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ニュース解説

製薬企業 サプライチェーン「インドシフト」中国依存脱却図る

更新日

ロイター通信

インドのCDMOサイ・ライフサイエンシズの製造施設(ロイター)

 

[ロンドン/上海/ハイデラバード ロイター]製薬企業がサプライチェーンの「インドシフト」を進めている。治験薬製造や初期の商用生産で「脱中国依存」を図っており、インド企業に利益をもたらしている。

 

中国は長らく、コストの低さから原薬の調達先や医薬品の製造委託先として選ばれてきた。トランプ政権下の米中貿易戦争や新型コロナウイルス感染症のパンデミックがあってもなお、西側製薬企業と中国の強固な関係はほとんど変わらなかった。しかし、最近の緊張の高まりを受け、西側諸国の政府はサプライチェーンをアジアの超大国に依存するリスクの回避を企業に推奨するようになった。

 

こうした事情を背景に、一部のバイオテクノロジー企業は医薬品原薬の製造にインド企業の活用を検討している。ジェフリーズのヘルスケア投資銀行部門グローバル共同責任者、トミー・エルディ氏は「(西側の製薬企業が)今、中国企業にRFP(提案依頼書)を送ることはないだろう。『安いかどうかは関係ない。自社製品を中国に委ねるつもりはない』といった感じだ」と話す。

 

「中国は魅力的な選択肢ではなくなった」

臨床の初期段階で2型糖尿病・肥満症治療薬の開発を進めている米バイオテクノロジー企業グリセンド・セラピューティクスの創業者、アシシュ・ニムガオンカー博士もそうした声に同調する。同氏は「ここ数年のさまざまな要因によって、中国はわれわれにとって魅力的な選択肢ではなくなった」と指摘。開発の後半に入った段階でRFPを送るとすれば、中国よりインドのCDMOを優先するだろうと語った。

 

インドの大手CDMO4社(シンジーン、アラジェン・ライフサイエンシズ、ピラマル・ファーマ・ソリューションズ、サイ・ライフサイエンシズ)はロイターの取材に対し、今年に入って大手多国籍企業を含む西側製薬企業からの関心と要望が高まっていると話した。

 

サイは利益の伸び率についてコメントを避けたが、近年の売上高は25~30%増加していると語った。ほかの企業も、直近の四半期に大幅な利益成長を達成したとしている。

 

各社の幹部によると、一部の顧客は中国に加えてインドを第2の製造委託先にしたいと考えている。脱中国を志向し、インドでのサプライチェーン立ち上げを求める企業もあるという。

 

ピラマルのピーター・デヤングCEO(最高経営責任者)は、こうした引き合いの高まりがインドのCDMOにすぐに恩恵をもたらすことなないとの見方を示す。開発初期段階の医薬品が市場に出回るには時間がかかるためだが、そうした段階になれば彼らのようなアウトソーシング企業にとって契約はより有利になるだろうと指摘した。

 

中国のCDMOは生物学的製剤の製造に定評がある。L.E.Kコンサルティング(上海)のグレーターチャイナ・マネージング・パートナー、ヘレン・チェン氏によると、生物学的製剤は従来型の医薬品に比べて承認取得の敷居が高く、新しい委託先を使うには3~5年かかるという。チェン氏は「靴のように簡単に取り替えられるものではない」と話す。

 

品質への懸念根強く

インドは420億ドル規模の医薬品産業のさらなる成長に向け、関連サービス分野でより強固な足場を築こうとしていう。

 

しかし、監視の甘さに対する懸念は根強い。ニムガオンカー氏は、インドのCDMOは品質への評価が欧米や中国のそれと同等になるよう努力すべきだと指摘する。米FDA(食品医薬品局)は今年2月、米国で死者1人を出した薬剤耐性菌の発生に関連し、インド製点眼薬の使用を控えるよう警告した。

 

インドを拠点とする調査会社モルドール・インテリジェンスは、今年のCDMOの総収益について、インドは156億ドル、中国は271億ドルと試算。一方、今後5年間の年平均成長率は、中国の9.6%に対してインドは11%以上と予測している。

 

インドのCDMO各社は、製造施設はFDAの検査を定期的に受けていると強調。FDAの広報担当者はコメントを控えた。

 

ピラマルは今年、顧客から「インドへの後方統合」の要望を受けた。デヤング氏によると、これは最も基本的な原材料さえも中国ではなくインドから調達することを意味するという。ピラマルは原材料の約15%を中国から調達しているが、同社はその削減に努めている。

 

サイは2019年以降、製造能力を約2倍に増強した。需要に応えるため、今後1年ほどでさらに25%の拡大を予定している。

 

アラジェンは、この5年間で従業員数を2500人から4500人に増やした。同社の売上高は昨年、前年比で21%増加したが、チーフ・コマーシャル・オフィサーのラメシュ・スブラマニアン氏は西側バイオテクノロジー企業との新規契約が部分的に寄与したと説明。大手製薬会社10社のうち7社が同社と取引しているという。

 

こうした変化は、従来の製薬企業向けの創薬業務で特に顕著だ。スブラマニアン氏は「新興バイオテクノロジー企業は、最初からインドと中国の両方のカゴに卵を入れることを決めている」と話した。

 

(Maggie Fick、Andrew Silver、 Rishika Sadam、編集:Michele Gershberg、Catherine Evans、翻訳:AnswersNews)

 

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