リリーの肥満症治療薬「ゼップバウンド」米英で承認、ノボの「ウゴービ」に強力なライバル

（写真：ロイター）

［ロイター］米英の医薬品規制当局は11月8日、米イーライリリーの肥満症治療薬「ゼップバウンド」（一般名・チルゼパチド）を承認。ノボノルディスク（デンマーク）の「ウゴービ」に対抗する強力な新薬に道を開いた。

これら2つの薬剤は、これまでに承認された抗肥満薬の中で最も効果的とされる。抗肥満薬の世界市場は向こう10年で1000億ドル規模になると予想されており、2剤が市場で競合することになる。

ノボのウゴービは肥満症患者の大幅な体重減少を助け、甘いスナック菓子や飲料のメーカー、糖尿病や睡眠時無呼吸症候群など肥満関連疾患の管理に使用される製品を扱う業者、減量手術機器を手掛ける医療機器メーカーをとりまく環境を一変させた。一方で医薬品メーカーも、新薬は肥満症に苦しむ人々にとって手が届かないほど高額だと批判されている。

「史上最も売れた薬の1つになる」

リリーのチルゼパチドは2022年に2型糖尿病治療薬「マンジャロ」として発売されており、肥満症での承認を待たずに適応外で使用されるケースが増えていた。リリーは米国で11月末に発売する方針で、英国でも早晩、発売するとしている。

リリーによると、ゼップバウンドの米国での価格は1カ月あたり1059.87ドル。一方、ノボのウゴービは1349ドルで、ゼップバウンドのほうが2割ほど安い。ノボは、供給上の制約から投与患者の制限を余儀なくされている。

モーニングスターのアナリスト、ダミアン・コノーバー氏は、定価はゼップバウンドのほうが安いものの、重要なのは割引後の正味価格だと指摘する。医療給付コンサルタントのオーエンが発表した肥満症治療薬のコスト管理方法に関する雇用主向けガイドによると、ウゴービの正味価格は月額700～900ドルとなっている。

ノボは、今月11～13日に開かれる米国心臓協会（AHA）学術集会で、心血管イベント抑制効果を検証した「SELECT試験」の結果を含む最新データを発表する予定だ。このデータは、ペイヤーに対してウゴービが生活習慣病治療薬としてのイメージを超えて浸透するのを後押しするかもしれない。

それでもコノーバー氏は、ゼップバウンドの承認は「この薬（チルゼパチド）が史上最も売れた薬の1つになることを意味する」と指摘する。

リリーの株価は、ゼップバウンドの承認を控えた2023年初めから67%上昇し、同社は世界で最も価値あるヘルスケア企業となった。同薬の承認は十分に想定されていたにもかかわらず、8日も株価は3%以上上昇した。

公衆衛生上の重要性

米英の規制当局はゼップバウンドを、BMI30以上の成人または心臓病など体重に関連するほかの健康問題を抱えるBMI27以上の成人に対する治療薬として承認した。

英医薬品医療製品規制庁のエグゼクティブ・ディレクター、ジュリアン・ビーチ氏は「われわれは、肥満症に対する新薬へのアクセスが公衆衛生上重要であると判断し、チルゼパチドの新効能の迅速な評価を優先した」と述べた。

リリーはゼップバウンドへのアクセスを確保するため、米国でコマーシャル・セービング・カード・プログラムを導入すると発表した。これにより、ゼップバウンドをカバーする保険に加入している人は月額25ドルから、カバーしていない保険の加入者も月額550ドルから購入できるという。ただ、医師からは「たとえ定価の5割引きだとしても、月550ドルという価格は私が診療する患者にとっては手が届かないものだ」（米ノースウェスタン大ファインバーグ医学部教授のロバート・クシュナー博士）との声も聞かれる。

マンジャロは今年第3四半期に14億1000万ドルを売り上げたが、リリーは供給上の制約を認めている。

今回の承認は、肥満症の成人患者2539人を対象に行った後期臨床試験のデータに基づいている。同試験では体重が25%減少した患者もいた。リリーによると、ゼップバウンドの一般的な副作用には、吐き気、下痢、脱毛、胃食道逆流症などがある。

（Patrick Wingrove、Leroy Leo、Bhanvi Satija、 David Gaffen/編集：Bill Berkrot、Lisa Shumaker/翻訳：AnswersNews）