厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」の報告書が6月12日に公表されました。昨年8月から13回の議論を経てまとめられたもので、その内容を踏まえた政策を速やかに検討・実施するよう厚労省に求めています。報告書は主に「後発医薬品の安定供給」と「創薬力の強化、ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消」に焦点を当てていますが、このうち後発品の安定供給について、現状の課題とその解決の方向性を整理します。
供給不安3つの要因
後発品をめぐっては、長引く供給不安が大きな問題となっています。日本製薬団体連合会(日薬連)の調査によると、昨年8月時点で全医薬品の28.2%にあたる4234品目が出荷停止・限定出荷となっており、その9割を後発品が占めています。有識者検討会の報告書では「日本で医薬品が安定的に供給されるという『神話』は崩壊の危機に瀕している」と指摘。供給不安の主な要因として(1)産業構造(2)薬価制度(3)サプライチェーン――の3つの課題を挙げています。
産業構造上の課題
産業構造については、製造品目数や供給数量が少ない企業が多いことが特徴だとしています。日本ジェネリック製薬協会の調査によると、対象とした188社のうち500品目以上を供給するのはわずか3社。100品目以上に広げても30社しかありません。逆に、50品目未満は148社と全体の8割近くを占めています。売り上げ規模で見ても、10億円以下が全体の7割近くに上っており、十分な製造能力を持たない企業が多くを占めているのが現状です。
また、多くの企業が収益性の高い新規収載品を扱おうとするため、1社あたりの製造販売品目数は増加しており、2005年の旧薬事法改正で認められた「共同開発」もこれに拍車をかけました。結果として少量多品目生産が広がっていますが、これはライン切り替えに伴う非効率につながっている上、管理体制がおろそかになりがちで品質不良や法令違反を招く要因にもなっています。
こうした問題は一義的には企業側の責任と言えますが、「数量シェア80%」の普及目標を推し進める中で国や都道府県の監視体制が不十分だったことも報告書は指摘しています。
薬価制度上の課題
次に薬価制度上の課題ですが、後発品は競合との差別化を価格に頼りがちで、過当競争の下でシェアを獲得するため新薬や長期収載品に比べて値引き幅が大きくなっている現状があります。さらに、医薬品卸と医療機関・薬局との価格交渉では、購入する全品目を「一山いくら」でまとめて値引きする総価取引の下、後発品は「調整弁」として使われることも多く、新薬の納入価を高く設定する分、値引きが大きくなる傾向にあります。
こうした流通慣行や製品特性に加え、薬価改定が毎年行われるようになったため、価格下落のスピードは上がっています。その結果、採算のとれない品目が増え、経営を圧迫。薬価を下支えする制度はあるものの、対象は限定的で根本的な解決策にはなっていません。
サプライチェーン上の課題
3つ目の課題として挙げられたサプライチェーンでは、原薬や原材料の調達が不安定な国際情勢の下でリスクとして顕在化しています。後発品の原薬は、韓国、中国、インド、イタリアなど安価な海外からの調達が全体の半分以上を占めており、すべての工程を国内で製造しているのは3割ほどにとどまります。
海外からの調達は、供給停止や為替変動・物価高騰に伴うリスクがあり、サプライチェーンが断絶すれば供給の継続は難しくなります。こうした事態に対応するには、代替品の供給や他社の増産体制を把握するため流通関係者間で情報を共有することが必要ですが、今のところそれが必ずしも適切・迅速に行われていないのが実情です。
解決策は?
こうした課題に対して報告書では、主に▽市場参入規制▽業界再編▽薬価制度の見直し▽サプライチェーンの強靭化――の4点について対応策をとるよう政府に求めています。
市場参入規制
メスが入りそうなのは共同開発です。共同開発は書類の提出だけで開発元に相乗りすることができ、コスト抑制やリスク低減が可能となるため市場参入が容易になります。ただ、結果として品目数が増加し、過当競争の中で薬価が下落する事態を招いており、供給上の問題が発生した際の責任の所在もあいまいです。
後発品の使用促進に向け参入障壁を下げるのが目的だった共同開発ですが、十分な製造能力を持たない企業が相次ぐとともに、発売後一定期間たつと市場から撤退する企業も出てきました。報告書では、十分な製造能力を確保していることや継続的な供給計画を持つことなどを要件として定め、それを満たせない企業は市場参入できない仕組みを検討すべきとしています。共同開発は全後発品約1万1000品目のうち約3600品目を占めており、新薬系の後発品事業が多く活用していることも検討会では指摘されました。
共同開発自体は否定されるべきものではありませんが、後発品に限ってはマイナス面が浮き彫りになっています。業界内には「一定のルールを決め、対応できる企業だけに認める」べきだとする声があります。そうすることで、自然淘汰も進むという考えです。
業界再編
厚労省は企業の経営方針に直接踏み込むことはできないものの、報告書を受け業界再編を促す仕組みを考えたいようです。ただ、再編といってもいわゆるM&Aを意図しているとは限りません。現実問題として、大手が中小を吸収してもメリットはなく、逆に品目の重複などマイナス面が大きいと言えます。有識者検討会の議論では、コンサルティング会社から業界再編を促す薬価制度について具体的な提案もありました。
1つの例として業界内では、ある薬効領域について得意とする一部企業に生産を集約し、薬価が下がっても継続的に供給できる事業モデルの必要性も言われています。海外子会社を活用すれば、より低コストでの生産も可能です。
報告書では他産業での業界再編に向けた取り組みも参考とするよう求めており、議論の過程では地銀業界が政策誘導によって経営基盤の強化を図ったケースが紹介されました。報告書では、製造ライン増設への支援や税制上の優遇措置などを例示し、政府はロードマップを策定した上で期限を設けて集中的に取り組むべきと指摘しています。
薬価制度の見直し
後発品企業の事業継続という観点からは、薬価制度が最大のテーマと言えます。報告書は、「最低薬価」「不採算品再算定」「基礎的医薬品」といった既存制度の改善に加え、採算性を維持するための新たな仕組みを求めています。ただ、これらは中央社会保険医療協議会(中医協)で扱う問題であり、イノベーション評価や財源論ともかかわるだけに、全体的な議論の方向性に大きく左右されそうです。
評価の方法としては、製剤的な付加価値のある品目について薬価で優遇を求める声が関係者から上がっています。新薬に「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」があるように、後発品にも‟付加価値製剤加算“があってもいいという主張です。一方で、根本的な解決策として、価格帯を集約する現在の改定方式を銘柄別に戻すよう求める意見も根強くあります。付加価値は市場が決め、それが薬価に反映されるという考え方です。
また、検討会では供給量が少ない企業の製品を薬価から削除し、業界再編を進めることで企業間の生産分担を最適化すべきという厳しい考え方も紹介されました。
サプライチェーンの強靭化
サプライチェーンをめぐる課題に対しては、供給情報を関係者が迅速に把握することが求められています。厚労省は原料から中間体、原薬を経て製品化されるまでの関係企業の取引関係を明確にする「マッピング」に着手していますが、こうした情報は企業戦略とも絡むため進捗は思わしくありません。仮に作成できたとしても、それをもとにどう政策展開するのかが難しいと言われています。