売り上げの4割を稼ぐ大型薬「ラツーダ」の特許切れに直面する住友ファーマ。4月に発表した5年間の中期経営計画では、2023年度を底に翌年から業績を急回復させる絵を描きましたが、説明会ではアナリストからその現実味を問う声も上がりました。
売り上げ2000億円消滅
住友ファーマは4月28日、2023~27年度の中期経営計画を発表しました。最大のテーマは、今年2月に北米でLOE(独占販売期間満了)を迎えた抗精神病薬「ラツーダ」のパテントクリフをいかに乗り切るか。同薬の21年度の北米売り上げは2041億円で、売上収益全体の36%を稼ぎ出した同社最大の主力製品。後発医薬品の参入によって、今期はそのほとんどが一気に吹き飛ぶことになります。
中計で示された収益見通しによれば、23年度は売上収益が3620億円まで落ち込み、コア営業利益は620億円の赤字に転落します。22年度の業績予想と比較すると、売上収益は1935億円減、コア営業利益は784億円減となる見込み。ラツーダの特許切れに加え、国内で2番目に売り上げの大きい糖尿病治療薬「トルリシティ」の販売提携が昨年末で終了したことも痛手となります。
「基幹3製品」が業績回復リード
一方、24年度はそこから一転し、売上収益、コア営業利益ともに前年から1000億円ほど積み増す計画になっています。中計の目標としては、23年度を起点として24~27年度に売上収益を年平均12%以上伸ばし、コア営業利益は4年間の累計で1920億円以上を確保することを掲げました。最終年度の業績は売上収益6000億円、コア営業利益400億円が目安になります。
24年度以降の急回復のカギを握るのが、住友ファーマが「基幹3製品」と位置付けて21年から米国で販売している▽前立腺がん治療薬「オルゴビクス」▽子宮筋腫・子宮内膜症治療薬「マイフェンブリー」▽過活動膀胱治療薬「ジェムテサ」――です。3剤の21年度の売上収益は計177億円でしたが、それが24年度には2000億円前後まで拡大することを想定(販売提携先の米ファイザーからのマイルストン収入などを含む)。北米のグループ会社再編による構造改革で4億ドルのコストを削減し、売り上げ、利益ともに大幅な増加を見込みます。
「本当にこんなに伸びるのか」
中計発表と同日に開かれた説明会では、パテントクリフからのV字回復を掲げる意欲的な計画に対して、アナリストから「高い目標を掲げた魅力的な計画」と評価する声があった一方、その現実味を問う声も聞かれました。
「これまでのトラックを見ていると、(基幹3製品が)本当にこんなに伸びるのかというのが気になる」とのアナリストからの質問に対し、野村博社長は「確かにオルゴビクスとマイフェンブリーについては、これまでの伸びはわれわれの期待と少し違うところはあった」としつつ、「(2剤を保有する)マイオバントを買収するときにポテンシャルは検討している。われわれの手元に来たからには伸ばしていく努力をしっかりやっていこうということでこのような目標設定にしている」と応じました。
2年連続の営業赤字は避けなければならない
一方で、「(23年度から)2年連続でコア営業利益を赤字にすることは避けなければならない」とも話し、仮に24年度の売り上げが想定通りに伸びない場合は特許切れ製品の売却などによって収益を確保する考えも示しました。住友ファーマは昨年、米国で販売していたCOPD治療薬「ブロバナ」と喘息治療薬「ゾペネックスHFA」の販売権を印ルピンに、不眠症治療薬「ルネスタ」を米ウッドワードに、それぞれ売却しています。
住友ファーマが業績回復を託す基幹3製品は、いずれも2019年の英ロイバントとの戦略提携に関連する製品。提携ではロイバント子会社で3製品を開発した2社の株式の一部を取得していましたが、住友ファーマはその後、計2600億円で未保有分を取得して両社を完全子会社化しました。前の中計(18~22年度)で設定していた最大6000億円のM&A枠はすべて、ロイバントとの戦略提携と2社の買収につぎ込んでいます。それだけに、住友ファーマとしては3製品の最大化は何としても実現したいところです。
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住友ファーマは21年に欧州事業を売却しており、新中計では米国、日本、中国・アジアの3地域で収益力の強化に取り組みます。最終年度に目安とする売上収益6000億円のうち5000億円は米国と中国・アジアが占め、日本は1000億円で「何とか横ばいを保つ」(野村社長)考えです。薬価の毎年改定で事業環境は厳しくなっていますが、現在約1000人いるMRは「一度壊すと復活させるのは難しい」(同)として削減せず、販売提携などで活用の機会を探るとしています。
「ラツーダクリフの二の舞いは起こさない」
前の中計では、ラツーダのあとを担う成長エンジンの確立を最大のテーマに掲げていましたが、大型化を期待して経営資源を投入した抗がん剤ナパブカシンの開発は頓挫。500億円規模の売り上げを期待して市場投入したパーキンソン病治療薬「キンモビ」などの新製品も振るわず、逆に減損損失の計上で経営の足を引っ張りました。
野村社長は前中計の5年間について「ラツーダ一本足でやってきた中で、それに代わるものがなく窮地に立った」と振り返りました。ロイバントとの提携で何とか穴埋めした形ですが、3製品を米国で発売したのは21年とギリギリのタイミングでした。
ハードな5年になる
新中計の5年間についても、収益を確保しつつ将来を支える新製品の開発を進めるという点で「なかなかハードな5年間になる」と野村社長は言います。次期主力品として大塚製薬と共同開発している抗精神病薬ulotarontは24年度に米国で、27年度に日本で発売し、中計最終年度に200億円弱の売り上げを計画。新規事業として取り組んでいる再生・細胞医薬事業とフロンティア事業も中計期間中に本格化させ、次の中計の最終年度(32年度)にはそれぞれ1000億円規模の事業に育てる方針を示しています。
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パテントクリフは製薬企業の宿命であり、基幹3製品にせよulotarontにせよ、いずれはラツーダと同じようにLOEを迎えて売り上げは激減します。野村社長は「そうしたときにラツーダクリフの二の舞いを起こさないことが重要だ」と強調し、「一本足ではなく、これからはたくさんのモダリティでわれわれを支えるものをつくっていかなければならない」と話しました。
新中計の5年間は大型のM&Aを行う余地はなく、自社のアセットを育てていく期間となります。次の中計が始まる28年度以降は、そこから生まれる新製品で飛躍的な成長を遂げることをイメージしていますが、そのためには、野村社長が「この5年間をしっかりやっていかなければ、そういう次の5年間も来ない」と言うように今回の中計の成否が非常に重要になります。