血友病に新薬が続々と登場しています。2018年承認の「ヘムライブラ」(中外製薬)に続く抗体医薬として、今年9月に「アレモ」(ノボノルディスクファーマ)が承認。血液凝固因子政治の改良も進んでおり、アレモと同じタイミングで高活性維持型の血液凝固第VIII因子製剤「オルツビーオ」(サノフィ)も承認されました。続く新薬の開発も活発で、核酸医薬や遺伝子治療薬が国内で開発の最終段階を迎えています。
治療進化も残るアンメットニーズ
血友病は、血を固める血液中の「血液凝固因子」の一部が欠乏しているために血が止まりにくくなる疾患です。血液凝固因子は12種類あり、それらが順番に連鎖反応を起こして出血を止めますが、血液凝固因子のうち第VIII因子(FactorVIII=FVIII)が欠乏したものを血友病A、第IX因子(FIX)が欠乏したものを血友病Bと呼びます。
2022年の国内の患者数は血友病Aが5776人、血友病Bが1294人。いずれも男性が95%以上を占めています。発症の原因はFVIIIまたはFIXをつくる遺伝子の先天的な異常。何らかの原因で血液凝固因子に対する自己抗体ができ、後天的に血友病を発症するケース(後天性血友病)もありますのが、100万人に1人程度と極めて稀です。
血友病の治療は、血液凝固因子製剤で欠乏しているFVIIIやFIXを補うのが基本。かつては出血時に投与する治療が中心でしたが、現在は定期的に投与することで出血を予防する「定期補充療法」が主流となっています。定期補充療法の普及によって患者は血友病でない人とほとんど変わらない生活が送れるようになり、出血を繰り返すことで起こる関節障害(血友病性関節症)も防げるようになりました。
ただ、アンメットニーズはまだ残されています。
その1つが「インヒビター」です。血液凝固因子製剤の投与を続けていると凝固因子に対する抗体(インヒビター)ができてしまい、凝固因子を補充しても出血抑制効果が得られなくなってしまいます。インヒビターを持つ患者は血友病Aで全体の30%、血友病Bで1~10%と推定されており、インヒビターを中和する治療やFVIII・FIXを迂回して凝固を促進するバイパス療法はあるものの、選択肢は限られます。
新たな抗体医薬と高活性維持型FVIII製剤が承認
インヒビターを保有する血友病Aには、FIXとFXをつなぐことでFVIIIの機能を代替する抗体医薬「ヘムライブラ」(一般名・エミシズマブ、中外製薬)が2018年3月に承認。同年12月にはインヒビター非保有の血友病Aにも対象を広げました。皮下投与(FVIII製剤は静注内投与)で最大4週1回の投与間隔が選択できる(FVIII製剤は少なくとも週1回の投与が必要)という利便性も手伝って使用が広がっています。
さらに、ヘムライブラとは異なる作用機序の抗体医薬として、ノボノルディスクファーマの「アレモ皮下注」(コンシズマブ)が9月25日に承認されました。同薬はFVIIIやFIXが関わる「内因系」とは別の「外因系」の反応を使って止血を促す薬剤で、外因系に関わる凝固因子の活性化を抑制するTFPI(組織因子経路インヒビター)の働きを阻害します。
外因系に作用するため血友病A・Bの両方に効果を発揮するのが特徴で、まずはインヒビター保有の患者を対象に承認を取得。インヒビター非保有の患者に対しても今年7月に申請を行いました。1日1回と投与の頻度は多いものの、ペン型プレフィルド製剤を採用することで利便性を高めています。
凝固因子製剤も改良が進みます。
アレモと同じタイミングで、サノフィが開発した新しいタイプのFVIII製剤「オルツビーオ静注用」(エフアネソクトコグ アルファ)が承認されました。週1回の投与で週の大半にわたってFVIIIの活性を正常~ほぼ正常の範囲に維持できる薬剤で、FVIII製剤としては有力な治療選択肢となりそうです。
凝固因子製剤、特にFVIII製剤では従来、半減期の短さによる投与頻度の多さが課題で、FC融合やPEG化などの修飾を施すことで半減期を延長することが試みられてきました。これにより、週2~3回だったFVIII製剤の投与頻度は最少週1回まで減少しましたが、別の血液凝固因子であるフォン・ヴィレブランド因子(VWF)のに結合することで血中で安定化するという性質上、FVIII製剤の半減期はVWFの半減期(約12~20時間)に依存せざるを得ませんでした。オルツビーオはFVIIIにVWFの一部を結合させることでこの問題を克服しており、その半減期は既存のFVIII製剤と比べて3~4倍長いといいます。
核酸医薬や遺伝子治療薬がP3に
製薬各社のパイプラインには、これらに続く新薬が控えています。
海外では昨年から今年にかけて、血友病A向けの「Roctavian」(valoctocogene roxaparvovec、米バイオマリン)と血友病B向けの「Hemgenix」(etranacogene dezaparvovec、豪CSLベーリング)の2つの遺伝子治療薬が承認されましたが、このうちHemgenixは国内でも開発が行われており、9月に臨床第3相(P3)試験がスタート。米ファイザーも血友病Aの遺伝子治療薬giroctocogene fitelparvovecと血友病Bの同fidanacogene elaparvovecを開発中で、いずれも日本でP3試験が行われています。遺伝子治療は1回限りの投与で、患者は凝固因子製剤の定期的な投与から解放されることになります。
仏サノフィは、米アルナイラム・ファーマシューティカルが創製したsiRNA医薬品fitusiranを開発中。同薬は、血液凝固に関与する酵素トロンビンの働きを妨げる抗凝固因子アンチトロンビンの産生を阻害する薬剤で、血友病A・Bの両方にインヒビター保有/非保有を問わす効果を発揮すると期待されています。国内外でP3試験が行われており、最も早い国・地域で24年に申請予定です。
抗体医薬では、ファイザーがアレモと同じ抗TFPI抗体マルスタシマブのP3試験を実施中。ノボは、ヘムライブラと同様にFVIIIの機能を模倣する二重特異性抗体「Mim8(NN7769)」がP3試験の段階にあり、中外製薬はヘムライブラを改良して効果を高めた抗FIXa/FX二重特異性抗体「NXT007」のP1/2試験を進めています。