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肥満症、相次ぐ減量薬も「銀の弾」ではない…20年ぶりガイドライン見直しのWHO、担当幹部が指摘

更新日

ロイター通信

ノボノルディスクの肥満症治療薬「Wegovy」(ロイター)

 

[ロンドン ロイター]WHO(世界保健機関)が、20年以上前に策定された肥満管理ガイドラインの見直しを進めている。ノボノルディスク(デンマーク)の「Wegovy」など効果の高い新しい減量薬が相次いで開発されているが、WHOの担当幹部はロイターの取材に「これらの新薬は世界的な肥満率の上昇に対する『特効薬』ではない」と指摘した。

 

WHOの栄養・食品安全担当ディレクターのフランチェスコ・ブランカ氏によると、WHOはまず肥満の子どもや青年の治療ガイドラインを改訂し、その後、成人の治療に関する勧告を更新する予定だ。

 

WHOが肥満に関する世界的なガイドラインを発表したのは2000年が最後。WHOのガイドラインは、独自の治療指針を策定する資源のない国に青写真として活用されている。

 

ガイドライン見直しの一環としてWHOは、「ゼニカル」(英グラクソ・スミスクライン)のような古い薬から、Wegovyや「マンジャロ」(米イーライリリー)などの新しい薬に至るまで、子どもや青年に使用されるあらゆる薬剤のエビデンス評価をイタリアの研究所に依頼したという。

 

薬剤は包括的なアプローチの一部

ブランカ氏は「こうした薬剤についてこれまで行われてきた『解決策が見つかった』といったコミュニケーションは間違っている」と指摘。「肥満症治療薬は重要だが、それは包括的なアプローチの一部でなければならない」とし、「新薬は銀の弾ではない」と強調する。

 

ブランカ氏は、肥満の管理には食事や運動など薬以外の介入方法が不可欠だとし、それは効果の高い新薬が使えるようになっても変わらないと言う。WHOの最新のデータによると、世界の5~19歳の人口に占める肥満・過体重の人の割合は、1975年の4%から2016年には18%強まで上昇した。数にすると、3億4000万人以上の子ども・青年が肥満または過体重だということになる。

 

Wegovyやマンジャロはもともと、2型糖尿病治療のために血糖値をコントロールする薬剤として開発された。最近では、体重を15%ほど減少させる効果が示され、患者だけでなく投資家やセレブからも注目を集めている。

 

両剤はGLP-1アンタゴニストと呼ばれる薬剤の一種で、週1回、注射で投与する。脳への飢餓信号に影響を与え、胃が空になるスピードを遅くし、満腹感を長く感じられるようにする働きがあるとされる。ただ、研究によると、これらの薬剤による減量効果を維持するには、生涯にわたって投与を続けなければならい可能性がある。

 

Wegovyは米国と欧州で減量薬としてすでに承認されており、マンジャロは今年後半に肥満の治療薬として承認される見通しだ。肥満症治療薬には膨大な需要がある。今後、10種類もの薬剤が発売され、10年以内に市場は年間1000億ドル規模に達すると予想されている。

 

関連記事:肥満症治療薬、13兆円市場めぐり製薬企業の競争激化…ノボノルディスクの「Wegovy」に続くライバル

 

「蔓延」防止へ「真剣かつ大胆な行動が必要」

米国の医療機関では、治療指針を見直し、Wegovyと同様の薬剤の適切な使用方法を検討する動きが出ている。ある専門家は、幅広い患者への使用を推奨するが、特に過体重によって悪化する糖尿病や心臓病などを抱えたリスクの高い患者に優先的に使用すべきだと言う。

 

米国小児科学会は、長期的な影響についてはまだ研究がなされていてないと断りつつ、12歳以上の肥満の子どもにはこうした薬剤を使用することを推奨している。

 

WHOは、改訂後のガイドラインは以前のものより強固な方法論に基づき、最新の科学的知見も盛り込まれるとしている。小児・青年向けの新しいガイドラインのドラフトは今年末までに作成される予定だ。

 

ブランカ氏は、エビデンス評価を依頼したイタリアの研究機関を含め、ガイドライン作成に関わる組織や人は利益相反の懸念を回避するために広範な審査を受けたと語った。

 

ノボは今年初め、医療機関への資金提供や、自社製品の販売促進を目的とした研修の実施といったマーケティング行為により、英国製薬工業協会から資格停止処分を受けた。ブランカ氏は「われわれは潜在的な利益相反を徹底的にスクリーニングしている」と強調した。

 

ブランカ氏は、肥満が「蔓延している」と表現し、「真剣かつ大胆な行動をとらなければならない理由はいくつもある」と話した。

 

(Jennifer Rigby、編集:Michele Gershberg/Jane Merriman、翻訳:AnswersNews)

 

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