップデートしていく。
2つ目がRSウイルスワクチンだ。高齢者向けに開発しており、すでに世界各国で申請を行っているが、日本でも2024年中の申請を予定している。RSウイルスワクチンとしては初のmRNAワクチンとなる見込みで、臨床試験では高い有効性、忍容性、安全性が確認されている。医療従事者にとって使いやすいプレフィルドシリンジとして提供する。
その次に来るのが次世代COVID-19ワクチン。冷蔵での保管を可能にしており、われわれの既存製品に比べてポテンシャルが高い。すでに臨床第3相(P3)試験の結果が出ており、現在のものより高い免疫応答、高い有効性が示された。日本ではこの試験とは別にP3試験を進めている。
COVID-19と季節性インフルエンザの混合ワクチンも日本に導入していきたいと考えている。別々に2回打たなくてよくなれば利便性が上がるし、行政上も大きな利点がある。
サイトメガロウイルスワクチンも重要だ。現在、世界でP3試験が行われており、すでに50例ほどの症例が登録されている。81例の登録でデータ解析ができると考えており、年内にはの症例数に到達すると見ている。
モデルナは、呼吸器、潜在性ウイルス、その他の病原体に対するワクチンとして28の開発プログラムを進めている。ある程度進めば日本でもこれらを開発していきたいと思っているし、そうした段階になれば計画に入って来るだろう。
mRNA、多様な疾患領域で役割担う
――mRNAワクチンの課題と認識している点、それに対する取り組みを教えてください。
mRNAのプラットフォームと聞くと、非常に新しいテクノロジーのように聞こえるかもしれない。しかし、COVID-19での開発、接種を踏まえると、すでに世界中で何十億もの症例をもとにデータを積み重ね、非常に大きな研究がなされているプラットフォームだと言える。
重要なのは啓発活動だ。どのようにしてmRNAが効いているのか、ほかのワクチンと作用機序はどう違うのか、啓発して機序そのものを理解してもらえれば、懐疑的な考えの人も減っていくのではないかと思う。
われわれはmRNAプラットフォームにのみに集約して活動している会社だ。したがって、われわれの焦点は常に自分たちの持っているテクノロジーを最適化していくことにある。先ほどお話しした通り、次世代COVID-19ワクチンは保存の際の安定性という課題に対して改善を求めて開発している。そうすることでさらにアクセシビリティを上げていくことができると考えている。
もう1つ重要なのは用量だ。ここについてもアップデートしていくべきだと考えている。パンデミック時は高い有効性を求めてあのような用量を設定したが、多くの人が何度も接種し、ある程度ベースはできていると思うので、用量についても改善して忍容性を高めたい。
――感染症ワクチン以外の分野でもmRNAの開発を進めています。モダリティとしてのmRNAの将来をどのように展望していますか。
われわれのプラットフォームにはユニークな特徴がある。1つの脂質ナノ粒子(LNP)に複数のmRNAを入れて複雑な抗原に対応できる技術を持っている。このようなプラットフォームを活用すれば、感染症領域だけでなく、オンコロジーや代謝性疾患といったところにも簡単に広げていけるのではないかと考えている。
COVID-19以外の領域でも、見通しは非常に明るいのではないかと思っている。さまざまな疾患領域に展開していく可能性が高く、mRNAは今後の薬剤開発のさまざまな領域でその役割を担っていくだろう。