(写真:ロイター)
[ロイター]バイオテクノロジー企業の新規株式公開(IPO)は、米国の利上げペースが鈍化する2023年後半に回復するとみられている。ただ、米国の景気は減速しており、投資家は臨床試験の段階まで進んだ新薬候補を持つ企業を選ぶ傾向が強まるだろう。
インフレ抑制のために、中央銀行による積極的な利上げが世界的に行われている。安価な資金の時代は終わり、22年のIPOはすべてのセクターで前年から一転して急落した。
バイオテックのセクターを見てみると、21年は152件のIPOで250億ドル以上を調達したのに対し、22年は47件で約40億ドルにとどまった。しかし今年は、より多くのバイオテックが米国IPO市場を開拓することが予想されているという。業界の専門家によれば、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げの規模を縮小すること、民間投資ラウンドが臨床試験に必要な資金を十分に調達できていないこと、がその理由だ。
相次いだ前臨床開発品への失望
それでも、開発品がまだ臨床試験の段階まで進んでいない企業は、投資家の注目を集めるのが難しいかもしれない。金融情勢が厳しい上、一昨年のIPOブームで上場した企業では前臨床段階の開発品に対する失望が相次いでいるからだ。
ポーラーキャピタルでバイオテックファンドのファンドマネジャーを務めるデビッド・ピニガー氏は「過去数年を振り返ると、何でも市場に出回っているという状況だったが、それによって投資家の目も肥えており、臨床的エビデンスの重みははるかに増している」と指摘する。
サナ・バイオテクノロジー、テナヤ・セラピューティクス、ヴァーパックス・ファーマシューティカルズなど、21年に上場した前臨床段階のバイオテクノロジー企業のいくつかは、現在、IPO価格を大幅に下回る株価で取引されている。マクロの厳しい状況に加え、いくつかの新薬候補で臨床試験の結果が思わしくなかったことや、大型買収が少ないことも、投資家の関心を低下させ、企業の評価額を押し下げた。
承認済みの新薬を持たない小規模なバイオテックでは、資金的に厳しい状況になっている企業もあり、研究プログラムの中止やレイオフによるコスト削減を強いられている。
22年後半に回復し始めたセンチメントは年を越しても続いている。小規模バイオ企業のパフォーマンスの目安となるSPDR S&PバイオテックETFは、昨年最大の年間損失を計上したが、今年に入ってからは約3%上昇している。
見通しは明るい
21年2月と比べるとバイオテック銘柄はまだ50%低い水準にとどまっているが、アナリストやバイオテクノロジー業界関係者は底を打ったと見ている。さらに、数十億ドル規模の買収の可能性があることや、ゲノム編集、標的型抗がん剤といった分野でイノベーションの兆しが見られることから、今年の見通しは明るいという。
EYのレポートによると、バイオ製薬企業は昨年12月初旬の時点で1兆4000億ドルを上回る取引能力を持っている。製薬大手は主力製品の特許切れに直面しており、有望なアセットを求めている。
ソーンバーグ・インベストメント・マネジメントのポートフォリオ・マネジャー、ショーン・サン氏は「これまでは資本をせき止めるダムがあった」とし、「私たちは今、ディスインフレの兆候が見られ、リスク選好が改善されているスイートスポットにいる。1つないし2つのIPOが十分な関心を集めることができれば、水門が開くだろう」と話す。
アナリストは、投資家が関心を寄せる分野として、肥満症治療薬、アルツハイマー病治療薬、細胞・遺伝子治療、mRNA技術などを挙げている。市場は金利引き下げの可能性がより明確になるのを待っており、バイオテクノロジーのIPOが大幅に増えるのは今年後半になる見込みだという。
投資家は、強固な臨床データとともに、上場後に会社を成功に導くことができる経営陣を有する企業を求めている。
SMBC日興証券のアナリスト、デビッド・ホアン氏は「バイオテクノロジー不況の明るい兆しは、企業が興味深いサイエンスを保有しているからといって必ずしも高い評価を受ける資格があるとは限らないということを、企業自身が認識しているということだ」と指摘。「企業が自社のストーリーを発信し、パイプラインを前進させるためにとりうる方法は、過去2年と比べて改善してきている」と語った。
複数のバイオテクノロジー企業は今年、すでにIPOの申請を行っている。臨床段階の開発品を持つミネラリス・セラピューティクスとストラクチュア・セラピューティクスは上場後に市場デビューを成功させている。
(Amruta Khandekar/Bhanvi Satija、編集:Alden Bentley、翻訳:AnswersNews)