MR認定センターが4月24日、2022年に行った「MR実態調査」の報告書を公表しました。MRの存在価値について検証したもので、情報提供のデジタル化が進む中でも面会の意義が確認されたと結論付けていますが、一方で医師が求める情報に十分対応しきれていない側面も浮き彫りとなりました。同センターは10年前にも同様の趣旨で調査を行っており、比較してみると医師側の意識の変化もうかがえます。
医師とMR、面会の評価にギャップ
報告書は実態調査の結果について「MRは適切な情報提供活動を行っており、医師・薬剤師のニーズは満たされていると推測される」と総括しました。医師・薬剤師へのアンケートでは、それぞれ9割以上が「MRとの面会に価値がある」と回答。有効性・安全性に関わる情報の伝達という社会的役割についても、医師の8割以上が「合致する」と回答しており、MR活動は好意的に受け止められていると分析しています。
一方、アンケート調査の結果からは、簡潔に正確で適切な情報提供を行えるかどうかが面会の価値を決めるポイントであることがわかり、面会価値を高めるには「付加価値となりうる『MRからしか得にくい情報』『刻々と変化する情報』を提供できるかという点が課題だ」と指摘しています。
医師がMRとの面会を評価するのは、新型コロナウイルス感染症による訪問規制によって情報が入りにくくなったことと関係しているかもしれません。MRの訪問回数を10年前の前回調査と比較すると、その実態が見えてきます。前回は面会頻度として「ほぼ毎日」が15%、「週3~4日程度」が40%を占め、「まったく面会しない」は2%程度でした。しかし今回は、「最近6カ月間に面会したMRの人数」として調べた結果、「0人」が21%に上り、「1~2人」と「3~4人」を合わせても30%にとどまりました。
一方、MRは面会の価値を認めている医師が75%しかいないと考えていて、意識の差が浮き彫りになりました。いわゆる‟MR不要論“によって自己肯定感が薄れていることを感じさせます。19年4月に施行された「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」により、MRが提供できる情報は極めて限定的となりました。コンプライアンス意識は向上したものの、MR活動という点では物足りなさや無力感を生んでいるという声も現場からは聞こえてきます。
評価は薄氷
販売情報提供ガイドラインの存在は、MR活動に対する医師の評価に何らかの影響を与えているとみられます。たとえば、ガイドラインでは単純な事実を超えた他社製品との比較が規制されていますが、これは倫理的な正しさを印象付ける半面、医師にとって情報に対する不足感やもどかしさを感じさせ、実際、そうした声はよく聞かれます。
MR数との関連も考える必要があるかもしれません。前回調査の12年は約6万4000人のMRが存在しましたが、22年は5万人を割り込むとみられています。当時より2割以上減少していることに加え、新型コロナの影響で訪問が抑制されたことが、医師の情報収集に対する意識にどのような変化を与えているのかも気になるところです。
また、今回の調査結果で微妙なのは、「面会に価値がある」の中でも「やや価値がある」と答えた医師が39%で最も多かった点です。アンケートでは「不快に思ったMRがいる」と答えた医師は全体の42%に上っており、「常識・モラルにかけていた」「気遣いや配慮がなかった」といったマナーの面だけでなく、「情報内容が期待外れ」「情報が不正確」といった活動の根本にかかわる指摘もありました。「やや価値がある」と答えた医師は小さなことで評価を変える可能性がある層と見ることもでき、92%の医師が面会に価値を認めているとはいえ安心はできません。
「他施設の処方状況」が知りたい医師、「流通情報」を重視するMR
今回の実態調査では、医師らがMRを最も頼りにする情報について十分対応できていないことが課題として浮かび上がりました。医師がMRを頼る情報としては「他施設の薬剤処方状況」「原料や製品の製造国など製造関連情報」「講演会・研究会の案内」が上位に挙げられましたが、MR自身が考えたのは「出荷調整・欠品などの流通関連情報」がトップでした。
MRが流通関連情報を重視するのは昨今の状況を反映していると言えますが、医師はそれよりもほかの施設でどのような薬剤が処方されているのかが気になるようです。これは薬剤師も同様でした。販売情報提供ガイドラインで説明が難しくなった「他剤との違い」は、MRでは4番目に、医師では7番目に挙がっています。
20代医師 将来を左右か
処方したことのない薬剤について医師が最も頼りにしている情報源は、30代以降のすべての年代でMRがトップでした。10年前の調査(このときの設問は「薬剤を新たに処方する際に最も影響を与える情報源」)では、20代と30代で「同僚などほかの医師」が最多でしたが、この年代が10年たって30代、40代になるとMRを頼るようになったということになります。
報告書は「医師経験を重ねる中でMRとの接点が増加し、次第にMRへの信頼が高まることが推察された」と分析しています。インターネットなど情報収集の幅が広がってきましたが、フェイス・トゥ・フェィスはなお重視されているようです。処方経験のない薬剤について「直接面会するMR」を最も頼りにしている医師は全世代トータルで28%でしたが、「Web上だけで面会するMR」は3%しかいませんでした。
ただ、デジタル・ネイティブである20代で「直接面会するMR」を挙げたのは8%にとどまっています。この年代に価値を感じさせることができるかどうかが、MRの将来を左右することになるのかもしれません。
参考までに、10年前の調査では、オンコロジーや抗体医薬など専門性の高い情報提供を行うMRについて、「増加する」と答えた医師は約4割だった一方、MRでは8割以上を占めました。この点では、当時のMRは自らの将来を冷静に見抜いていたと言えそうです。