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ニュース解説

業績回復の医薬品卸、ポストコロナで新規事業の取り組み加速

更新日

亀田真由

大手医薬品卸6社の2023年3月期は、売上高が前期比3.9%増、営業利益が15.3%増となりました。スペシャリティ医薬品の売り上げ拡大と新型コロナ関連製品の販売増が業績を押し上げましたが、今期はコロナ関連製品の需要減が予測され、事業環境は依然として厳しいまま。各社は、医薬品卸売事業に続く収益源確立に向けた取り組みを加速させています。

 

大手6社の営業利益率は1.22%まで上昇

新型コロナウイルス感染症による受診控えが市場全体に影を落とした2021年3月期から2年が経過し、医薬品卸の業績回復が進んでいます。2023年3月期の売上高は、トップのメディパルホールディングス(HD)が3兆3600億円で前期比2.1%増。2兆6961億円(4.3%増)のアルフレッサHD、2兆3148億円(3.4%増)のスズケン、1兆3886億円(9.7%増)の東邦HDと続きました。

 

【2023年3月期/大手医薬品卸の業績】(単位:百万円、%)<社名/売上高/前期比/営業利益/前期比/営業利益率/前期比>メディパルHD/3,360,008/2.1/48,972/7.3/1.46/0.07|アルフレッサHD/2,696,069/4.3/30,148/3.6/1.12/▲/0.01|スズケン/2,314,828/3.4/32,605/62.1/1.41/0.51|東邦HD/1,388,565/9.7/12,813/2.3/0.92/▲/0.07|バイタルケーエスケーHD/579,772/0.4/2,470/▲/16.1/0.43/▲/0.08|ほくやく・竹山HD/261,979/5.5/2,628/23.3/1.00/0.15

 

利益も堅調で、取引先であるコーケンの自己破産の影響を受けたバイタルケーエスケーHDを除く5社が営業増益を確保しました。中でもスズケンは、コスト構造改革や社員に対する利益重視の意識付け、本部の価格承認体制の強化といった取り組みが奏効し、前年に医薬品製造事業で契約一時金を支払った反動もあって61.2%の増益。営業利益率も0.51ポイント上昇し、1.41%となりました。メディパルHD(1.46)、アルフレッサHD(1.12)、ほくやく・竹山HD(1.00)も利益率1%を超えており、6社全体の営業利益率は1.22%と前期から0.12ポイント上昇しました。

 

好業績を後押ししたのは、抗がん剤をはじめとするスペシャリティ医薬品の売り上げ拡大と、治療薬や検査キットといった新型コロナ関連製品の販売増加です。ただ、今年5月に感染症法上の分類が5類に引き下げられたことで、今期は関連製品の需要が縮小する見通し。医薬品市場は1.5%程度伸びる見込みですが、エネルギー価格高騰の影響もあり、全体としては厳しい事業環境となりそうです。

 

24年3月期は、メディパルHDとアルフレッサHDが増収増益を計画する一方、スズケンやほくやく・竹山HDは減収減益を予想。東邦HDとバイタルケーエスケーHDは、従来は営業外収益に計上していた情報提供収入を売上高に計上することにしたため前期との比較を開示していませんが、単純比較で2社とも減収で、東邦HDは営業利益も前期を下回る見込みです。スズケンとバイタルケーエスケーHDは、特定メーカーによる取引卸絞り込みの影響も予想に加味しています。

 

 【2024年3月期 大手医薬品卸の業績予想 】(単位:百万円、%)<社名/売上高/前期比/営業利益/前期比/営業利益率/前期比>メディパルHD 3,510,000 4.5 49,000 1.4 1.40|アルフレッサHD 2,744,000 1.8 32,000 6.1 1.17|スズケン 2,231,900 ▲ 3.6 17,000 ▲ 47.9 0.76|東邦HD 1,325,000 ― 11,500 ― 0.87|バイタルケーエスケーHD 576,000 ― 4,700 ― 0.82|ほくやく・竹山HD 260,000 ▲ 0.8 2,600 ▲ 1.1 1.00|※各社の決算発表資料をもとに作成。東邦HDとバイタルケーエスケーHDは、従来営業外収益に計上していた情報提供による収入を売上高に計上することとしたため、増減を開示していない

 

スズケンと東邦HD、新中計で組織再編に言及

スズケンと東邦HDは決算発表に合わせて新しい中期経営計画を公表しました。いずれも23~25年度を対象としていますが、そこには26年度以降の成長を見据えた事業基盤の構築に注力していく姿勢が現れています。

 

デジタル商材を扱うプラットフォーム「コラボポータル」を開発し、SSO(シングルサインオン=1回のユーザー認証によって複数のシステムを利用できる仕組み)で複数の協業先のソリューションを提供できるサービスを普及させたいスズケンは、今後3年かけてソリューション営業を育成し、本業の流通事業とソリューション事業で3対1の営業人員構成を目指すとしています。顧客との接触機会を、従来の訪問からデジタルとのハイブリッドに変化させることで「限られた営業人員であっても得意先への接触量拡大につながる」(浅野茂社長)と期待。最終年度の数値目標は、連結営業利益率1.5%以上、卸売セグメントの営業利益率1.0%以上を掲げています。

 

東邦HDも、2次医療圏を軸に地域の課題や実情に即した活動ができるように組織の再編を進めていく方針。AIなどの先端技術を取り入れることで強みとする顧客支援ビジネスも進化させ、地域創生に向けた取り組みに活かしていく考えです。

 

本業以外へのシフト、バイタルやメディパルで数値目標も

バイタルケーエスケーHDは、決算と同時に2035年に向けた長期ビジョンを発表。福祉用具や電化製品などのレンタル事業をはじめ、医療周辺ビジネスへの取り組みを加速し、売上高に占める割合を22年度の6%から35年度に20%に拡大するとしています。利益貢献への期待も高く、35年度には営業利益の4割を医療周辺ビジネスが占める計画です。

 

メディパルHDも昨年10月に策定した22~26年度の中計で、最終年度に経常利益1000億円を目指すとしています。その内訳は、主力事業の医療用医薬品とPALTAC品(化粧品・日用品、一般用医薬品)で5割、もう半分を動物用医薬品・食品加工原材料と医療機器・試薬、新規事業で上げる計画。現在は医療用医薬品とPALTAC品が経常利益の7割を占めていますが、向こう数年で他事業の比率を高めていく考えです。その一環として、昨年10月にJCRファーマと同社のライソゾーム病治療薬4剤のグローバル展開で提携したほか、今年3月には住友ファーマ子会社の住友ファーマフード&ケミカル(現MP五協フード&ケミカル)を買収しました。

 

卸各社は数年前から卸売事業に次ぐ収益源の確立に取り組んでいますが、ここにきて具体的な数値目標を伴って語られるようになってきました。現在はスズケンが「医療関連サービス」(エス・ディ・コラボによる物流や介護事業、デジタル事業など)で売上高の9%を稼いでいるのが目立つ程度ですが、本業を取り巻く環境が厳しさを増す中、多角化の取り組みは一層、本格化していきそうです。

 

【大手医薬品卸各社のセグメント構成】】<メディパルHD/アルフレッサHD/スズケン/東邦HD/バイタルケーエスケーHD/ほくやく・竹山HD>医療用医薬品等卸売*1/65.2/88.8/96.2/96.3/94.2/71.2|一般用医薬品等卸売*2/32.9/9.1/-/-/-/-|医療機器卸売-/-/-/-/-/25.3|医薬品等製造*3/-/1.8/1.9/0.7/-/-|薬局*4/-/-/3.8/6.7/3.2/5.1|その他/2.2/1.3/9.9/0.5/1.9/2.2

 

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