米国で非アルコール性脂肪肝炎(NASH)治療薬が初めて承認され、続く新薬開発への注目が高まっています。国内でも海外勢を中心に大手製薬企業が臨床試験を進めており、開発競争が激しくなっています。
マドリガルのRezdiffra、4月に米国発売へ
米FDA(食品医薬品局)は3月14日、米マドリガル・ファーマシューティカルズが開発したNASH治療薬「Rezdiffra」(一般名・resmetirom)を迅速承認しました。FDAがNASH治療薬を承認するのは初めて。対象は肝臓の線維化のステージがF2~F3の患者(ステージはF0=線維化なし~F4=肝硬変の5段階)で、マドリガルは4月に販売を開始する予定です。
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NASHは脂肪肝が悪化したもので、肝臓に脂肪が過剰に蓄積することで炎症や線維化が起こる疾患。進行すると肝硬変や肝がんになり、命に関わります。発症に至る原因はまだはっきりとはわかっていませんが、肥満、2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症といった生活習慣病との関連が考えられています。
FDAが初めて承認したNASH治療薬「Rezdiffra」(マドリガル提供)
線維化を改善
Rezdiffraは甲状腺ホルモン受容体β(THR-β)作動薬。THR-βは肝細胞に多く発現する甲状腺ホルモン受容体ですが、NASH患者ではその発現が低下することが知られています。RezdiffraはTHR-βの働きを活性化することで肝臓の脂肪代謝を改善し、脂肪の蓄積を減らします。
迅速承認の根拠となった臨床第3相(P3)試験では、Rezdiffraを1日1回服用した群はプラセボ群と比べて投与開始52週後にNASHの消失(線維化の進展を伴わない疾患活動性スコアの2ポイント以上の低下を含む)または線維化の改善(疾患活動性スコアの悪化を伴わず肝線維化ステージが1以上改善)が認められた患者の割合が有意に高いことが示されました。
NASHの患者数は肥満人口の増加とともに急増しています。有病者数は日本で200~300万人、世界で数億人とされ、今後も増加するとみられています。一方、治療薬の開発はこれまで失敗続きでした。NASHの病態にはさまざまな因子が関わっているとされ、それゆえに開発の難易度も高く、複数の新薬候補がP3試験まで進みながら有効性を示せず開発中止を余儀なくされてきました。
セマグルチドがP3、P2には複数品目
Rezdiffraの承認により、開発中のほかの新薬候補への期待も高まっています。日本ではRezdiffraの開発は行われていませんが、外資系を中心に複数の企業がNASHに対する治療薬の開発を進めています。
最も進んでいるのは、ノボノルディスクファーマのGLP-1受容体作動薬セマグルチドです。2型糖尿病や肥満症の治療薬としてすでに承認されている同薬は、Rezdiffraと同様に中等症~進行したNASHを対象にP3試験を実施中。ノボはほかにも、脂質や糖の代謝を改善する作用を持つ線維芽細胞増殖因子21アナログ「NN9500」のP2試験を進めています。
リリーやBI、MSDもGLP-1製剤を開発
GLP-1受容体作動薬は、その多面的な作用によって肝臓の脂肪を減らすと考えられています。ノボのほかにも複数の企業がNASH向けにGLP-1受容体作動薬の開発を進めており、日本イーライリリーは2型糖尿病治療薬として承認されているGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドのP2試験を実施中。日本ベーリンガーインゲルハイムとMSDはGLP-1/グルカゴン受容体作動薬のP2試験を行っており、アストラゼネカもGLP-1/グルカゴン受容体作動薬のP1試験を進めています。
ギリアド・サイエンシズはノボと組んで、自社のACC阻害薬「GS-0976」、FXR作動薬「GS-9674」とセマグルチドの3剤併用療法のP2試験を実施中。ファイザーはDGAT2阻害薬「PF-06865571」とACC阻害薬「PF-05221304」のP2試験を行っています。ACC阻害薬とDGAT2阻害薬は脂肪の合成を抑制し、FXR阻害薬は脂質や糖の代謝を改善します。
NASH治療薬は市場としても有望で、Rezdiffraはピーク時の売上高が50億ドル(7500億円)に達するとの予測もあります。海外では、複数のベンチャー企業も中期から後期段階で臨床開発を進めており、未開拓の市場をめぐる開発競争は今後も激しさを増しそうです。