武田薬品工業が今年、国内で新薬ラッシュを迎えます。現在、6つの新薬を申請中で、いずれも希少疾患や難病、がんを対象とした薬剤です。高血圧症治療薬「アジルバ」が特許切れで売り上げを大きく落とす中、国内でもポートフォリオのスペシャリティ化が進みます。
5つ以上承認なら18年以降最多に
武田薬品の新薬(新規有効成分含有医薬品)の年間承認取得数は、▽2018年2つ▽19年2つ▽20年4つ▽21年3つ▽22年2つ▽23年1つ――。今年、5つ以上の承認取得となれば、近年で最も新薬の多い年となります。業界全体では、20年にノバルティスファーマが6新薬の承認を取得したのが18年以降の最多です。
武田薬品が現在申請中の6品目のうち、先天性プロテインC欠乏症治療薬の乾燥濃縮人プロテインC(製品名・セプーロチン静注用)、後天性血友病A治療薬スソクトコグ アルファ(オビザー静注用)、先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)治療薬アパダムターゼ アルファ/シナキサダムダーゼ アルファ(アジンマ静注用)の3品目は、2月に開かれた厚生労働省の専門部会が承認を了承済み。順調にいけば5月の薬価収載が見込まれます。
これら3品目はいずれも稀な血液疾患を対象とした薬剤で、オビザーとアジンマは希少疾病用医薬品に指定されています。
オビザーは遺伝子組替えブタ血液凝固第VIII因子製剤。対象とする後天性血友病Aは、ヒトの第VIII因子に対するインヒビター(自己抗体)が出現することで血液が固まりにくくなる疾患です。治療薬としては、第VIII因子を迂回して凝固を促進するバイパス製剤や、第VIII因子の機能を代替する抗血液凝固第IXa/X因子二重特異性抗体がありますが、第VIII因子を直接的に補充する治療は初となります。
アジンマが対象とするcTTPは、ADAMTS13という酵素の欠乏によって血小板の凝集が起こり、微小血管に異常な血液の凝固が生じる疾患。主な症状は溶血性貧血と血小板低値(血小板減少症)で、アジンマはADAMTS13を補充する初めての薬剤となります。
収益構造様変わり
このほか、申請段階には転移性大腸がん治療薬フルキンチニブ、サイトメガロウイルス感染症治療薬マリバビル、無または低ガンマグロブリン血症治療薬の人免疫グロブリン/ヒトヒアルロニダーゼ組み合わせ製剤が控えています。
フルキンチニブは香港のハッチメッドから導入したVEGFR阻害薬。海外で「HYQVIA」の製品名で販売されている人免疫グロブリン/ヒトヒアルロニダーゼ組み合わせ製剤は、免疫グロブリンの投与直前にヒアルロニダーゼを投与することで免疫グロブリンの大量投与を可能にし、投与の頻度を既存薬に比べて減らした薬剤です。マリバビルはpUL97キナーゼを阻害する抗ウイルス薬で、希少疾病用医薬品に指定されています。
武田薬品はかつて、高血圧症や糖尿病といった生活習慣病を得意としていましたが、19年のシャイアー(アイルランド)買収などを契機にスペシャリティ領域にシフト。16年には糖尿病の創薬研究からの撤退という「大きな決断」(クリストフ・ウェバー社長)もありました。
現在のグローバル売上収益の構成(24年3月期第3四半期時点)は▽消化器系疾患29%▽希少疾患18%▽血漿分画製剤(免疫疾患)19%▽オンコロジー11%▽ニューロサイエンス15%――となっています。糖尿病治療薬「アクトス」、PPI「タケプロン」、ARB「ブロプレス」の3製品で売り上げ全体の半分以上を稼いでいた時代から15年ほど経ち、収益構造は様変わりしました。
後発品参入の「アジルバ」売り上げ半減
国内でも21年に糖尿病治療薬4製品(ネシーナ、リオベル、イニシンク、ザファテック)を帝人ファーマに売却。アクトスやブロプレス、タケプロンなどは16年から17年にかけて武田テバ薬品に譲渡するなど、ポートフォリオの見直しを進めてきました。
武田薬品の23年3月期の国内売上収益は5120億円(前期比22.3%減)。前期に糖尿病治療薬4製品の譲渡対価1330億円を計上した反動で大幅な減収となりました。24年3月期は第3四半期までで前年同期比12.1%減。高血圧症治療薬「アジルバ」への後発医薬品参入が響いています。
23年3月期の国内主要製品の売上収益を見てみると、トップは消化性潰瘍治療薬「タケキャブ」(935億円)ですが、2番手はアジルバ(729億円)、5番手は高脂血症治療薬「ロトリガ」(167億円)と生活習慣病の治療薬が国内売り上げの2割弱を占めていました。しかし、ロトリガには22年に後発品が参入し、23年3月期に売り上げが半減。昨年6月に後発品が発売されたアジルバも今期、第3四半期までの累計で前年同期比から48.7%の売り上げ減となっています。
生活習慣病領域の大型製品の売り上げが縮小する一方、スペシャリティ領域の新薬を相次いで投入することで、国内のポートフォリオもグローバルのそれに近づいていきます。
ポートフォリオの変化を踏まえ、22年4月にはオンコロジー以外の国内事業を所管するジャパンファーマビジネスユニット(JPBU)の組織体制を刷新。▽消化器系疾患▽神経精神疾患▽希少疾患▽ワクチン――の4事業部(ビジネスユニット)体制に再編し、子会社・日本製薬の血漿分画製剤事業を希少疾患事業部に統合しました。消化器、神経精神、ワクチンの各事業部は地域制とする一方で、希少疾患事業部では専門分野ごとのフランチャイズ制を敷いています。
武田薬品のグローバルのパイプラインを見てみると、臨床第2相(P2)試験からP3試験の段階にある新薬候補21品目・適応拡大19プロジェクトのうち、半数以上の23品目・プロジェクトが希少疾病用医薬品の指定を受ける可能性があるといいます。国内、海外ともに、希少疾患ビジネスの存在感は今後さらに高まっていきそうです。