(写真:ロイター)
[チューリヒ/フランクフルト ロイター]スイス・ロシュは10月23日、炎症性腸疾患治療薬を開発する米テラバントホールディングスを71億ドルで買収すると発表した。ロシュは、がん治療薬の売上減少を補うため新領域への拡大を図る。
ロシュは23日の発表で、炎症性腸疾患の患者は世界に約800万人いるが、その80%が寛解に至っていないと指摘した。
テラバントの株式は、75%を米ロイバントが、残りの25%を同ファイザーが保有している。テラバントは、潰瘍性大腸炎やクローン病の治療薬として期待される「RVT-3101」開発するためにロイバントとファイザーが共同で設立した企業。ロシュは買収により、RVT-3101を米国と日本で開発・製造・商業化する権利を得る。
今年就任したロシュのトーマス・シネッカーCEO(最高経営責任者)は、昨年、アルツハイマー病とがん免疫療法の後期試験で大きな挫折を味わったロシュの新薬開発の立て直しに必死だ。今回のディールは、シネッカー氏の就任後初めての大型買収となる。同氏はかねてから、科学的かつ経済的に合理性があれば大型のM&Aを行う用意があると語っていた。
ロシュは前払い金として71億ドルを支払うほか、一定の開発成果を条件として最大1億5000万ドルを追加で支払う。
シネッカー氏は、現在会長を務める前CEOのセベリン・シュワン氏と同様に、成熟したオンコロジー事業から離れ、多角化を模索している。バイオシミラーの参入によって「ハーセプチン」「アバスチン」「リツキサン」の2023年の売上高は11億スイスフラン減少すると予想されている。
ツァーチャー・カントナルバンクのアナリストは、ロシュが獲得するアセットは「決して安いわけではない」としつつ、炎症性腸疾患に対するクラス最高の薬剤になる可能性があると指摘した。
RVT-3101は潰瘍性大腸炎を対象とした臨床第2相(P2)試験で有望な結果を出しており、ロシュは可能な限り早期にP3試験を開始する方針。ロシュの医薬品部門の責任者、テレサ・グラハム氏はロイターに対し、「この新薬候補をP3試験に進められることに非常に興奮している」と語った。
「変革の可能性」
RVT-3101は抗TL1A抗体。抗TL1A抗体は潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患の治療薬として期待され、それゆえに大規模な取引が行われている。
仏サノフィは今月初め、イスラエルのテバから抗TL1A抗体の権利を5億ドル+開発・販売マイルストン10億ドルで購入した。米メルクは今年4月、抗TL1A抗体を開発する米プロメテウス・バイオサイエンスを108億ドルで買収することに合意した。
RVT-3101はもともとファイザーによって開発された。同社とロイバントは22年に契約を結び、ファイザーは米国と日本を除く地域で同薬の権利を持っている。
ロシュは、この抗体はほかの疾患にも応用できる可能性があり、買収によって患者はより早く同薬による治療を受けられるようになるだろうと強調。シネッカー氏は「抗TL1A抗体は、炎症性腸疾患やその他の疾患を抱えている患者に大きな変革をもたらす可能性がある」と語った。
(John Revill、Ludwig Burger/編集:Friederike Heine、Jason Neely、Alexander Smith/翻訳:AnswersNews)