デンマークのノボノルディスク本社(ロイター)
[ロイター]デンマークの製薬大手ノボノルディスクの親会社であるノボ・ホールディングスは2月5日、米国の医薬品受託製造会社キャタレントを165億ドル(約2兆4500億円)で買収すると発表した。キャタレントは、ノボの肥満症治療薬「ウゴービ」の重要な製造委託先で、買収を通じてノボは世界的に需要が高まる肥満症治療薬の増産競争で勝ちを狙う。
「フィル・フィニッシュ」強化
ノボ・ホールディングスのカシム・クタイCEO(最高経営責任者)はロイターに対し、今回の買収はノボノルディスクを支援し、「フィル・フィニッシュ(充填仕上げ)」のキャパシティを拡大してウゴービの需要急増に対応するという同社の戦略の中核にあたると語った。
買収完了後、ノボノルディスクは、キャタレントの製造施設のうち米国、イタリア、ベルギーにある3つの工場をノボ・ホールディングスから110億ドル(約1兆6300億円)で買い取る。ノボ・ホールディングスはノボノルディスクの議決権の76.9%を保有している。
クタイ氏は「ウゴービと、同成分の糖尿病治療薬『オゼンピック』のより広範な展開を確実にしようとするならば、フィル・フィニッシュのキャパシティはノボノルディスクにとって重要な戦略的に考慮すべき事項だ」と指摘した。
買収発表後、デンマークのコペンハーゲン市場ではノボノルディスクの株価が3.63%上昇した。キャタレントの株価もニューヨーク市場で最大10%上昇し、9カ月ぶりの高値をつけた。
増産、想定より早く
ノボノルディスクは、急速に成長する肥満症治療薬市場で、ライバルである米イーライリリーの「ゼップバウンド」との競争に直面している。アナリストらは、肥満症治療薬市場は向こう10年で1000億ドルに達する可能性があると予想している。
肥満症治療薬への需要は急速に増大し、ノボとリリーの利益と株価は急騰した。一方で、ハードルとなっているのが生産の拡大だ。
ノボにとってのボトルネックは、無菌条件下で行う必要があるフィル・フィニッシュのキャパシティ増強だった。買収する3つの工場のうち、ベルギーと米国の工場では受託製造品の一部としてウゴービのフィル・フィニッシュを行っている。両工場では最終的に、ほかの製薬企業からの製造受託を終了する予定だ。
JPモルガンのアナリストは、今回の買収は、イタリアの工場の追加とあわせて、ノボが想定より早くウゴービの生産量を増やすのに役立つだろうと指摘した。
ソーンバーグ・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ニコラス・アンダーソン氏は、ノボはサプライチェーンの管理を強化することで、キャタレントが過去に引き起こした製造品質の問題を回避できるはずだと語った。キャタレントのブリュッセル工場は21~22年に米国の無菌安全規則に繰り返し違反し、スタッフは必要な品質検査を怠っていた。
買収は24年末に完了する予定で、ノボは26年から充填能力の拡大に寄与すると期待している。
この件に詳しい関係者によると、ノボノルディクスが買収するのはキャタレントが運営する約50拠点のうち3つだけであり、この買収が反トラスト法上の問題を引き起こすことはないという。ノボノルディスクと親会社のノボ・ホールディングスがキャタレントの資産を分け合うことで、今回の買収がキャタレントのほかの顧客にとって不利になるのではないかという懸念も和らぐはずだとこの関係者は指摘する。
ある情報筋は「ノボノルディスクは、キャタレントの既存顧客との取引の移行を確実にし、すべての顧客に引き続き対応できるよう努める」と話す。ノボへの売却によってほかのどの製薬企業が影響を受ける可能性があるかは、ただちには明らかにならなかった。
騒動に終止符
キャタレントの競合であるロンザ(スイス)の株価は今回のニュースを受けて上昇し、3.2%上げて取引を終えた。一方、ウゴービのフィル・フィニッシュを受託する米サーモフィッシャーはニューヨーク市場で0.1%下落した。
今回の買収発表は、プライベートエクイティとストラテジックバイヤーが関心を寄せていたキャタレントの身売り騒動に終止符を打つことになる。
製造上の問題に苦しんだキャタレントは昨年8月、アクティビスト投資家エリオット・インベストメント・マネジメントとの和解の一環として、会社売却を含む戦略的見直しを行うことで合意した。ノボ・ホールディングスのクタイCEOは「それを見たとき、そこに機会があると思った。それがきっかけだった」と語った。
ノボノルディスクによると、工場買収は24年と25年の営業利益成長率に1桁台前半のマイナス影響を与える見込みだ。
(取材:Leroy Leo/Bhanvi Satija/Maggie Fick/Patrick Wingrove/Carnevali, David、編集:Dhanya Ann Thoppil/Shounak Dasgupta/Susan Fenton/Kirsten Donovan/Nick Zieminski、翻訳:AnswersNews)