(写真:ロイター)
[ニューヨーク ロイター]ノボ・ノルディスク(デンマーク)の「Wegovy」(日本製品名・ウゴービ)をはじめとする肥満症治療薬への需要は大きい。業界幹部やアナリストらは、肥満症治療薬の市場が10年以内に年間1000億ドル(約13.5兆円)に達すると予想している。
米ファイザーや同アムジェンなどの大手から同アルティミューンといった中小企業まで、多くの製薬企業がWegovyと同様の減量療法の開発に取り組んでおり、いずれの企業も将来の重要な成長ドライバーと位置付けている。ノボは5月4日発表の2023年1~3月期決算で、Wegovyへの旺盛な需要を背景に予想を上回る利益を計上。同社はロイターに対し、新規市場での発売よりも需要の大きい米国への供給を優先させる方針を明らかにした。
米イーライリリーは、Wegovyの類似薬である「マンジャロ」について、今年後半に米国で肥満症治療薬としての承認取得を見込んでいる。
Wegovyもマンジャロも週1回投与の注射薬で、もともとは2型糖尿病の治療薬として開発されたGLP-1受容体作動薬という薬物群に属する。血糖値を下げる効果に加え、脳への空腹シグナルに影響を与えることで食欲を減退させるとともに満腹感を亢進する作用を持つ。
ノボやリリーのライバルとなる企業は、より便利で、健康的な効果をもたらす治療法の開発に取り組んでいる。市場自体が大きいため、たとえわずかなシェアしか取れなくても数十億ドルの売り上げをもたらす可能性があるからだ。
ファイザー「主力製品の1つに」
ファイザーのインターナルメディシン研究ユニットで最高科学責任者を務めるビル・セッサ氏は「われわれは全力で肥満症治療薬の開発に取り組んでいる」と話す。同社は2つの経口GLP-1受容体作動薬の開発を中期臨床試験の段階で進めており、年内にどちらを後期試験に進めるか選択する方針だ。セッサ氏は「肥満症治療薬はファイザーの主力製品の1つになるだろう。開発をさらに加速させることができるのであれば、そうするつもりだ」と強調する。
WHO(世界保健機関)によると、世界の肥満人口(成人)は6億5000万人以上で、1975年に比べて3倍に増加している。約13億人が過体重とされており、心臓病や糖尿病の悪化を引き起こしている。
中でも米国は潜在的な患者数が多く、他国に比べて医薬品の価格が高い。業界のアナリストや製薬企業の幹部は、肥満症治療薬の売り上げの9割を米国が占めるとみている。
「代謝性疾患の治療法に大きな変化が起きている」と話すのは、BMOキャピタル・マーケッツのアナリスト、エヴァン・セイガーマン氏だ。セイガーマン氏は、2030年代の早い時期にGLP-1受容体作動薬とその類似薬の年間売上高は1000億ドルを突破し、このうち500億ドル以上をリリーのマンジャロが占めると予想している。
モーニングスターのアナリスト、タミアン・コノーバー氏は、肥満症治療薬の市場について「5~8番目に出た薬は年間10億ドルを超えるブロックバスターになった」スタチンや高血圧症治療薬の市場に似ると考えている。
アンメットニーズ
経口GLP-1受容体作動薬を開発しているファイザーは、経口薬が注射を避けたい人たちへのアピールになると考えている。後期臨床試験では、すでにWegovyやマンジャロを投与されている患者を登録し、ファイザーの経口製剤に切り替え可能であることを示す計画だ。リリーも経口GLP-1受容体作動薬の開発に取り組んでいる。
ノボはすでに、Wegovyと同じ有効成分(セマグルチド)の経口薬を糖尿病治療薬として販売しているが、その成功は限定的だ。ノボの広報担当者は「治療選択肢が多く存在することは患者にとって望ましい進歩であり、肥満症治療のアンメットニーズが重大であることの証だ」と話す。
米ニューヨークのノースウェルヘルスで肥満治療のチーフを務めるジェイミー・ケイン博士は、新しい肥満症治療薬は「非常に有望だ」と指摘。「どの患者がどの薬剤に良く反応するかはわからない。類似していても同じでない多様な薬剤があることは、おそらく治療に役立つだろう」と言う。
医師らは、患者が体重減少を維持するには長期的な投与が必要になると予想している。昨年、ノボの資金提供によって行われた研究では、治療を中止した患者は減少した体重の3分の2が中止1年後に戻っていたことが明らかになった。
中小バイオテックも巨大市場うかがう
中小のバイオテクノロジー企業も肥満症治療薬の市場をうかがっており、大手製薬企業が提携に資金を出すことを望んでいる。アルティミューンのヴィピン・ガーグ最高経営責任者は「この分野で勝負したい複数の企業が関心を寄せている」と話している。
同社が開発している「pemviditude」は、GLP-1とグルカゴンという別々のホルモンを標的とする薬剤で、現在、臨床第2相(P2)試験の段階にある。ガーグ氏は、この組み合わせは非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の原因となる肝脂肪を減らすのにも有効な可能性があり、これも大きなアンメットニーズだと指摘。「900億ドルか、800億ドルか、500億ドルかはわからない。しかし、それは本当に重要なことだろうか」と話し、「市場のたった10%でも非常に大きなパイを取ることになる」と強調する。
独ベーリンガーインゲルハイムは、デンマークのバイオテクノロジー企業、ジーランド・ファーマと同様の二重作用の薬剤を開発している。米オプコ・ヘルスは、副作用が少ないと期待される肥満症治療薬のP2試験を終了した。GLP-1受容体作動薬は副作用として吐き気や嘔吐を引き起こすことがある。
中国のリーダーメドは、オプコの化合物を中国で開発・販売することで合意しているほか、欧米の大手製薬企業とも提携に向けた交渉を行っている。仏サノフィの元研究主任で、現在はオプコの社長を務めるエリアス・ゼルホウニ氏は「この市場は無視できるものではない。5~10社が競合する市場になるだろう」との見通しを示した。
(Michael Erman、編集:Michele Gershberg/Bill Berkrot/Toby Chopra、翻訳:AnswersNews)