先月のコラムで「医療の現場を知らないので、この目で見て、感じて、新しい視点を持てるようになりたい」と書いたところ、多方面からいろいろな声をいただきました。ありがたいことに「ウチの病院を見に来てもいいよ」と言ってくださる医療関係者の方もいて、近々、見学させてもらえることになりました。
社内では、もともとMRをしていて現在は違う部署にいる人から「昔は確かに医療現場を見る機会があったなぁ。あれは本当にいい機会だったと今になって思う」と言われました。フムフムと聞いていると、その人はこう続けました。「黒坂さん、医療現場を見るのも大切ですが、医薬品製造の現場も見ておくといいですよ」
その言葉で思い出したのは、日本製薬(前の前の前の会社)に入社した2008年に、研修の一環で泉佐野(大阪)と成田(千葉)の工場を見学したときのことです。特に血漿分画製剤を製造する成田工場(現在は武田薬品工業の工場になっています)の見学は深く印象に残っています。工場に入るとまず、おそらく血漿とアルコールだと思いますが独特のにおいに圧倒され、解凍した血漿バッグ(たぶん400mL)を1つ1つローラーのような機械に入れている作業に目を見張りました。「地道な作業の積み重ねで薬ができているんだな」と感じたのを覚えています。
血漿分画製剤の製造は一般的な医薬品のそれと比べるとかなり特殊だと思うので、低分子医薬品や抗体をつくっているところも見てみたいななどと考えていたところ、ふと気付きました。製造に限らず、社内のほかの部署、言い換えれば製薬企業の各機能がどんな仕事をしているのか、私はほとんど知らないのではないかということに。
私は今の会社に入ってまだ9カ月しか経っておらず、新参者ゆえの感覚かと思いきや、製薬企業は機能ごとに組織が細分化され、専門化されていることを考えると、他部署が何をしているのか知らないという人は案外多いのではないかとも思うのです。
大切にしたい「語る機会」と「知る機会」
私はアドボカシー活動という仕事の性質上、他部署と連携することも多いのですが、彼ら・彼女らがどんな仕事をしているのか、表面的には知っていても(知っているつもりになっているだけかもしれませんが)実のところはよく分からないんですよね。そもそも、社内にどんな部署があるか全部言ってみろと言われても多分言えません。
もちろん、一人ひとりの仕事を事細かに知ろうなんてことは無理なわけですが、多少なりとも知っていれば、連携がスムーズに進んだり、新しいアイデアが生まれたり、人脈が広がったり、特に私のような仕事をしている者にとってはいいことがありそうだなと思っています。
それは逆もまた然りで、私もよく「黒坂は(黒坂のいる部署は)どんな仕事をしているのか」と聞かれます。「ヘルスケア産業における課題をともに語り、ともに解決する仲間を見つける旅」なんて答えることもあるんですが、私の中ではそれが一番しっくりくる説明だったとしても、聞いた側からすると「???」ですよね。抽象的過ぎますもん。私自身ももっと自分の仕事を具体的に語れるようになろうと思いますし、ほかの部署・人がどんな仕事をしているのか知る機会を大切にしていきたいと思っています。
というわけで、つい先日、社内の開発部門の若手向け勉強会でお話しをする機会があり、自己紹介に続いて今の仕事について詳しく話してみました。うまく伝わったかどうか分かりませんが、興味は持ってもらえたようで、まずはそれだけでもよかったなと感じました。一方、勉強会後の懇親の場では、開発のことについて色々と聞くことができ、開発の人たちがどんな仕事をしているのか少しだけ理解できて嬉しかったです。もっと色々と知りたくなりました。
※コラムの内容は個人の見解であり、所属企業を代表するものではありません。
黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。アステラス製薬ヘルスケアポリシー部所属。免疫学の分野で博士号を取得後、約10年間研究に従事(米国立がん研究所、産業技術総合研究所、国内製薬企業)した後、 Clarivate AnalyticsとEvaluateで約10年間、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率、開発コストなど)を提供。2023年6月から現職。SNSなどでも積極的に発信を行っている。 X(旧Twitter):@munehisa_k note:https://note.com/kurosakalibrary |