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ニュース解説

肥満症薬の“欠点”克服に挑む欧米バイオテック

更新日

ロイター通信

肥満症市場を牽引する「ウゴービ」(左)と、近く肥満症治療薬としての承認が見込まれる「マンジャロ」(ロイター)

 

[ロンドン ロイター]米ニューヨーク州バッファローに住むレヴェッカ・ヴォーグさん(48)は、肥満症治療薬「ウゴービ」のおかげで、出産以来増えたままだった体重を減らすという大きな目標を達成した。しかし、下痢と嘔吐の副作用に悩まされ、トイレに籠りっぱなしの過酷な一日を過ごしたあと、薬の使用をやめた。「この薬は吐き気がひどくて…」。ヴォーグさんは言った。週1回の注射によって体重は12.2キロ・グラム減少したが、使用をやめると元に戻った。

 

極端な例かもしれないが、彼女の経験は特別なものではない。医療従事者向けのガイダンスによると、ウゴービを投与された患者の44%が吐き気を、30%が嘔吐を経験している。「吐き気の副作用がないウゴービのような薬があれば、ぜひ使ってみたい」とヴォーグさんは話す。

 

副作用を回避

欧米のバイオテクノロジー企業の中には、彼女のように副作用に悩まされる人たちに新しい選択肢を提供しようとしているところがある。

 

今年3月と7月、2回にわたって肥満症市場に関するレポートを発表した米投資銀行スティフェルによると、10以上の小規模な民間企業が、吐き気というマイナス面を伴わずにウゴービのような体重減少を目指す薬剤を開発している。

 

これらの実験的薬剤は、ウゴービを含むGLP-1受容体作動薬とはわずかに、あるいは全く異なる働きをする。それによって、吐き気の副作用を回避しようとしている。

 

これらの企業の中には、何年も前から開発に取り組んでいるところもある。このうち4社の幹部は、ウゴービの成功によって肥満症治療薬市場が大きな注目を浴びていることは、自社の新薬開発の展望を大きく変える可能性があるとロイターに語った。肥満症治療薬の市場は向こう10年で1000億ドル規模になると推定されている。

 

「注目されるのは非常に歓迎すべきことだ」。リバス・ファーマシューティカルズ(米国)のジェーソン・ダラス最高経営責任者(CEO)はこう語る。2019年設立の同社は、体内のミトコンドリアを破壊してエネルギー消費に影響を与える薬剤を開発している。この薬を服用すれば、同じ量の食事をしても体重は減少するという。

 

投資家らは、ヴォーグさんのような患者の需要に注目している。ドイツ銀行の資産運用部門DWSでポートフォリオマネジャーを務めるヌーシン・イラニ氏は「肥満症治療の次のフロンティアは、ウゴービやマンジャロのような体重減少を、副作用や筋肉量の減少を抑えて達成することだろう」と指摘する。

 

「マンジャロ」は米イーライリリーが開発した薬剤で、早ければ今年後半にもFDAから肥満症治療薬として承認される見込みだ。昨年発表された臨床試験のデータによると、同薬は22.5%の体重減少をもたらす。

 

複数のアプローチ

もともと2型糖尿病治療薬として開発されたGLP-1受容体作動薬は、食欲を抑制し、満腹感を促進する腸内ホルモンを模倣したものだ。その体重減少効果は、過去に発売された抗肥満薬をしのぐ。

 

21年6月に米国で発売されたウゴービは、食事療法と運動療法を併用することで平均15%の体重減少をもたらす。

 

ウゴービを開発したノボノルディスク、リリー、そしてファイザーを含む大手製薬企業は、ウゴービやマンジャロを改良した第2世代の減量薬の開発に取り組んでいる。注射ではなく錠剤にしたり、より大きな体重減少を狙ったりしたものだ。しかし、それらはGLP-1受容体作動薬であり、依然として吐き気の副作用は課題となる。

 

投資家の中には、バイオテクノロジー企業にとってチャンスだと言う人もいる。ヘルスケアに特化した投資会社RAキャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクター、アンドリュー・レビン氏は「複数のアプローチの余地がある。患者とその主治医は、どれが自分にとって最適か見極めることになるだろう」と話す。同グループは、昨年9月にクローズしたリバス・ファーマシューティカルズのシリーズB資金調達ラウンド(1億3200万ドル)を主導した。

 

リバスの発表によれば、開発中の新薬「HU6」は、初期のPOC試験でGLP-1受容体作動薬に匹敵する体重減少をもたらす一方、筋肉量を温存し、吐き気を回避することが示された。同薬の2つの臨床第2相(P2)試験の結果は来年明らかになると期待されている。同社のダラスCEOは、同試験のデータが良好であれば、市場の状況次第でIPO(新規株式公開)も検討すると話している。

 

「100以上のバイオテックが参入する可能性も」

ジョンズ・ホプキンス大の研究室から生まれたグライセンド・セラピューティクスは、同社の開発品が初期の試験で吐き気なしに体重減少を達成することを示した。同社は5月にP2a試験の予備的なデータを発表しており、マーク・ファイマン最高開発責任者は「軽度の吐き気と胃腸の副作用が見られたが、それらは短期間で、1日以内に消失した」とインタビューに答えた。アシシュ・ニムガオンカーCEOは「資金調達や提携の観点から、数年前にはなかった多くの選択肢がある」と話す。

 

同社は潤沢な資本を有しているが、ニムガオンカーCEOは肥満症市場への関心が新薬開発プロセスを進展させ、将来の資金調達に役立つだろうとの見通しを示した。同氏は、市場の状況が改善すればIPOを検討するかもしれないし、P3試験のために大手製薬企業との提携を検討するかもしれないと語った。

 

さらに初期段階のアンタグ・セラピューティクス(デンマーク)も、肥満症市場の拡大によって資金調達の見込みが高まったとしている。同社のアレクサンダー・スパーレ・ウルリッヒCEOはロイターに対し、今年の末までに3000万ユーロのシリーズA資金調達を完了し、開発品のP2試験を開始したいと語った。

 

スイスに本社を置くアファイア・ファーマは5月、水と混ぜて連日服用するブドウ糖製剤のP2試験を開始した。P1試験のデータによると、同薬は吐き気を引き起こすことなく、GLP-1やその他のホルモンの自然な放出を回復させ、食欲を抑制する。体重減少に対する効果はP2試験で検証しており、その結果は来年明らかになる予定だ。

 

米投資銀行スティフェルのティム・オプラー氏は「5~10年後には、この分野に100以上のバイオテクノロジー企業が参入している可能性がある」と指摘した。

 

(Maggie Fick、編集:Josephine Mason/Daniel Flynn、翻訳:AnswersNews)

 

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