2023年6月に米FDA(食品医薬品局)が承認した主な新薬と適応拡大をまとめました。
【新薬】血友病Aの遺伝子治療薬「Roctavian」や1型糖尿病に対する細胞治療「Lantidra」など
「Columvi」米ジェネンテック
抗CD20/CD3バイスペシフィック抗体「Columvi」(一般名・glofitamab)は、成人の再発・難治性のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫治療薬として迅速承認を取得しました。対象は、2つ以上の前治療を受けた患者。承認の根拠となった臨床第1/2相(P1/2)試験の奏効率は56%、完全奏効率は43%で、奏功期間は1年6カ月(中央値)でした。欧州でも近く承認される見通しで、日本ではP1試験が進行中です。
「Vyvgart Hytrulo」オランダ・アルジェニクス
「Vyvgart Hytrulo」(efgartigimod alfa /hyaluronidase)は、重症筋無力症治療薬の抗FcRn抗体「Vyvgart」の皮下注製剤。米ハロザイム・セラピューティクスのドラッグデリバリーシステムを活用し、皮下注化を実現しました。1回の注射が30~90秒で済み、従来の点滴静注に比べて大幅に投与時間を削減できると期待されます。皮下注製剤は欧州と日本でも申請中です。
「Litfulo」米ファイザー
経口JAK3/TECファミリーキナーゼ阻害薬「Litfulo」(ritlecitinib)は、重度の円形脱毛症治療薬。承認は、全頭型と汎発型を含む12歳以上の円形脱毛症患者718人を対象とした国際共同P2/3試験の結果に基づいています。日本でも今年6月に承認を取得しており、中国や欧州でも申請しています。
「Rystiggo」ベルギーUCB
抗FcRn抗体「Rystiggo」(rozanolixizumab)は、重症筋無力症治療薬。抗AChR抗体または抗MuSK抗体陽性の成人患者が対象です。抗AChR抗体陽性と抗MuSK抗体陽性の両方に使用できる薬剤は米国初。欧州と日本でも申請中です。
「Elevidys」米サレプタ
「Elevidys」(delandistrogene moxeparvovec)は、4~5歳のデュシェンヌ型筋ジストロフィー患者に使用する単回投与の遺伝子治療薬。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使ったもので、マイクロジストロフィンをコードする遺伝子を筋細胞に送達し、マイクロジストロフィンタンパク質を発現させます。骨格筋でマイクロジストロフィンタンパク質の発現を増加させることを示した試験結果に基づいて迅速承認されました。日本を含む国際共同P3試験が進行中で、国内では中外製薬が独占販売権を持っています。
「Lantidra」米シギロン
「Lantidra」(donislecel)は、成人の1型糖尿病に対する史上初の同種(ドナー)膵島細胞治療。投与された膵島ベータ細胞がインスリンを分泌することで治療効果を発揮します。1型糖尿病患者の中には、低血糖を引き起こすことなく高血糖を防ぐためのインスリンの量を管理するのが難しい人もおり、無自覚性低血糖症を発症する可能性もあります。Lantidraはこうした患者を対象としており、臨床試験では一部の患者でインスリン投与が不要になったといいます。
「Roctavian」米バイオマリン
「Roctavian」(valoctocogene roxaparvovec)は、成人の重症血友病Aに対する単回投与の遺伝子治療薬。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使って導入した血液凝固因子VIII(FVIII)の遺伝子が肝臓で発現し、血中のFVIII濃度を上昇させることで制御不能な出血のリスクを減少させると考えられています。臨床試験に参加した被験者の大部分は、3年以上にわたって血液凝固因子製剤の予防治療を必要としませんでした。欧州でも昨年8月に承認されています。
「Ngenla」米ファイザー
「Ngenla」(somatrogon)は、長時間作用型のヒト成長ホルモン製剤。3歳以上の小児の成長ホルモン分泌不全性低身長症の治療に使用します。週1回の投与で済むことから、治療負担を軽減できると期待されます。日本と欧州では昨年承認されました。
【適応拡大】「Jardiance」/「Synjardy」の小児の2型糖尿病など
「Lampit」独バイエル
シャーガス病治療薬「Lampit」(nifurtimox)は、完全承認を取得。体重2.5kg以上の18歳未満の小児を対象に2020年8月に迅速承認を取得していました。
「Prevymis」米メルク
サイトメガロウイルス(CMV)ターミナーゼ阻害薬「Prevymis」(letermovir)は、新たに高リスクの成人腎移植レシピエント(ドナーCMV血清陽性/レシピエントCMV血清陰性〈D+/R-〉)のCMV感染症予防に使用できるようになりました。同薬は米国で17年、日本と欧州で18年に「同種造血幹細胞移植を受けたR+レシピエントのCMV感染と予防」の適応で承認。日本でも臓器移植患者への適応拡大を申請中です。
「Linzess」米アッヴィ
グアニル酸シクラーゼC受容体アゴニスト「Linzess」(linaclotide)は、6~17歳の機能性便秘に適応拡大しました。同薬は成人の過敏性腸症候群治療薬として2012年に承認され、17年に成人の慢性特発性便秘への適応を追加していました。
「Bylvay」仏イプセン
IBAT阻害薬「Bylvay」(odevixibat)は、生後12カ月以降のアラジール症候群患者の胆汁うっ滞性そう痒症に適応拡大。同薬は2021年に米国と欧州で進行性家族性肝内胆汁うっ滞症治療薬として承認されており、アラジール症候群は2つ目の適応となります。欧州でも同適応で申請中です。
「Blincyto」米アムジェン
抗CD19/CD3二重特異性抗体「Blincyto」(blinatumomab)は「初回または2回目の完全寛解後に0.1%以上の微小残存病変を有するCD19陽性のB細胞リンパ芽球性白血病」の適応で完全承認を取得。同適応では、18年に迅速承認を受けていました。
「Jardiance」/「Synjardy」独ベーリンガーインゲルハイム
SLGT2阻害薬「Jardiance」(empagliflozin)およびempagliflozinとmetforminの配合剤「Synjardy」は、ともに10歳以上の小児の2型糖尿病に適応拡大しました。小児の2型糖尿病に対する経口薬は、これまでmetforminしか承認されていませんでした。承認は10~17歳の患者157人を対象に行われたP3試験の結果に基づいています。
「Talzenna」米ファイザー
PARP阻害薬「Talzenna」(talazoparib)は、アンドロゲン受容体(AR)シグナル伝達阻害薬「XITANDI」(enzalutamide)との併用療法が「成人のHRR遺伝子異常のある転移性去勢抵抗性前立腺がん」の適応で承認されました。欧州でも併用療法を申請中で、日本では今年2月に乳がんに対する単剤療法とXITANDIとの併用療法を申請しました。