厚生労働省がMR活動の適正化を目的に実施している「医療用医薬品の販売情報提供活動監視事業」の2022年度報告書がまとまりました。ここ数年、新型コロナによる医療機関への訪問減少で法令等への違反が疑われる事例の報告は低水準で推移していますが、競合の激しい領域を中心に“手口”は巧妙化しており、不適切なディテールがなくなったわけではありません。
違反疑い、トップは「免疫疾患治療薬」
監視事業は、高血圧治療剤「ディオバン」や同「ブロプレス」で臨床研究データを不正利用した営業活動が社会問題化したことをきっかけに16年度に始まりました。医師や薬剤師から適切性が疑われる情報提供活動の事例を収集するもので、主に▽厚労省が選定したモニター医療機関に報告を求める「モニター報告」▽モニター以外の医療機関から広く報告を受け付ける「一般報告」――で構成。報告は有識者らによって評価され、不適切な情報提供に警鐘を鳴らすとともに、悪質なケースに対しては行政指導も行います。
事業開始以降、疑義が報告された医薬品や実際に違反が疑われた医薬品の数は増加傾向にありましたが、新型コロナの流行による営業形態の変化もあって20年度からは従来を下回る水準で推移。22年度は違反疑いの医薬品数が17にとどまりました。違反が疑われた事例の多くをオンライン面談が占めましたが、オンラインによる情報提供そのものが増加しており、リアルの面談より不適切な情報提供が行われやすいということはなさそうです。
「エビデンスない説明」「有効性のみ強調」など多く
22年度の調査で違反が疑われた医薬品の種類として最も多かったのは「免疫疾患治療薬」でした。前回までと表記方法が異なるため比較しづらいですが、全体として新薬が複数上市された領域で違反疑いが目立っています。免疫疾患治療薬は炎症性腸疾患など競合が激しい領域を含みます。22年度は2位「その他の腫瘍用薬」、3位「先天性代謝異常治療薬」と続きました。
違反が疑われた項目としては「エビデンスのない説明」や「有効性のみ強調」が多く、「誇大な表現」や「他社製品の誹謗中傷」も目立ちますが、今回の報告ではその伝達手法や内容が問題視されました。8月24日に開かれたMR認定センターの会合に出席した厚労省の佐藤大作監視指導・麻薬対策課長は、違反疑いの件数など全体的には改善傾向にあるとしながらも、「その中身が巧妙になっている部分もある」と指摘しました。
「言葉ではなく色分け」「副次評価項目で未承認の効果アピール」
疑義報告事例をいくつか取り上げてみると、たとえば全身作用型貼付剤の解熱消炎鎮痛剤の患者向け資料では、効果が強く広範囲に及ぶかのような印象を与える図を掲載。具体的には、効果の範囲として全身末端まで濃い色を使う一方で、ほかの経口剤は薄い色で範囲も狭くしていました。「全身」の文字も大きく強調しています。佐藤氏はこれについて「誇大な表現は言葉として書くと誇張が分かるので、巧みに色分けするなどの流れがある」との見方を示しました。
また、モノクローナル抗体製剤の資材では、適応が掻痒感に限られているにも関わらず、かゆみの後に生じる皮疹にも効果が認められていると説明。国内臨床第3相試験の副次評価項目ではそれを裏付ける結果が示されていたものの、適応症にはなく、皮疹の効能効果は未承認です。これも「エビデンスがあるといえばあるが、なかなか巧妙というか見た感じではグレー」(佐藤氏)という評価です。
誹謗中傷にあたる事例としては、抗がん剤で直接比較のデータがないにもかかわらず自社製品には長期のフォローアップデータがあるとして、具体的な他社の製品名を上げながら医療従事者からネガティブな意見を引き出そうとしたケースが報告されました。
依然として組織的関与の指摘も
医薬品の適正販売に向け、19年度には「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン(GL)」が導入されましたが、各企業の順守状況には一定の評価が与えられています。半面、医療従事者からすれば必要な情報が入りにくくなったのも現実です。現場のMRは情報の出し方に苦慮しており、佐藤氏が言う‟巧妙化“はその表れでもあるのでしょう。
ただ、MRは医薬品情報提供のプロであり、当該領域を熟知している存在。公平な情報提供ができる立場であり、「専門家にすぐ見破られるような恥ずかしい強調の仕方や情報の出し方はできないはず」(佐藤氏)。行政は、GLが定着してきたこの時期に、MRの役割についてゼロベースで考え直すよう求めています。
もっとも、違反が疑われた17件という数字をどう解釈すればいいのか難しいところもあります。モニターとなった医師・薬剤師の数は明らかでなく、受けた総ディテール数も分かりません。分母の数によってはかなり低い割合になるのかもしれません。ただ、具体的な事例が報告されている以上、それがまれなケースであっても業界外からは製薬企業の体質と捉えられかねません。
前回の報告書では、違反を疑われる行為がMR個人ではなく営業所単位など組織的に行われている可能性があると指摘され、そうした企業の姿勢に厳しい視線を投げかけました。今回も営業組織としての関与が依然として見受けられた上、それに加えて説明の仕方が巧妙化しているとの見方も示されました。あらためて襟を正すことが必要と言えそうです。