神経変性疾患に対する治療薬を開発する米製薬企業アミリックス・ファーマシューティカルズが、昨年9月に日本法人を設立し、筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「AMX0035」の承認取得に向けて活動を本格化させています。
アミリックスは、当時米ブラウン大の学部生だったジョシュア・コーエン氏とジャスティン・クリー氏が共同経営責任者(Co-CEO)となって2013年に創業した企業。第1号の製品となったAMX0035は、ALS治療薬として初めて、臨床試験で身体機能と生存期間の両方で有効性を示し、2022年に米国とカナダ(条件付き)で承認を取得しました(米国製品名はRELYVRIO=レリブリオ)。日本では患者団体が早期承認を求める要望書を厚生労働省に提出しています。
日本法人のアミリックス・ファーマシューティカルズ・ジャパンは、数年以内にAMX0035の承認を取得したい考えで、グローバルで開発が進むほかのパイプラインについても日本に導入していく方針。代表取締役日本事業統括責任者の小脇浩史氏は「神経変性疾患に苦しむ日本の患者に、複数の疾患で複数の治療選択肢を届けられるよう、日本事業を展開していきたい」と話しています。
アミリックス日本法人代表取締役日本事業統括責任者の小脇浩史氏。これまでに日本ベーリンガーインゲルハイムやアストラゼネカ、アルナイラムジャパンなどで勤務し、アルナイラムでは日本法人立ち上げに携わった。
身体機能の低下抑制と生存期間の延長を示した初の治療薬
――日本法人設立の経緯を教えてください。
小脇氏(以下同):ALSは治療薬が非常に限られている領域です。日本では指定難病になっていて、約1万人の患者がいるということは、アミリックスも米国でAMX0035の開発を始めた時から理解しており、何らかのタイミングで日本の患者にも届けたいと考えていました。ただ、ちょうど開発を進めているときに新型コロナウイルス感染症が流行したこともあり、時間がかかっていたというのが正直なところです。
そうした中、22年にAMX0035が米国で承認され、日本の患者にも届けていこうと考えていたところ、日本の患者団体から厚労省に早期承認を求める要望書が提出されました。ちょうど時期が重なるような形になりましたが、アミリックスとしては設立当初から考えていたように、米国だけでなく欧州や日本の患者にもということを実現すべく、このタイミングで日本法人の設立に至りました。
――アミリックスは従業員数約350人と規模の大きい会社ではありません。導出など別の手段で参入する選択肢もあったと思いますが、なぜ自前で参入することにしたのでしょうか。
神経変性疾患には本当にたくさんの病気があって、しかもその多くに治療薬がありません。アミリックスは、神経変性疾患による苦しみを世界からなくすということを使命に掲げています。
ALS治療薬のAMX0035は何とかして1日でも早く届けなければなりませんが、その先も多くの神経変性疾患で苦しむ患者に治療薬の選択肢を届けていきたいと思っています。そうしたことを中長期的に考えると、最初の薬剤から自分たちで市場に参入し、自分たちで事業を立ち上げていくことが大事だと思っています。
――AMX0035はどんな薬剤ですか。
AMX0035はフェニル酪酸ナトリウムとタウルウルソジオールの配合剤で、小胞体のストレス抑制とミトコンドリアの機能低下の抑制という2つの作用によって神経細胞死を抑制すると考えられています。
臨床試験では、ALS治療薬として初めて、身体機能の低下抑制と生存期間の延長という2つの有効性を示した薬剤です。患者の期待も高く、1日も早くこの治療薬を届けるべきだと思っています。
米国では22年9月の承認後、23年9月末時点で3900人以上の患者にこの治療薬を届けることができています。米国の患者数は約2万9000人と推定されていますので、私たちとしては順調に浸透しているのではないかと考えています。
適応拡大のP3に日本人組み入れ「今後の開発品は欧米に遅れないように」
――日本での承認はいつごろになりますか。
米国承認の根拠となった臨床第2相(P2)試験にも、現在進行中のグローバルP3試験にも、日本の患者は登録されていません。どのような形で日本での申請・承認が考えられるのか、PMDA(医薬品医療機器総合機構)と協議しているところです。この1、2カ月の間にはある程度の方向性についてPMDAと合意できると考えており、数年以内に日本の患者に届けられるようにしたいと思っています。
ALSは進行性の命に関わる疾患で、患者にとって時間は大事です。日本で承認されれば患者の多くに治療選択肢として提供できるものになると信じており、どうやって早く患者に届けるかということを考えなければならないと思っています。
――AMX0035は別の適応でも臨床試験が行われており、パイプラインにはほかにも新薬候補が控えています。これらも日本で開発していきますか。
そうです。AMX0035は昨年12月から進行性核上性麻痺(PSP)を対象にグローバルP3試験を行っていますが、この試験については日本人も組み入れていくことを会社として決めています。これを第一歩として、今後は、弊社の中で日本が米国や欧州より遅れることがないように開発を進めていきたいと考えています。
――販売については自社で行う考えでしょうか。
現時点では、私は自社で行っていきたいと考えていますし、それに向けて準備を進めているところです。