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「マイクロバイオーム関連薬」開発活発化―腸疾患、がん、中枢神経疾患…対象幅広く

更新日

前田雄樹

ヒトの体内に存在する細菌を活用して病気を治療する「マイクロバイオーム関連医薬品」の研究開発が活発化しています。昨年11月、オーストラリアで腸内細菌を利用した医薬品が世界で初めて承認を取得し、米国でも同月末に承認されました。開発のターゲットとなっている疾患は、腸疾患、がん、中枢神経系疾患など幅広く、海外バイオテックを中心に競争が激しくなっています。

 

米豪で承認

ヒトの腸内には約1000種類・約100兆個の腸内細菌が存在しているとされ、その数はヒト1人の体を構成する細胞の数(37兆個や60兆個と言われる)を上回ります。ヒトの腸内のように、特定の環境に生息する微生物の集合体は「マイクロバイオーム(微生物叢)」と呼ばれ、腸だけでなく口腔や鼻腔など体のさまざまな部分に存在しています。

 

マイクロバイオームは健康状態と密接に関わっており、腸内細菌のバランスの乱れがさまざまな疾患に深く関わっていることが明らかになってきました。マイクロバイオームが関連していると言われる疾患には、▽不眠▽うつ病▽自閉症▽パーキンソン病▽動脈硬化▽糖尿病▽肥満▽炎症性腸疾患▽アトピー性皮膚炎――などがあり、乱れた腸内細菌のバランスを整えることでこうした多様な疾患の治療につながるのではないかと期待されています。

 

マイクロバイオームの治療応用のアプローチは幅広く、中でも糞便移植(FMT、健康な人の便を移植することで正常なマイクロバイオームを回復させる治療法)は難治性のクロストリジオイデス・ディフィシル感染症(CDI)や潰瘍性大腸炎といった疾患を対象に、国内でも臨床研究の形で行われています。

 

再発性CDIで有効性

FMTを応用した医薬品の開発も進んでおり、2022年11月にはオーストラリアのスタートアップ、バイオームバンクが開発した「BIOMICTRA」(対象疾患・再発性CDI)がマイクロバイオーム医薬品として同国で世界初の承認を取得しました。同薬は、ドナーの便から抽出した腸内細菌を含む液体をシリンジに入れて凍結したもので、解凍後、患者の腸内に直接投与します。

 

同月末には、BIOMICTRAと同様に液体を腸に直接投与するタイプの生菌製剤「REBYOTA」が米国で承認。開発したのはスイスのフェリング・ファーマシューティカルズで、こちらも再発性CDIを対象としています。

 

CDIはクロストリジオイデス・ディフィシルを原因菌とする感染症。治療は抗菌薬で行いますが、これによって腸内細菌叢が変化すると、クロストリジオイデス・ディフィシルが増殖して毒素を出し、下痢や発熱などの症状を引き起こします。BIOMICTRAやREBYOTAは、抗菌薬によって乱れた腸内細菌のバランスを元に戻すことで再発のサイクルを断ち切る治療で、REBYOTAの臨床第3相(P3)試験ではプラセボに比べて高い治療成功率を示しました。

 

開発競争激しく

再発性CDIはマイクロバイオーム医薬品の開発が最も進んでいる領域で、BIOMICTRAとREBYOTAのほかにも、米セレス・セラピューティクスが「SER-109」を米国で申請中。同薬は腸溶カプセル製剤で、先行2剤と異なり経口投与が可能です。米FDA(食品医薬品局)は同薬を優先審査に指定しており、4月下旬に承認の可否について判断が示される見通しです。

 

一方、フェリングもREBYOTAに続くマイクロバイオーム医薬品として再発CDIに対する経口製剤「RBX7455」を開発しており、現在、P3試験を実施中。米ベダンタ・バイオサイエンシズも再発性CDIをターゲットとする経口製剤「VE303」のP2試験を終えていて、今年P3試験に入る予定です。

 

先にも書いた通り、マイクロバイオームが関連する疾患は幅広く、CDI以外の領域でも薬剤の開発が進められています。

 

【マイクロバイオーム創薬に取り組む主な企業】|※オレンジは承認。CDI=クロストリジオイデス・ディフィシル感染症/<社名/主な開発対象疾患>バイオームバンク/再発性CDI(オーストラリア承認)|フェリング・ファーマシューティカルズ/再発性CDI(アメリカ承認)|セレス・セラピューティクス/再発性CDI/移植片対宿主病/潰瘍性大腸炎|4Dファーマ/がん(免疫療法)/喘息/過敏性腸症候群/クローン病|アクシアル・バイオセラピューティクス/自閉症関連過敏症/パーキンソン病|ベダンタ・バイオサイエンシズ/CDI/炎症性腸疾患/がん(免疫療法)|シンロジック・セラピューティクス/フェニルケトン尿症/ホモシスチン尿症/腸管性高シュウ酸尿症|フェデレーションバイオ/腸管性高シュウ酸尿症|広州知易生物科技(Zhiyi)/過敏性腸症候群/潰瘍性大腸炎/がん(免疫療法)/CDI|バイオパレット/炎症性腸疾患/がん(免疫療法)/中枢神経系|四川厭気生物科技(Yanyang)/膣炎|メタジェンセラピューティクス¥※各社公表のパイプラインをもとに作成

 

腸疾患では、潰瘍性大腸炎、クローン病、過敏性腸症候群などが開発のターゲットとなっており、セレスは潰瘍性大腸炎(P2試験)で、英4Dファーマは過敏性腸症候群(P2試験)とクローン病(P1試験)で、それぞれ臨床試験を実施。ベダンタも炎症性腸疾患を対象とした製剤を開発しています。

 

マイクロバイオームはヒトの免疫系にもさまざまな影響を与えており、腸内細菌の状態を改善することで免疫チェックポイント阻害薬の効果が高まったとする研究結果も報告されています。実際、がんでもマイクロバイオーム医薬品の開発は行われおり、4Dファーマやベダンタが免疫チェックポイント阻害薬との併用を中心に臨床試験を進めています。

 

国内でも機運

現在、開発が進められているのは野生型の菌を使って細菌のバランスを改善するアプローチが中心ですが、細菌の機能を制御するなどの方法も検討されています。神戸大発のベンチャー企業バイオパレット(神戸市)は、ゲノム編集で治療に適した細菌をつくる研究を進めており、炎症性腸疾患、がん免疫、中枢神経系疾患などの領域で非臨床研究を実施中。米アクシアル・セラピューティクスは、自閉症に関連する特定の腸内細菌代謝物を吸収する薬剤を開発しています。

 

国内では2017年に日本マイクロバイオームコンソーシアム(JMBC)が設立され、産学連携による産業化の推進に取り組んでいます。JMBCには22年3月末時点で33の企業・団体が加入しており、そこには武田薬品工業、アステラス製薬、第一三共といった大手製薬企業も名を連ねています。

 

PMDA(医薬品医療機器総合機構)は20年に「マイクロバイオーム専門部会」を立ち上げ、昨年2月には開発の留意点などをまとめた報告書を公表するなど、規制面での議論も進みつつあります。今年1月には、順天堂大とメタジェンセラピューティクス(山形県鶴岡市)が潰瘍性大腸炎を対象に行う「抗菌薬併用腸内細菌叢移植療法」が先進医療として承認されました。マイクロバイオーム関連の研究開発は欧米や中国が先行していますが、日本でも機運が高まってきていると言えそうです。

 

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