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モダリティは「掛け合わせ」が面白い!|コラム:現場的にどうでしょう

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前回のコラムでは、今、個人的にアツいと感じている「PROTAC」について書きました。

 

PROTACは、2つのリガンドを組み合わせることで古典的な創薬モダリティである低分子医薬品をアップデートする画期的な分子種です。私はその可能性に大いに期待しているわけですが、実はPROTACのほかにも、複数の因子を掛け合わせることで今までにない作用や効果を示すコンビネーションが見出されてきています。

 

PROTACの進化形

まずは、前回紹介したPROTACの進化形です。

 

抗体にペイロードとなる低分子化合物を結合させてターゲットまで運ぶ抗体薬物複合体(ADC=Antibody-Drug Conjugate)は、抗体の特徴である高い選択性をベースに、特に毒性が問題となり得る抗がん剤を中心に検討され、すでにいくつもの薬剤が承認されています。

 

最近では、抗体に結合させるペイロードとしてPROTACを用いた「DAC(Degrader–Antibody Conjugates)」の研究が盛んです。高い選択性とそれに基づく安全性に非常に強い薬効を兼ね備えた魅力的なモダリティとして期待されています。

 

ニューモダリティとして注目されているPROTACが、早くも抗体という別のモダリティと融合して新薬開発の場で検討されているというスピード感を見ると、今後の科学の進歩にワクワクしてきます。

 

LNPに何を入れるか

バイオロジクスと化合物の組み合わせといえばやはり、COVID-19ワクチンとして実用化されたことで一気に身近になったmRNA×LNP(脂質ナノ粒子)でしょう。

 

ファイザー/ビオンテック、モデルナのいずれのmRNAワクチンも、体内で簡単に分解されてしまうmRNAを、LNPという微小な脂質の液滴に封入して投与しています。LNPは複数の脂質の混合物で形成されていて、それぞれの脂質には化学合成された物質がかなり含まれています。

 

COVID-19の感染拡大からワクチン実用化までのスピードは皆さんご存知の通りで、1年未満という信じられない速さで実現し、新薬開発の常識を覆しました。パンデミックという世界的な危機の中で緊急承認されたという背景はもちろんありますが、新薬開発のスピードアップと人類の叡智の結集を肌で感じられるトピックだったと思っています。

 

LNPが内包できるのはmRNAに限りません。mRNA以外の種々の核酸や低分子化合物を治療標的に運ぶ手段としてLNPの活用が検討されています。LNPはまだまだ注目すべき技術です。

 

ニューモダリティ同士の掛け合わせ

バイオロジクス×化合物のみならず、ニューモダリティ同士の掛け合わせも報告されています。

 

たとえば、抗体と細胞治療のタッグは、今、かなりホットな領域となっています。二重特異性T細胞誘導抗体(BiTE抗体)はT細胞上のレセプターと腫瘍細胞上の抗原を認識し、T細胞と腫瘍細胞を物理的に接近させることでT細胞による殺細胞作用を促進する特殊な抗体ですが、これをCAR-T細胞療法とともに用いる治療法が検討され始めています。

 

CAR-T化して腫瘍細胞への攻撃力が高まったT細胞を、さらにBiTE抗体で腫瘍に近づきやすくすることで、抗腫瘍活性が飛躍的に向上するのではないかと期待されています。新規技術同士の組み合わせはチャレンジングですが、PROTACでもポイントとなっている「ターゲットと薬剤の接近のコントロール」を実現するために様々な検討がなされていることの現れだと思っています。

 

掛け合わせの方程式

掛け合わせによる治療効果向上の試みは、これからも精力的に行われていくことでしょう。

 

ここまで紹介してきた例を見ると、モダリティの掛け合わせは「新しいメカニズムによる薬効発現」×「ターゲットへの薬剤送達」を意識していることがわかります。これからの疾患攻略&新薬開発は、この方程式が基本戦略になっていくのかもしれません。

 

私も記事を書きながら、次にどんな組み合わせが出てくるのだろうかと妄想してみました。表に出ていないだけですでに検討されているかもしれませんが、先ほどの方程式を念頭に置くと、「CRISPR cas9 mRNAをLNPに封入する」「ダイレクトリプログラミングを狙う低分子をADC化する」など、いくらでもアイデアは出てきそうです。

 

この方程式を意識すると、ケミストは低分子だけ、バイオロジストはバイオロジクスだけ、という時代は終わりを迎えつつあるように感じます。分野の垣根を超え、様々な専門家が研究現場で知恵を出し合いながら新たなモダリティを作っていく時代がすでに始まっているのです。

 

ノブ。国内某製薬企業の化学者。日々、創薬研究に取り組む傍らで、研究を効率化するための仕組みづくりにも奔走。X(Twitter)やブログで研究者の生き方について考える活動を展開。
X(Twitter):@chemordie
ブログ:http://chemdie.net/

 

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